著者
石野 未架
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.69-88, 2020-11-30 (Released:2022-06-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1

教室における教師の権力性を告発する研究の多くがIRE連鎖(Initiation(教師の開始)-Reply(生徒の応答)-Evaluation(教師の評価))(Mehan, 1979)を議論の土台としてきた。とりわけ教師と生徒の間に存在する知識の非対称性に焦点をあて,教師がもつE部分の権限を権力ととらえてきた。 しかし,知識の非対称性にばかり注意がむけられ,教室における発言機会の非対称性については注意が向けられてこなかった。IRE連鎖において教師がもつ発言機会の分配という権限は,この非対称性に大きく関わる権限である。本稿では,教師が発言機会を分配する行為を分析することで,教室における教師の権力性を問い直すことを目的とする。 分析では,教師の権力を「正当的権威」ととらえ,教師が発言機会を分配する際にどのようにその権限の行使を正当化するのかに焦点をあてた。分析の結果,教師は発言機会の分配においてその分配が生徒との道徳的秩序に基づいて行われるものであることを演出することがわかった。教師が道徳的秩序を乱した事例では,本来の学習活動を遅らせても,教師の正当的権威の回復のための相互行為連鎖を展開する様子が観察された。 分析結果が示唆することは,教室における教師の権力の脆弱性である。本稿で分析した教師の権力は,先行研究がとらえてきたようなIRE連鎖に常備されたものではなく,正当的権威であることに志向する教師の不断の実践によって維持されていたからである。
著者
石野 未架
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.13-22, 2016-06-20 (Released:2016-06-17)
参考文献数
31
被引用文献数
7

本研究の目的は,生徒との相互行為の中で立ち現れる教師の実践知を会話分析の手法を応用して記述することである.データは関西圏の公立中学校1年生の教室で撮影した英語の授業20時間分であり,そのうち観察された1件の臨界事象に焦点をあてて分析を行った.その結果,教師はあるIRF連鎖の中で一人の生徒から予想外の誤答があった場合,1)生徒の反応に応じていくつかの質問の定式化手続きを用いることで,その生徒の質問に対する理解度を検証すること,2)他の生徒と別のIRF連鎖を構築することでその生徒のアフォーダンスとなる応答方法を示し,最終的にその生徒から正しい応答を引き出すことが明らかになった.このように記述された教師の実践知は,授業を生徒との相互行為と捉えるなかで明らかになったものである.結語では,このような会話分析を用いた教師の実践知記述の試みが今後の授業研究にどのように貢献し得るかを述べる.