著者
野口 洋文
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.S195_2, 2019

<p>現在、糖尿病に対する移植療法として、膵臓移植と膵島移植がある。膵島移植は、局所麻酔下にて膵臓から分離した膵島を経門脈的に注入するため、膵臓移植に比べ低侵襲である。現在までに欧米で1000例以上の移植報告がなされており、日本でも2004年より臨床膵島移植が開始されている。発表者の野口はハーバード大学で膵島分離技術を習得したのち、日本初となる心停止ドナー膵島移植(2004年)、世界初成功例となる生体膵島移植(2005年)、日本初となる脳死ドナー膵島移植(2013年)を実施した。過去5年間に実施された膵島移植の約85%を発表者が実施している。しかしながら、本邦ではドナー数が圧倒的に少なく、脳死ドナー数をどのようにして増やすかが膵島移植の成功へのカギとなる。脳死ドナー不足の解消には時間がかかる現状を考慮し、別の治療法を模索する動きも活発化している。特に、再生医療研究が世界中で活発に行われているが、インスリン分泌細胞への分化誘導法が確立されておらず、いまだ研究段階であるのが現状である。本シンポジウムでは膵島移植の現状と問題点を示すとともに、最先端の糖尿病治療研究について紹介する。</p>
著者
富丸 慶人 後藤 邦仁 小林 省吾 永野 浩昭 森 正樹 土岐 祐一郎 江口 英利 伊藤 壽記 野口 洋文 宮下 和幸 川本 弘一 岩上 佳史 秋田 裕史 野田 剛広
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.217-222, 2019

<p>Total pancreatectomy with islet autotransplantation is an ideal surgical procedure used to relieve chronic pain derived from the pancreatitis, while insulin-dependent diabetes is inevitably induced after the surgery. Islet autotransplantation combined with a total pancreatectomy can reduce the risk of severe diabetes by preserving available islet cells. We experienced a case with hereditary pancreatitis, which is a rare inherited condition characterized by recurrent acute pancreatitis and/or chronic pancreatitis. The case was that of a female in her thirties who was introduced to our hospital due to treatment-refractory abdominal pain derived from repeated pancreatitis even after surgical treatments. At the introduction, the pain was uncontrollable even by opioid use, and oral intake was impossible due to increase of the pain after the intake. She was genetically diagnosed with hereditary pancreatitis. For relieving the pancreatitis-derived pain, total remnant pancreatectomy with islet autotransplantation was planned. After the pancreatectomy, islet cells were extracted from the excised remnant pancreas, and injected into the portal vein for liver autotransplantation. The pain was completely relieved for her after the surgery, suggesting improvement of her quality-of-life. A glucose tolerance test and glucagon loading test performed one month after the surgery showed C-peptide secretion as the blood glucose rose. However, the serum c-peptide level and SUIT index had been gradually decreased after the surgery, and she is now treated with insulin. The case suggested that total pancreatectomy with islet autotransplantation is useful for improvement of the patient's quality of life by controlling the pain in cases with hereditary pancreatitis.</p>
著者
小長谷 明彦 池田 将 湯川 博 川又 生吹 野口 洋文 柳澤 実穂 豊田 太郎 梅田 民樹
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

リポソームそのものに感覚,知能,運動の機能を付加するために、リボソーム凝集体の作成、小動物における/in vivo/蛍光イメージ、リポソーム凝集体の評価、グルコース応答性有機分子の合成、膜透過性調整法の確立、DNAハトメ構造の設計、リポソームシミュレーション、可視化シミュレーションを行った。リポソーム凝集体の作成に関しては、インスリンを内包し、血清共存下での膜破裂、血管網を模した/in vitro/評価において血流速度でのマイクロ流体デバイス内部での滞留を確認した(豊田)。小動物における/in vivo/蛍光イメージに関しては、/in vitro/のジャイアントベシクル凝集体に蛍光標識用量子ドットを導入し、量子ドット由来の鮮明な蛍光を確認した(湯川)。リポソーム凝集体の評価に関しては、/in vitro/評価に用いる糖尿病モデルマウスを作成し、膵島移植により血糖を改善できることを確認した(野口)。グルコース応答性有機分子合成に関しては、グルコースに応答して親水-疎水バランスが変化する新規のボロン酸誘導体を設計した(池田)。膜透過性調整法の確立に関しては、タンパク質ゲルを内包したリポソームの形成法およびリポソーム内に封入したペプチドホルモンの膜透過性調整技術について検討した(柳澤)。DNAハトメの創成に関しては、DNAハトメ前駆体のコレステロールによる脂質膜上への固定法ならびに平面脂質膜上におけるDNAハトメ前駆体の拡散・反応による凝集の観察実験を行った(川又)。リポソームシミュレーションに関しては、コンパートメントが2つの場合について数値シミュレーションを行い,実験を再現するための形状と膜面に働く張力との関係について調べた(梅田)。可視化シミュレーションに関しては、超分子設計支援環境を整備しDNAオリガミ構造体ならびにリポソームの原子モデルを作成した(小長谷)。
著者
圷 尚武 丸山 通広 大月 和宣 石田 健倫 齋藤 友永 西郷 健一 長谷川 正行 青山 博道 剣持 敬 野口 洋文
出版者
一般社団法人 日本臓器保存生物医学会
雑誌
Organ Biology
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.175-179, 2017

1型糖尿病に対する膵島移植が国内で始まったものの,依然として大きな問題はドナー不足である.その解決手段のひとつとして,心停止下ドナーのような,条件の悪いいわゆるマージナルドナーより採取された膵臓の有効な利用である.LifePort<sup>TM</sup>(LP)はOrgan Recovery Systems社により開発された臓器搬送用の持続冷却灌流装置であり,現在欧米において障害を伴った腎臓の搬送に臨床応用され,その有効性が確認されている.本装置はマージナルドナーから採取された臓器移植,特に虚血再潅流障害を受けやすい膵臓の保存に有用で,膵島移植の安全性や成績の向上に有効であると考えられる.本研究では,ビーグル犬を使用し,障害膵モデルより膵臓を摘出し,LPにより持続冷却灌流保存することにより,膵臓の障害が最小限に抑えられ,従来法であるUW液や2層法による浸漬保存に比べて分離膵島の収量や機能が改善でき,臨床膵島移植に応用し,成績向上に寄与することを目的とした.[方法]ビーグル犬から30分の温阻血時間をおいて全膵を摘出し,LPにて24時間持続冷却灌流保存(LP群),UW液にて24時間冷却浸漬保存(UW群),2層法にて24時間冷却浸漬保存(2層法群)し,膵島分離を行い,その形態・機能を比較検討した.[結果]形態的には,LP群でより大きく,形の良い膵島が分離できた.また,膵島収量については,純化前後でLP群においてUW群や2層法群に比べて良好であった.また,分離膵島のインスリン分泌能を評価するStatic Incubationの結果でも,LP群でUW群や2層法群に比べて良好な結果であった.[結論]心停止下ドナーよりの膵島移植を想定したモデルにおいて,LPによる障害膵の持続冷却灌流保存は,UW液や2層法による冷却浸漬保存に比べて,分離膵島の収量や機能保持に優れていることが示唆された.しかし,臨床応用のためには,さらなる保存条件や膵島分離法の改善が必要であると考えられた.