著者
石田 博幸
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.220-223, 1983

大学生はもちろん,小中学校の児童生徒も音が有限の速度を持って伝播してゆくということを花火大会の花火,雷等を通し体験しており,多くの教師も改めてこのことを見せる必要はないと考えている.しかしこれらの経験は,全てワンポイントの現象,即ち一点から発した光と音の知覚される時間の差なのであって,音の伝播の有限の速さは,その「くいちがい」への説明として納得しているに過ぎない.この報告では,数mおきに並んだ学生がピストルの音を聞くと同時に旗を振り上げるという実験を通して,音の波頭が移動してゆくのを直接観測した結果を示し,その物理(理科)教育への意義を考察する.
著者
石田 博幸
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

国際教育援助を考えるとき、自然科学は世界共通であり、日本の理科教育がそのまま世界に通用すると思われがちである。しかし、児童の持つ初期科学概念が自然、社会、言語、文化宗教的な環境によって、大きく異なり、場合によっては互いに、一方には存在しない概念を、他方では当然の既有の概念として持っていることもある。このことを裏づけるために日本、タイ、ラオス、中国、ロシア、ホンジュラスの小学生に対して共通のアンケートを依頼し、その結果を検討した。各国における調査は、過去、及び現在の本学への留学生や、報告者の知人等に依頼した。結果、多くデータから貴重な情報が得られた。この研究結果は、国際教育協力に関る際には、自然科学といえども、その国、地方を理解した上で、協力にあたるべきであることを結論している。調査地域と調査数は6ケ国、11地域、1582名に及んだ。調査形式は,記述欄を含む選択式で、内容は、太陽、熱、光など、主に地域の気候環境をテーマとし、第2回調査においては、宗教、生命観を主題に設定し、概念地図方式も取り入れた。データ処理はMS-Windows上でMS-Visual BASICを使った。データ処理は多岐にわたる。その関係を見るための他種類のデータ解析・表示プログラムを作成した。単純統計をとった場合、特に大きな差がないケースも、個々の回答の組み合わせをみると、差が顕在化してくる。このような新しいデーター解析法によって、従来、単純に集計されていた研究データーからも新しい情報を汲み出せる可能性があることを示した。結果から作成した概念地図において気候環境、およびそこから派生している言語、宗教文化の差を色濃く表している結果がえられた。このように得られた知見は多く、おおむね報告者の仮説を裏付ける結果が出た。成果は5回の学会、8編の論文として公表した。
著者
石田 博幸
出版者
中部大学
雑誌
現代教育学部紀要 (ISSN:18833802)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.37-43, 2009-03

児童が教室に入ってくる前にも、各種概念について、白紙なのではなく、各自の概念を持っている。概念の獲得過程は、生活や自然の中から現象や事物が認識され、まわりからその名前や呼び方を知らされて、容易に獲得するものと、例えば、"従兄"や"凶器"のように、事物のみの把握では、獲得されず、社会的な説明が加わって初めて概念が獲得されるものがある。この前者を自然的獲得概念、後者を、社会的獲得概念と呼ぶことにする。実は、自然科学概念の中にも、はっきり区別しがたいが、この2種類があり、その概念を伝える方法も異なってくる。その違いは、各国で、その国の自然環境、社会環境、歴史的環境、宗教的環境によってことなる。したがって、特に、国際社会での理科(科学)教育に携わったり、外国から来た児童を扱かったりする者は、この違いを意識しながら、教育に当たるべきであることを提唱する。
著者
石田 博幸
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,日・タイの小・中学校の生徒の環境意識調査に続き,環境意識と向社会的行動との関連性へと進んできた。結果は,環境行動と向社会性行動には,弱い正の相関があることが証明された。ただ,環境教育の成果が出ている反面,教育で受けた知識と実際の行動の間に相違が出てきており,知識が行動に直結するようになるには少し時間が要るように思われる。3年間を通して何度かタイ教育省関係者およびタイ人共同研究者を招聘し,環境教育関連討論会を開き討論した。2年目の5月には日本環境教育学会で,7月には,WCCI国際学会で日・タイの児童の向社会性意識と環境意識の関係について発表した。また,メコン川環境破壊状況を調査し,共同研究者と討論し指導した。11月に愛知教育大学で開催された地域教育シンポジウムへタイの環境教育学者を招聘し講演してもらった。同じく11月にラチャパット大学(複数)を訪問し,研究交流について討論した。12月には,チェンライラチャパット大学の大学設立記念式典で招待され記念講演を行った。12月末におきたスマトラ沖地震はタイの児童の環境意識に大きな影響を与えたと推測される。その調査の準備のため3月に訪タイした。最終年度は,当県で開催された愛・地球博が,環境問題解決には重要であると考え,タイ人共同研究者を招聘し,研究してもらった。その成果は,彼らを通じてタイの環境教育に大きく寄与をする。さらに,スマトラ沖の地震・津波の児童・生徒の環境意識への影響の調査をした。結果は,タイの児童・生徒は,その甚大な被害にもかかわらず,宗教と科学に対する信頼を維持していることがわかった。世界中からの救援や科学鑑定が科学への信頼を増したと思われる。宗教心が薄く,なおかつ,科学への信頼が薄れてきている日本の子どもたちと比較し,注目すべき結果であり,今後,学界や社会へ発表して行く予定である。