- 著者
-
石郷 友之
- 出版者
- 日本転倒予防学会
- 雑誌
- 日本転倒予防学会誌 (ISSN:21885702)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.1, pp.27-31, 2018-06-10 (Released:2018-08-05)
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
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転倒は,筋力低下や視力障害,履物や照明,障害物などのさまざまな要因が複雑に絡み合い発生するが,その要因の一つに薬剤の影響が挙げられる。影響する薬剤にも降圧薬などの循環器系薬剤や,抗精神病薬や睡眠薬,抗不安薬などさまざまなものがあり,今回はその中でも睡眠薬の使用について考察する。 まず,睡眠薬は患者の希望などで安易に処方されやすい薬剤であるが,転倒・骨折に影響するということを患者を含め理解する必要がある。そして,睡眠薬使用の前に日中の睡眠の有無や必要な睡眠時間のすり合わせ,入浴時間や照明などの就寝準備段階への介入,就寝時間の調整などの非薬物療法の確認・指導も重要となる。 一方,不眠症自体も転倒のリスク因子であり病態の把握と適切な睡眠薬の選択が転倒を減少させるということも忘れてはならない。 睡眠薬の選択では,加齢によるフレイルの影響や代謝機能の低下,併用薬による血中濃度上昇等の可能性があるため,不眠症状の種類に加え,年齢や併用薬等も考慮する必要がある。「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」,「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では,転倒・骨折のリスクのため高齢者へのベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用は推奨しておらず,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬についても漫然と使用せず,少量の使用にとどめるなどの対応が必要とされている。当院の調査でもベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べ,ゾルピデムやエスゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬で転倒率は低く,同じ睡眠薬でも高齢者や高用量を使用している症例では転倒率が高くなる傾向が認められた。そのため,高齢者や転倒リスクの高い症例では,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を少量から使用し,投与期間も長期間とならないように定期的な睡眠の評価が必要である。また,新規作用機序のラメルテオンやスボレキサントの転倒・骨折との関連性についても報告が少しずつ出てきており,今後さらなるデータの蓄積が待たれる。