著者
藤井 夕香 磯和 勅子 平松 万由子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.179-188, 2016 (Released:2017-02-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2

目的:外来通院をしている高齢糖尿病患者がインスリン自己注射手技を正確に実施することに影響する要因を明らかにする.方法:65歳以上の在宅にてインスリン自己注射を行っている糖尿病患者に対し,正確な自己注射手技に影響すると考えられる15の要因を独立変数,正確な自己注射手技の可否を従属変数として,ロジスティック回帰分析を行った.結果:対象者は105名で,平均年齢は74.0 ± 5.4歳であった.ロジスティック回帰分析の結果,正確な自己注射手技に関連していたのは,改訂長谷川式簡易認知評価スケールで評価した認知機能が高いこと(オッズ比1.16,95%信頼区間1.01~1.33),看護師を中心とした医療従事者の支援があること(オッズ比6.35,95%信頼区間1.43~28.28)であった.結論:認知機能の低下があると,正確なインスリン自己注射手技が困難となる.しかし,看護師を中心とした医療従事者のサポートがあると正確な自己注射手技が実施できる可能性が高まることが示唆された.
著者
鈴木 みずえ 磯和 勅子 金森 雅夫
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.275-289, 2006-08-01

緒 言 音楽は人々の心を静穏化させ情動的反応を引き起こすことによる癒しの効果や身体活動を促進する効果があり,人々の健康の維持・増進に用いられてきた。欧米では19世紀から臨床的報告がみられ,20世紀後半から音楽が治療として用いられるようになった。今や臓器移植・遺伝子治療などの先端医療技術は,従来の疾病構造さえも変革しようとしている。しかし,人々の健康あるいは病気の課題は先端医療だけで解決されるものではなく,病気や治療に伴うさまざまな苦しみや痛みに対する全人的なケア,本来の自然治癒力・生命力を回復させるホリスティックなアプローチが必要とされている。近年,欧米を中心に,音楽を健康回復および健康増進だけではなく,病気や障害の治療に使用するようになっている。その適応範囲は,リラクセーション,ストレスマネジメント,リハビリテーションなど情動反応やリズム刺激などを活用した広範囲に及んでいる。 老年看護の実践場面でも音楽は高齢者の生活の質を高めるアプローチとしてケアに取り入れられている。デイケア,デイサービス,高齢者施設において音楽は生活環境の一部として欠かせないものである。落ち着きのない認知症高齢者も集中して歌や合唱のレクリエーションに参加したり,コミュニケーション障害のある認知症高齢者が歌を通して他者と交流する場面も認められている。音楽療法のほかにも運動,動物,回想などのレクリエーション的アプローチを用いた看護介入は,アクティビティケアと呼ばれて実践に盛んに取り入れられている。そのなかでも音楽は,わが国の高齢者にとっては壮青年期における重要な娯楽であり,共通した情動反応を引き出しやすく,欧米ではアクティビティケアのなかでは最も歴史が長く,研究報告がなされている。今後,わが国でも認知症高齢者に対して介護予防や介護負担軽減を目的した音楽療法を看護介入として活用することは有効であろう。