著者
福井 悠貴 小原 謙一 平野 圭二 亀山 愛
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1084, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Gait Solution(以下,GS)付短下肢装具の報告は多いが,GS付長下肢装具についての報告は少ない。本研究は,短下肢装具での歩行練習が可能な脳卒中片麻痺患者に対して,GS付長下肢装具での歩行練習を行い,その効果を検証することで,GS付長下肢装具が治療用装具として利用できる可能性について検討することを目的とした。【方法】対象は,発症から107病日(転院後58病日)経過した左被殻出血右片麻痺の50歳代男性である。介入時の状況は,Brunnstrom stage上肢II手指I下肢IIであり,麻痺側上肢屈曲群筋緊張亢進,下肢股関節内転・内旋に軽度筋緊張亢進が認められ,膝・足クローヌス陰性であった。また重度失語症のため精査困難であるものの,麻痺側下肢重度感覚障害が疑われた。寝返り,起き上がり,座位は自立であり,立ち上がり,立位は見守りで可能であった。歩行は,GS付短下肢装具とロフストランドクラッチ使用にて分回しの歩容を呈し,2動作前型歩行であった。麻痺側振り出しの促通のために腸腰筋に皮膚刺激を与え,骨盤代償制動のため軽介助を要した。研究デザインは,経過による回復の影響を除くためにABA型シングルケースデザインを用いた。介入期(A1・A2)はGS付長下肢装具での歩行練習後GS付短下肢装具での歩行練習を実施し,非介入期(B期)はGS付短下肢装具のみで歩行練習を実施とし,他の理学療法はA期B期ともに共通して行った。実施回数は各期7回とした。装具は,長下肢装具(膝継手:リングロック,足継手:外側Gait Solution継手,内側タブルクレンザック継手)と,短下肢装具(長下肢装具をカットダウンしたもの)を使用した。GS付長下肢装具は,背屈角度はフリー,底屈制動はGSの油圧強度設定で2.5~3とした。GS付短下肢装具では,背屈角度は歩容状態に応じて0~10度,油圧設定は3~4とした。歩行補助具には,A期B期共通してロフストランドクラッチを使用した。評価指標として,麻痺側立脚相に与える影響を検討するため,GS付短下肢装具歩行における麻痺側立脚相後期股関節伸展角(肩峰-大転子線と大転子-大腿骨外顆中心線のなす角)と立脚相中期体幹屈曲角(鉛直線と肩峰―大転子線のなす角)及び非麻痺側歩幅を採用した。解析は,歩容の動画をデジタルビデオカメラにて側方から撮影し,高度映像処理プログラム(Dartfish teamPro Data 6.0)を用いて各評価指標の解析した。解析結果より介入による効果の検討のためにA1・2期それぞれの初期と終期間で比較した。さらに,非介入であるB期における変化を調査するためにA1終期とA2初期間で比較した。【結果】短下肢装具装着歩行時の各評価指標の平均値を(A1初期,終期,/A2初期,終期)の順に示す。麻痺側立脚相後期股関節伸展角(度)は(4.3±1.2,7.1±1.6,/3.6±1.5,7.0±1.5)であり,麻痺側立脚相中期体幹屈曲角(度)は(10.9±2.1,7.8±0.8,/11.1±0.5,9.0±0.9)であった。非麻痺側歩幅(cm)は(27.3±2.3,30.0±1.4,/26.0±1.4,32.5±1.5)であった。本結果から,介入A1,A2期は,7回の介入により全指標で改善を認めた。さらに,非介入であるB期における各指標の変化を検討するためにA1終期とA2初期を比較した結果,全指標で数値が悪化していた。これらのことから,GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,歩容の改善に効果があることが示唆された。【考察】山本ら(2014)は,GS付長下肢装具では,体幹前傾への影響が少ないため股関節伸展しやすく,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋がると述べている。本症例においても,GS付長下肢装具歩行練習後に測定項目の改善が認められ,短下肢装具での歩容改善に影響したと考えられる。本研究結果から,GS付長下肢装具を歩行練習で用いることにより,脳卒中片麻痺患者に対する歩容改善に向けた治療用装具としての機能を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,短下肢装具での歩容改善に効果があることが示唆されたことは,下肢装具を用いた効果的な歩行練習を検討するうえで意義がある。
著者
福井 悠美 佐伯 一成 花園 忠相 田邉 規和 浦田 洋平 日髙 勲 寺井 崇二 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.35-40, 2015-02-01 (Released:2016-05-11)
参考文献数
18

肝細胞癌(HCC;hepatocellular carcinoma)の自然破裂はしばしば遭遇する病態である.しかし,肝動脈化学塞栓療法(TACE;transcatheter arterial chemoembolization)施行直後に破裂を来した症例の報告は比較的まれであり,今回,HCCに対しTACE施行直後に破裂を来した一例を経験したので報告する.患者は73歳男性,背景肝は慢性肝障害(非B非C)であり,20XX年5月に肝S7のHCCに対して,開胸開腹S7亜区域切除術を施行した.翌年5月,肝両葉にHCCの再発を認め,リピオドール併用肝動脈化学療法(Lip-TAI;lipiodol - transcatheter arterial infusion)を施行したが,肝S2の腫瘍はリピオドール貯留不良であった.7月には同S2病変は径38×20mm大に増大し,肝表面に突出していた.同病変に対してTACEを施行したが,治療終了4時間後に心窩部痛が出現し,収縮期血圧は60mmHg台に低下した.細胞外液負荷にて速やかに収縮期血圧90mmHg台まで上昇したため経過観察としたが,徐々に貧血が進行した(術前Hb 11g/dl → 術後Hb 6.2g/dl).術後4日目の腹部エコーおよび腹部造影CTで,TACE施行後の肝S2のHCCの周囲に血腫を認めた.明らかな造影剤の漏出は認めなかったが,HCC破裂による貧血進行と判断し,同日再出血予防のため肝動脈塞栓療法(TAE;transcatheter arterial embolization)を施行した.TAE施行後は再出血なく経過した.本症例では,HCCが増大傾向にあり,肝表面に突出していたことから,元々HCC破裂の可能性も考慮すべきであった.加えて,TAE施行時にTACE後の肝S2HCCに血流の残存を認め,塞栓が不十分であったことが判明した.以上のことから,TACEに伴う様々な刺激,血流残存などの要因によりHCC破裂を来したことが推察された.したがって,本症例のように肝表面に局在するHCCに対してTACEを施行する際には,TACE後破裂のリスクも想定して,慎重かつ確実に肝動脈を塞栓し,厳重な経過観察をしていくことが重要と考えられる.