著者
京野 穂集 竹内 崇 武田 充弘 池井 大輔 高木 俊輔 治徳 大介 西川 徹
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.361-366, 2012-10-15 (Released:2016-06-18)
参考文献数
7

自殺手段として飛び降りを選択した患者と,刃物による自傷を選択した患者との間では,どのような共通する特徴や差異があるかについて調査した。対象は2006年7月より2011年6月までの5年間に,自殺関連行動により救急搬送されERセンター救急科に入院となった患者718名のうち,自殺手段として高所から飛び降りた群(以下「飛び降り群」とする)(n=23名)と,浅いリストカットを除いた刃物による重篤な自傷(頸部,胸腹部,大腿部,腱断裂など)を用いた群(以下「刺傷群」とする)(n=21名)とを比較した。飛び降り群では,男性8名,女性15名と女性の割合が高かったが,刺傷群では男性14名,女性7名と男性の割合が高かった。今回の調査では,飛び降り群より,刃物による重篤な自傷群において,男性の比率がより高い傾向にあることが明らかとなった。また,両群ともに全体統計と比べ内因性精神障害(ICD-10診断のF2+F3)の割合が高い傾向にあった。 自殺企図の要因についてF2圏に注目してみると,飛び降り群(n=7)では自殺企図の要因として,心理社会的要因が半数を占めるのに対して,刺傷群(n=5)では全例とも幻覚妄想状態による自殺企図であることがわかった。刺傷という手段は飛び降りと比べ,より幻覚妄想に親和性の高い企図手段である可能性がある。
著者
西川 徹
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.131-134, 2014 (Released:2017-02-16)

本シンポジウムでは,4 名のケタミンによる抗うつ効果の研究者が,最近得た成果について講演した。初めに,世界で初めてうつ病患者の治療に低用量のケタミンを導入した,Yale大学精神科の Krystal 教授が単独で投与した低用量ケタミンの抗うつ作用について最新の知見を報告した。次に,札幌鈴木病院の岡本主任医長が国立精神・神経医療センターで行った,難治性うつ病への修正電気療法において,麻酔にケタミンを使用する方が通常の propofol を投与するより優れていることを示した。3 番目の,浜松ホトニクスの塚田 PET センター長は,サルにおける PET 脳画像解析を進め,低用量のケタミンが NMDA 型グルタミン酸受容体遮断薬としてだけでなく,セロトニン取り込み阻害薬としても作用することを明らかにした。最後に,ミシガン大学の Domino 教授が抗うつ効果と基礎研究がもたらした謎のいくつかを説明する,ケタミンの多様な神経薬理学的メカニズムを展望した。
著者
石渡 小百合 西川 徹
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.135-144, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
51

近年,N-methyl-D-asparate(NMDA)型グルタミン酸受容体遮断薬が,統合失調症の陽性・陰性症状および認知機能障害と酷似した異常を誘発する現象に基づいて,本症にNMDA受容体の機能低下が関与すると考えられるようになり,『グルタミン酸伝達低下仮説』として広く受け入れられている。この低下を引き起こすメカニズムの1つとして,NMDA受容体のコ・アゴニストで,その機能促進作用をもち生理的活性化に不可欠な,内在性D-セリンの細胞外シグナルが減弱する可能性がある。また,D-セリンを含む,NMDA受容体機能促進物質が,陰性症状,認知機能障害のような難治性症状を改善することが期待され,実際に,臨床試験での効果も報告されている。そこで,本稿では,D-セリンの代謝・機能の分子細胞機構に関する主な知見を紹介し,統合失調症の病態との関連や新しい治療法開発における意義について概説する。

2 0 0 0 OA 脳の病態解明

著者
貫名 信行 岩坪 威 井原 康夫 祖父江 元 西川 徹 岩坪 威 井原 康夫 祖父江 元 西川 徹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

「病態脳」の研究期間において学問領域を新たに展開し得た業績としては前頭側頭葉認知症や筋萎縮性側索硬化症ALSの病態関連分子としてのTDP-43の同定である。本研究班はこれに貢献するとともにALS関連分子として同定されたFUS/TLSの機能解析において先駆的な研究を展開し、またALSにおけるRNA editing病態の解析といった世界的にもユニークな研究を展開した。また神経変性疾患におけるタンパク質分解系の役割としてオートファジーの研究を展開し、その治療応用などの方向性も示した。アルツハイマー病やパーキンソン病の病態の基礎研究を進展させるとともにさまざまなモデル動物も作製できた。精神疾患においてはゲノム異常と関連する研究において先端的な研究を行い、新たな精神発達遅滞遺伝子の同定や一部の統合失調症の家系解析から新たな病態仮説を提唱した。またゲノム工学を用いた自閉症マウスモデルの作製にも成功した。さらにこれらの疾患関連遺伝子の遺伝子導入やノックアウトにより作製されたモデルマウスの行動異常解析が系統的に行われるようになり、今後の研究展開の基盤ができた。これらの研究の成果の一部はすでにNature, Nat Cell Biol, Nat Biotech Nat Struct Mol Biol, Cell等の一流国際誌やJ. Neurosci, Biol Psychiatryといった一流専門誌に多く発表され、これらを含む約1700編の英文論文が発表された。「統合脳」の一翼として活動することにより、病態脳科学という領域を形成し、今後の統合的脳疾患研究の基盤を形成することが出来た。またこれらの成果を一般に向け公開するとともに、「包括脳」として今後より広く研究支援活動を行うことも可能となった。本年度は5年間の「病態脳」研究成果をまとめ、冊子およびCDとして報告書を作成し、領域内外に公開した。
著者
中野 賢英 福成 信博 坂上 聡志 西川 徹 相田 貞継
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.148-153, 2017 (Released:2017-11-16)
参考文献数
15

医療の技術革新が進む中で,甲状腺濾胞性腫瘍はいまだその診断が非常に難しい疾患の一つである。病理学的診断方法の特殊性もあり,確立した術前診断方法は得られていない。一方で,新しい技術の開発や様々な評価法の検討が,正診率の向上に寄与していることも事実である。画像診断はその中でも重きを置かれる分野であり,超音波検査を筆頭に多くの知見が得られているが,現状では,画像所見だけではなく,臨床経過,細胞診結果,サイログロブリン値などの臨床検査結果を踏まえて総合的に検討し,治療方針を判断する必要がある。今後より正確な診断が可能となるよう,さらなる知見の積み重ねが期待される。
著者
日比野 英彦 海野 麻未 高島 瑞夫 西川 徹 野田 恭平 高橋 清久
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
油化学 (ISSN:18842003)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.341-346, 1992-04-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
26

Although clinical attempts have been made to treat patients with senile dementia using phosphatidylcholine (PC) or acetylcholine (Ach) esterase inhibitors to restore central cholinergic transmission by increasing Ach contents in the brain, definite positive results have yet to be obtained. To investigate further the influence of the systemic administration of PC on brain Ach, we measured choline (Cho) and Ach contents in discrete brain regions of rat by HPLC with an electrochemical detector, following an acute administration of PC. Cho contents increased in the frontal cortex, striatum and substantia innomimata after acute intraperitoneal administration of soybean PC in liposome form. Cho contents were not affected in any region after acute injection of egg PC. Ach contents were not affected significantly in any brain region after acute administration of each PC substance. It thus follows that Cho contents increase by the systemic administration of highly purified PC, and PC may possibly pass the blood brain barrier. However, PC administration is not capable of accelerating Ach synthesis in the brain.
著者
南角 学 柿木 良介 西川 徹 松田 秀一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0526, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】臨床場面において,臼蓋形成不全によって股関節痛を伴う股関節疾患に対して,大腿骨と臼蓋の安定化を図りながら,動作の改善を目指すことは多い。臼蓋形成不全による骨形態の変化は,大腿骨と臼蓋の構造的な安定性の破綻をきたすとともに股関節の安定性に関わるその他の因子の機能にも影響を及ぼす。特に,股関節周囲筋の筋出力や筋張力によって大腿骨頭に加わる力の大きさや方向が変化することで股関節の安定性に関与することから,これらのメカニズムを考慮しながら理学療法を展開していくことは重要である。しかし,臼蓋形成不全と股関節の安定化機構に関わる股関節周囲筋の関連性を検討した報告はなく,不明な点が多い。そこで,本研究の目的は,変形性股関節症患者における臼蓋形成不全と股関節周期筋の筋萎縮の関連性を明らかとすることとした。【方法】対象は片側の変形性股関節症患者44名(男性6名,女性38名)とした。測定項目は股関節周囲筋の筋断面積,脚長差,Central-edge angle(以下,CE角)とし,測定には当院整形外科医の処方により撮影されたCT画像と股関節正面のX画像を用いた。股関節周囲筋の筋断面積の測定は,Raschらの方法に従い,仙腸関節最下端での水平断におけるCT画像を採用し,画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いて各筋群の筋断面積の測定を行った。対象は梨状筋,腸腰筋,中殿筋,大殿筋とし,得られた筋断面積から患健比(患側筋断面積/健側筋断面積×100%)を算出した。また,股関節正面のX画像から,小転子先端から涙痕先端までの距離を計測し脚長差を算出するとともに臼蓋形成不全の評価としてCE角も算出した。その他の運動機能の評価として,IsoForceGT330(OG技研社製)にて膝関節伸展筋力を計測し,トルク体重比を算出した。さらに,臼蓋形成不全の診断基準値に準じてCE角が20°未満(臼蓋形成不全症例:以下,A群)と20°以上(以下,B群)の2群に分け,各測定項目の比較を行った。統計処理は,両群間の比較には対応のないt検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。さらに,臼蓋形成不全の有無を目的変数,両群間で有意差を認めた項目を説明変数としたロジスティック重回帰分析を行い,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,対象者には本研究の主旨ならびに目的を説明し研究への参加に対する同意を得て実施した。【結果】A群は24名(年齢:61.1±8.6歳,BMI:22.0±3.6kg/m2),B群は20名(年齢:65.9±10.7歳,BMI:23.0±3.0kg/m2)であり,年齢とBMIについては両群間で有意差を認めなかった。A群の梨状筋は60.8±14.5%,腸腰筋は62.2±10.5%,中殿筋は65.0±12.7%,B群の梨状筋は83.1±13.6%,腸腰筋は83.2±12.7%,中殿筋は84.6±8.3%であり,これらの筋についてはB群と比較してA群で有意に低い値を示した。一方,大殿筋(A群:76.3±11.0%,B群:83.1±8.4%)と膝関節伸展筋力(A群:1.31±0.56Nm/kg,B群:1.28±0.62Nm/kg)に関しては,両群間で有意差を認めなかった。また,A群の脚長差(23.9±9.9mm)は,B群(8.3±5.5mm)と比較して有意に大きい値を示した。さらに,ロジスティック重回帰分析の結果より,変形性股関節症患者の臼蓋形成不全と関連する因子として,脚長差と腸腰筋の筋萎縮が有意な項目として選択された。【考察】腸腰筋や梨状筋などの股関節の深部にある筋群は,それぞれの筋機能のバランスを保つことによって臼蓋と大腿骨頭の適合性すなわち股関節の安定化に寄与すること報告されている。また,中殿筋の後部線維は筋線維方向が頚体角と同等であることから股関節を求心位に保持する機能があることも報告されている。本研究の結果より,臼蓋形成不全症例では脚長差が大きく,大殿筋や膝関節伸展筋よりも股関節の安定性に関わる腸腰筋,梨状筋,中殿筋により顕著な筋萎縮を認めた。さらに,重回帰分析の結果より,臼蓋形成不全の影響を最も受けやすい筋は腸腰筋であることが明らかとなった。腸腰筋は大腿骨頭を前方から押さえることで臼蓋と大腿骨頭の安定性を向上させる作用があることから,臼蓋形成不全が大きい症例では股関節の前方への安定化がより欠如している可能性があり,これらのことを考慮した介入が必要であると考えられた。【理学療法研究としての意義】本研究の結果より,変形性股関節症患者の臼蓋形成不全は股関節の安定性に関与する筋群の萎縮と関連することが明らかとなり,理学療法において効果的なアプローチ方法を立案していくための一助となると考えられる。
著者
南角 学 西川 徹 秋山 治彦 柿木 良介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100545-48100545, 2013

【目的】人工股関節置換術(以下,THA)術後早期の理学療法では,術後の合併症の予防に取り組みながら,より効率的に股関節機能や運動機能の向上に図ることが重要となる.近年,股関節の深部外旋筋群は股関節の安定性に関与することが報告されており,股関節外旋筋に対するトレーニングが注目されている.しかし,股関節外旋筋のトレーニングがTHA術後早期の股関節外転筋および歩行能力の回復に与える影響を検討した報告は見当たらない.本研究の目的は,股関節外旋筋の筋力トレーニングがTHA術後早期における股関節機能および歩行能力の向上に有用であるかどうかを検討することである.【方法】対象は片側変形性股関節症で初回THAを施行された28 名とした.さらに,当院のプロトコール通りに術後の理学療法を行った14 名(以下,Control群)と,通常の理学療法に加えて股関節外旋筋に対するトレーニングを実施した14 名(以下,Ex群)に無作為に分類した.股関節外旋筋のトレーニングは,腹臥位で股関節屈曲0°・膝関節屈曲90°での股関節外旋運動,仰臥位と側臥位での股関節軽度屈曲位からの股関節外旋運動とし,術後1 週間は自動介助,術後2 週目からは自動運動,術後3 〜4 週間は低負荷でのトレーニングを行った.評価時期は術前と術後4 週とし,測定項目は術側の股関節痛,術側の股関節屈曲と外転の関節可動域,術側の下肢筋力(股関節外転筋力,股関節外旋筋力,膝関節伸展筋力),Timed up and go test(以下,TUG)とした.股関節痛は,日本整形外科学会の股関節判定基準の股関節痛の点数を用いた.股関節外転筋力と股関節外旋筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,股関節外転筋と膝関節伸展筋の筋力値はトルク体重比(Nm/kg),股関節外旋筋力は体重比(N/kg)にて算出した.統計処理は,各測定項目の術前と術後の比較には,対応のあるt検定とMann-WhitneyのU検定を用い,統計学的有意基準は5%未満とした.【説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果】年齢(Ex群60.5±6.4歳,Control群60.8±7.5歳)と身体特性(Ex群:身長154.8±5.5cm,体重55.9±6.4kg,Control群:身長153.7 ± 9.4cm,体重52.2 ± 9.9kg)および術前の運動機能に関しては,両群間で有意差を認めなかった.Ex群の股関節外転筋力は術前0.63 ± 0.15 Nm/kg,術後0.72 ± 0.12 Nm/kgで術後に有意に高い値を示した.一方, Control群の股関節外転筋力は,術前0.60 ± 0.14 Nm/kg,術後0.58 ± 0.14 Nm/kgであり,術前と術後で有意差を認めなかった.股関節外旋筋力については,Ex群が術前1.05 ± 0.27 N/kg,術後1.05 ± 0.25 N/kgで有意差を認めなかったのに対して, Control群では術前0.97 ± 0.35 N/kgよりも術後0.78 ± 0.39 N/kgに有意に低下していた.また,TUGに関しては,Ex群のTUGは術前8.50 ± 1.67 秒,術後7.62 ± 1.08 秒で術前と比較して術後に有意に低い値を示したが,Control群で術前8.25 ± 2.07 秒,術後8.61 ± 1.46 秒で術前と術後で有意差を認めなかった.股関節痛および股関節屈曲と外転の関節可動域は,両群ともに術前と比較して術後で有意に改善していた.【考察】股関節深部外旋筋は,臼蓋に対して大腿骨頭を求心位に保持することから股関節の安定性に関与すると考えられている.本研究においては,股関節外旋筋に対するトレーニングを実施したことにより,臼蓋と大腿骨頭の安定性が得られ,より効率に股関節外転筋群による筋力発揮が可能となったために股関節外転筋力が術前よりも14.3%向上したと考えられた.さらに,股関節外旋筋のトレーニングを行うことで股関節外転筋力が術前よりも向上したことから,THA術後早期での歩行能力も同時に改善したと考えられた.今後の課題として,THA術後早期の運動機能の向上が術後中期および長期的な運動機能の回復過程に及ぼす影響を検討していく必要性があると考えられた.【理学療法研究としての意義】本研究の結果より,THA術後早期における運動機能の向上に対して股関節外旋筋のトレーニングが有用であることが示され,理学療法研究として意義があると考えられる.
著者
高木 俊輔 正木 秀和 大島 一成 車地 暁生 西川 徹
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.179-182, 2010-02-15

はじめに Cytochrome P450(CYP450)は肝臓において薬物の酸化的代謝を触媒する酵素群で,約20種類のサブタイプがあり,一般臨床において用いられる治療薬の多くがこの酵素群により代謝および分解される。また,こういった治療薬はCYP450酵素群に対してその酵素活性を抑制あるいは誘導することが知られており,複数の薬物が同時に用いられる場合はおのおのの薬物の代謝動態が複雑な相互作用によって影響される5)。たとえば,本症例のように関節リウマチ治療薬として抗ヒトtumor necrosis factor(TNF)αモノクローナル抗体製剤(infliximab)が使用される場合,この投与によって免疫力が低下するため,抗結核薬の予防的投与が必須となる。その場合,抗結核薬の1つであるrifampicinはCYP450酵素群を誘導し4),定型的抗精神病薬のhaloperidolの代謝を顕著に促進することが報告されている2,6)。 今回,関節リウマチを合併し,infliximab投与のためrifampicinを併用したところ,それまで投与されていたhaloperidolの血中濃度が多大な影響を受けた統合失調症の1例を経験したので,以下に報告する。 なお,個人情報保護の観点から,症例の細部においてはいくつかの変更を施した。また,本文中の薬剤量は1日投与量を記載した。