- 著者
-
圷 尚武
丸山 通広
大月 和宣
石田 健倫
齋藤 友永
西郷 健一
長谷川 正行
青山 博道
剣持 敬
野口 洋文
- 出版者
- 一般社団法人 日本臓器保存生物医学会
- 雑誌
- Organ Biology
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.2, pp.175-179, 2017
1型糖尿病に対する膵島移植が国内で始まったものの,依然として大きな問題はドナー不足である.その解決手段のひとつとして,心停止下ドナーのような,条件の悪いいわゆるマージナルドナーより採取された膵臓の有効な利用である.LifePort<sup>TM</sup>(LP)はOrgan Recovery Systems社により開発された臓器搬送用の持続冷却灌流装置であり,現在欧米において障害を伴った腎臓の搬送に臨床応用され,その有効性が確認されている.本装置はマージナルドナーから採取された臓器移植,特に虚血再潅流障害を受けやすい膵臓の保存に有用で,膵島移植の安全性や成績の向上に有効であると考えられる.本研究では,ビーグル犬を使用し,障害膵モデルより膵臓を摘出し,LPにより持続冷却灌流保存することにより,膵臓の障害が最小限に抑えられ,従来法であるUW液や2層法による浸漬保存に比べて分離膵島の収量や機能が改善でき,臨床膵島移植に応用し,成績向上に寄与することを目的とした.[方法]ビーグル犬から30分の温阻血時間をおいて全膵を摘出し,LPにて24時間持続冷却灌流保存(LP群),UW液にて24時間冷却浸漬保存(UW群),2層法にて24時間冷却浸漬保存(2層法群)し,膵島分離を行い,その形態・機能を比較検討した.[結果]形態的には,LP群でより大きく,形の良い膵島が分離できた.また,膵島収量については,純化前後でLP群においてUW群や2層法群に比べて良好であった.また,分離膵島のインスリン分泌能を評価するStatic Incubationの結果でも,LP群でUW群や2層法群に比べて良好な結果であった.[結論]心停止下ドナーよりの膵島移植を想定したモデルにおいて,LPによる障害膵の持続冷却灌流保存は,UW液や2層法による冷却浸漬保存に比べて,分離膵島の収量や機能保持に優れていることが示唆された.しかし,臨床応用のためには,さらなる保存条件や膵島分離法の改善が必要であると考えられた.