著者
神寶 秀夫
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

この三年間、科学研究費補助金の交付を得て、領邦都市マインツの統治構造を考察し、それを通して「中間権力」の観点から近世ドイツ絶対主義の特質を論究してきた。絶対主義体制において中間権力がどの程度の機能を果たしていたのかについて、最終的に以下の結論に至ることができた。領邦都市段階の当市の統治構造は、市民の誠実宣誓をまって大司教支配権が成立し得るという、前近代的な二元主義の特質を有していた。しかし、固有の身分制国家段階はすでに過去のものであって、市民の臣民としての服従義務が前面に出ているのである。市民の一定程度の自律性を保証する都市参事会及び兄弟団も、一方においては確かに「中間権力」としての性格をなおも維持しているものの、他方では、その性格も、都市参事会における参事会員の「終身制」、兄弟団の集会における同意権と「口伝の法」に関係した場合の裁判権・規約制定権にしか見て取れないほどに、制約されていた。兄弟団を、政治権力を制約された「社会的団体」と規定することができる所に、政治的権利と社会的権利(=営業独占権)との分離の一定の進展が認められ得るのである。以上のことから、近世(領邦)都市は、完全な「中間権力」の態をなしていた中世都市と「公法上の地方団体」である近代都市との間に位置する、独自の都市類型と把握することができるのである。そして、宮廷都市における中間権力の機能は、中世に比較し、限定的であったのである。