著者
末廣 忠延 水谷 雅年 石田 弘 小原 謙一 藤田 大介 大坂 裕 高橋 尚 渡邉 進
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.329-333, 2016 (Released:2016-04-29)
参考文献数
23
被引用文献数
2

〔目的〕慢性腰痛者における腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋活動開始時間との関係を明らかにすることとした.〔対象〕慢性腰痛者25名とした.〔方法〕股関節伸展時の筋活動開始時間を測定した.腰部の臨床不安定性の試験として,prone instability test(PIT)と腰椎屈曲時の異常な動きを評価した.腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋活動開始時間との関係は,相関係数を用いて分析した.〔結果〕PITの陽性の結果が両側の多裂筋と対側の脊柱起立筋の活動遅延と相関した.〔結語〕慢性腰痛者において腰部の臨床不安定性の陽性の結果と股関節伸展時の背部筋群の活動遅延が相関することが明らかになった.
著者
江口 淳子 小原 謙一 渡邉 進 石田 弘
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.481-485, 2008 (Released:2008-10-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

[目的]運動時間の違いによるジムボールを用いた脊柱可動性運動の効果を検討することである。[対象と方法]健常男性48名を運動時間60秒群,30秒群,15秒群,コントロール群の4群に無作為に分けた。60,30,15秒群はボール上で腹這位をとらせる脊柱可動性運動を行い,コントロール群は静止立位を15秒間保持させた。介入前後に脊柱可動性を計測した。各群での介入前後の比較と変化率の群間比較を行った。[結果]60,30,15秒群では体幹傾斜角と仙骨傾斜角の脊柱可動性運動後の値が運動前と比較して有意に大きかった。変化率の群間比較では60秒群の体幹傾斜角がコントロール群に比べ有意に大きい値を示した。[結語]ボールを用いた脊柱可動性運動は60秒間行うことで脊柱可動性が有意に変化することが示唆された。
著者
小原 謙一 白石 明継 高橋 尚
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.791-794, 2013 (Released:2014-01-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1

〔目的〕一側前腕に対する部分浴の施行の違いが対側前腕の総ヘモグロビン量に及ぼす影響について検討した.〔対象〕自律神経系及び循環系の疾患を持たない健常人10名であった.〔方法〕左前腕部の総ヘモグロビン量を近赤外分光法器にて測定した.実験条件は,温浴,交代浴,無処置の3条件とした.各条件における部分浴を右前腕部に対して20分間施行した.部分浴前を基準とした変化率を算出した.〔結果〕処置中及び処置後において,交代浴は他の2条件よりも有意に高値を示した.〔結語〕本研究結果から,交代浴は,交叉性効果によって対側の総ヘモグロビン量をより増加し得ることが示唆された.
著者
福井 悠貴 小原 謙一 平野 圭二 亀山 愛
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1084, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】Gait Solution(以下,GS)付短下肢装具の報告は多いが,GS付長下肢装具についての報告は少ない。本研究は,短下肢装具での歩行練習が可能な脳卒中片麻痺患者に対して,GS付長下肢装具での歩行練習を行い,その効果を検証することで,GS付長下肢装具が治療用装具として利用できる可能性について検討することを目的とした。【方法】対象は,発症から107病日(転院後58病日)経過した左被殻出血右片麻痺の50歳代男性である。介入時の状況は,Brunnstrom stage上肢II手指I下肢IIであり,麻痺側上肢屈曲群筋緊張亢進,下肢股関節内転・内旋に軽度筋緊張亢進が認められ,膝・足クローヌス陰性であった。また重度失語症のため精査困難であるものの,麻痺側下肢重度感覚障害が疑われた。寝返り,起き上がり,座位は自立であり,立ち上がり,立位は見守りで可能であった。歩行は,GS付短下肢装具とロフストランドクラッチ使用にて分回しの歩容を呈し,2動作前型歩行であった。麻痺側振り出しの促通のために腸腰筋に皮膚刺激を与え,骨盤代償制動のため軽介助を要した。研究デザインは,経過による回復の影響を除くためにABA型シングルケースデザインを用いた。介入期(A1・A2)はGS付長下肢装具での歩行練習後GS付短下肢装具での歩行練習を実施し,非介入期(B期)はGS付短下肢装具のみで歩行練習を実施とし,他の理学療法はA期B期ともに共通して行った。実施回数は各期7回とした。装具は,長下肢装具(膝継手:リングロック,足継手:外側Gait Solution継手,内側タブルクレンザック継手)と,短下肢装具(長下肢装具をカットダウンしたもの)を使用した。GS付長下肢装具は,背屈角度はフリー,底屈制動はGSの油圧強度設定で2.5~3とした。GS付短下肢装具では,背屈角度は歩容状態に応じて0~10度,油圧設定は3~4とした。歩行補助具には,A期B期共通してロフストランドクラッチを使用した。評価指標として,麻痺側立脚相に与える影響を検討するため,GS付短下肢装具歩行における麻痺側立脚相後期股関節伸展角(肩峰-大転子線と大転子-大腿骨外顆中心線のなす角)と立脚相中期体幹屈曲角(鉛直線と肩峰―大転子線のなす角)及び非麻痺側歩幅を採用した。解析は,歩容の動画をデジタルビデオカメラにて側方から撮影し,高度映像処理プログラム(Dartfish teamPro Data 6.0)を用いて各評価指標の解析した。解析結果より介入による効果の検討のためにA1・2期それぞれの初期と終期間で比較した。さらに,非介入であるB期における変化を調査するためにA1終期とA2初期間で比較した。【結果】短下肢装具装着歩行時の各評価指標の平均値を(A1初期,終期,/A2初期,終期)の順に示す。麻痺側立脚相後期股関節伸展角(度)は(4.3±1.2,7.1±1.6,/3.6±1.5,7.0±1.5)であり,麻痺側立脚相中期体幹屈曲角(度)は(10.9±2.1,7.8±0.8,/11.1±0.5,9.0±0.9)であった。非麻痺側歩幅(cm)は(27.3±2.3,30.0±1.4,/26.0±1.4,32.5±1.5)であった。本結果から,介入A1,A2期は,7回の介入により全指標で改善を認めた。さらに,非介入であるB期における各指標の変化を検討するためにA1終期とA2初期を比較した結果,全指標で数値が悪化していた。これらのことから,GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,歩容の改善に効果があることが示唆された。【考察】山本ら(2014)は,GS付長下肢装具では,体幹前傾への影響が少ないため股関節伸展しやすく,立脚終期の股関節伸展の拡大に繋がると述べている。本症例においても,GS付長下肢装具歩行練習後に測定項目の改善が認められ,短下肢装具での歩容改善に影響したと考えられる。本研究結果から,GS付長下肢装具を歩行練習で用いることにより,脳卒中片麻痺患者に対する歩容改善に向けた治療用装具としての機能を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】GS付長下肢装具を用いた歩行練習は,短下肢装具での歩容改善に効果があることが示唆されたことは,下肢装具を用いた効果的な歩行練習を検討するうえで意義がある。
著者
末廣 忠延 石田 弘 小原 謙一 藤田 大介 大坂 裕 渡邉 進
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-33, 2018-04-30 (Released:2018-08-12)
参考文献数
19

【目的】目的は健常者と慢性腰痛者における腹臥位での股関節伸展運動時の筋活動量を比較することである。【対象】対象は健常成人20名と慢性腰痛者20名とした。【方法】筋活動の測定は表面筋電計を使用し,被験筋は対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,多裂筋,同側の大殿筋,ハムストリングスとした。被験者は腹臥位となり膝を伸展位で股関節を伸展10°に保持した際の筋活動量を測定した。群間の筋活動量の比較にはMann-Whitney のU 検定を使用した。【結果】大殿筋の活動は,健常者に比較して慢性腰痛者で有意に高値を示した。他の筋については有意差を認めなかった。【考察】慢性腰痛者は股関節伸展時に健常者よりも高い大殿筋の活動を示すことが明らかとなった。この原因としては,大殿筋の筋力低下や股関節伸展側の骨盤の水平面上での腹側への回旋が生じた状態で股関節を伸展したことが要因として考えられた。
著者
小原 謙一 吉岡 史晃
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.801-804, 2013 (Released:2014-01-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1

〔目的〕インソールによる足底刺激部位の違いが,静止立位時の足圧中心動揺に及ぼす影響を明らかにすることとした.〔対象〕下肢機能に疾患のない健常人40名とした.〔方法〕足圧中心動揺の測定には,重心動揺計を用いた.足底刺激として凸部のあるインソールを採用し,刺激部位の異なる4つの群(全足底刺激,前足部刺激,踵部刺激,刺激無し)間で足圧中心動揺の程度を比較した.〔結果〕足圧中心動揺の外周面積と矩形面積において,前足部刺激群は刺激無し群と比較して有意に低値を示した.〔結語〕インソールによる前足部への刺激は,足圧中心動揺をより減少させ得る.
著者
石田 弘 渡邉 進 田邊 良平 江口 淳子 小原 謙一
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.74-78, 2007-06-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究の目的は,立位での前かがみ姿勢で引き上げ運動を行う際に体幹前傾角度の違いが体幹および股関節伸展筋の活動に及ぼす影響を明らかにすることである。対象は19歳から29歳までの健常男性10名(平均年齢 : 23.1歳)とした。導出筋は腹直筋,腹斜筋群,L3,L5レベル脊柱起立筋,広背筋,大殿筋,大腿二頭筋とした。運動課題は体幹前傾30°,45°,60゜にてピークフォースの0%,30%,60%を行うこととした。筋電図の平均積分値は最大随意収縮(Maximal voluntary contraction ; MVC)を基準に正規化した(%MVC)。その結果,すべての筋で,いずれの前傾角度でも負荷が大きいほど%MVCは有意に大きかった。同一負荷では体幹前傾角度が大きいほど脊柱起立筋の%MVCは小さく,広背筋と大腿二頭筋の%MVCは大きかった。これらの結果から,脊柱起立筋活動が減少するような前かがみ姿勢では腰部の受動的な組織の負担は増していると考えられるが,肩関節や股関節伸展筋が活動量を増やして引き上げ運動を行っていることが示唆された。
著者
末廣 忠延 石田 弘 小原 謙一 藤田 大介 大坂 裕 渡邉 進
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-33, 2018

<p>【目的】目的は健常者と慢性腰痛者における腹臥位での股関節伸展運動時の筋活動量を比較することである。【対象】対象は健常成人20名と慢性腰痛者20名とした。【方法】筋活動の測定は表面筋電計を使用し,被験筋は対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,多裂筋,同側の大殿筋,ハムストリングスとした。被験者は腹臥位となり膝を伸展位で股関節を伸展10°に保持した際の筋活動量を測定した。群間の筋活動量の比較にはMann-Whitney のU 検定を使用した。【結果】大殿筋の活動は,健常者に比較して慢性腰痛者で有意に高値を示した。他の筋については有意差を認めなかった。【考察】慢性腰痛者は股関節伸展時に健常者よりも高い大殿筋の活動を示すことが明らかとなった。この原因としては,大殿筋の筋力低下や股関節伸展側の骨盤の水平面上での腹側への回旋が生じた状態で股関節を伸展したことが要因として考えられた。</p>
著者
末廣 忠延 水谷 雅年 石田 弘 小原 謙一 大坂 裕 高橋 尚 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】腹臥位での股関節伸展運動(Prone hip extension:以下,PHE)は,腰椎骨盤の安定性の評価としても使用され,股関節伸展に関与する筋活動のタイミングや腰椎骨盤の過剰な動きの有無が検査される。PHE時の筋活動の開始時間を調査した先行研究は,健常者を対象とした腰部多裂筋,脊柱起立筋,大殿筋,ハムストリングスを被験筋としているが,一致した結果が得られていない(Vogtら1997,Lehmanら2004)。また腰痛者でのPHE時の筋活動を調査した研究においては,健常者と比較して大殿筋の活動開始の遅延や広背筋の過剰な活動が報告されている(Brunoら2007,Kimら2014)。このように腰痛者においてPHE時の後斜走スリングを担う大殿筋,広背筋は,健常者と異なる筋活動パターンを示す。しかしながら,PHE時の広背筋の活動開始時間について調査した研究はなく,PHE時の正常な広背筋の活動開始時間は不明となっている。そこで本研究は,PHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間を明らかにすることで腰椎骨盤の安定性のメカニズムを解明することを目的とした。【方法】対象は健常男性20名(平均年齢23.4±4.0歳,身長168.9±8.4cm,体重61.2±11.0kg)とした。筋活動の測定は表面筋電計Vital Recorder 2(キッセイコムテック社製)を用い,被験筋は,対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,両側の多裂筋,股関節伸展側の大殿筋と大腿二頭筋とした。測定肢位は,リラックスした状態で両上肢は体側とし,足関節以遠をベッド端から出した腹臥位とした。また頸部は,被験者の前方に設置したLEDライトが見えるようにわずかに頸部を伸展した。被験者は,光信号に反応して可能な限り速く,膝を伸展したまま股関節の伸展を実施し,その際の筋活動を測定した。なお,股関節を伸展する足は,非利き足とし,測定は3回実施した。筋活動開始時間の決定は,安静時の筋活動の平均振幅の2標準偏差を超える点とし,データ分析には,各筋がフィードフォワード活動であったかを検出するために,各筋の開始時間と大腿二頭筋の相対的な差を分析した。各筋の相対的な活動開始時間を求める式は,各筋の筋活動開始時間-大腿二頭筋の活動開始時間で算出した。従って,負の値は,その筋が大腿二頭筋の前に活動したことを示す。統計学的解析では,統計解析ソフトSPSS 22.0(IBM社製)を用い,反復測定分散分析とTukeyの多重比較検定を実施し,各筋の相対的な筋活動開始時間の差を検出した。なお,危険率は5%未満とした。【結果】相対的な筋活動開始時間は,同側多裂筋(-3.8±9.2 ms),対側多裂筋(7.0±13.5 ms),対側の腰部脊柱起立筋(8.3±14.1 ms),同側の腰部脊柱起立筋(22.6±21.6 ms),対側の広背筋(24.5±26.1 ms),大殿筋(51.6±57.9 ms)の順であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。また同側の腰部多裂筋は同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも有意に速く活動した。【考察】フィードフォワード活動は,主動作筋の筋活動開始の100ms前から50ms後と定義される(Hodgeら1997)。そのため本研究のすべての体幹筋は,フィードフォワードの活動であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。これは,大殿筋が働く前に体幹を安定化させるためだと考えられる。また同側の多裂筋の活動は,同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも早期に活動した。これは,PHE時に多裂筋が最も早期に活動したとするTateuchiら(2012)の結果と類似している。彼らは,多裂筋の活動開始が遅延すると骨盤の前傾角度が増加すると報告している。また腰部多裂筋は,腰椎の分節的な安定性に関与すると報告されている(Richardsonら2002)。これらのことから本研究で多裂筋が早期に活動したことは,股関節が伸展する前に腰椎の分節的な安定性を増加させるために生じたと考えられる。対側の広背筋の活動は,大殿筋よりも早期に活動した。骨盤の安定性は,広背筋,胸腰筋膜,大殿筋の後斜走スリングの筋膜などによって担っている。そのため広背筋が早期に活動したことは,大殿筋が活動する前に胸腰筋膜の緊張が高まり,大殿筋の活動開始時に効率よく骨盤部の安定性が高められたと思われる。【理学療法学研究としての意義】健常者におけるPHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間が明らかとなった。本研究の結果をPHEの正常運動の基礎的資料とし,今後,腰痛を持つ者との差を検討することにより腰痛者の理学療法に寄与できる点で意義がある。
著者
山中 愛梨 高木 裕美 小原 謙一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】中腰姿勢は立位姿勢と比較して,重心線から体幹長軸および下肢関節軸位置が逸脱しているため不安定な姿勢と言え,転倒との関連性が推測される。転倒に関連する重心動揺についてWatanabeら(2010)は,指先での壁面軽接触が重心動揺を減少させ得ると報告している。そこで本研究は,中腰姿勢における重心動揺を減少させ得る指先以外の軽接触部位を検討することで,中腰姿勢での日常生活動作時における上肢活動(例:排泄後の清拭動作)を安定して行えるようにする方法を考案するための基礎的資料とすることを目的に実験を行った。【方法】対象は,若年健常成人40名(年齢:20.5±0.7歳,男性20名,女性20名)とした。実験条件である軽接触部位は,肩峰部,大転子部,大腿骨外側顆部とし,コントロール条件として軽接触なし条件を加えた4条件で実験を行った。これらの接触部位は,解剖学的構造上の突出部位であり,かつ側方からの軽接触が行いやすい部位であるという理由から選出した。高さの異なる各部位に軽接触を行うために,先端にスポンジを装着した棒を身長計のヒット部に固定した器具を使用した。重心動揺の測定には重心動揺計(アニマ社製GP-7)を使用した。中腰姿勢が不安定となる状況を想定し,その代表的な例として片麻痺者を挙げ,その片脚荷重量を参考(朝山,1991)とし,実験前に体重の83%の右下肢への荷重練習を中腰姿勢で行った。その後,対象者には,測定肢位である中腰姿勢(股関節屈曲90度,膝関節屈曲60度,体幹傾斜角度は対象者の任意)を重心動揺計上でとるように指示し,重心動揺が安定したことを確認した後に測定を開始した。測定時間は30秒間とし,各条件につき3回ずつ施行し,平均値を統計学的解析に採用した。測定結果の抽出項目は,総軌跡長と矩形面積とした。統計学的解析は,4条件間の比較のために,一元配置分散分析とBonfferoni法の多重比較を用い,危険率5%未満をもって有意とし,危険率10%未満をもって傾向があると判断した。【結果】()内に重心動揺測定値を軽接触なし,肩峰接触,大転子接触,大腿骨外側顆部接触の順に示す。総軌跡長(cm)は,(66.1±10.7,47.4±11.9,55.0±15.7,57.5±12.0)であり,肩峰接触と大転子接触は,接触なしと比較して有意に低値を示し(p<0.05),肩峰接触は大腿骨外側顆部接触と比較して低値を示す傾向であった(p<0.10)。矩形面積(cm2)は,(9.8±3.5,3.4±1.7,4.9±2.1,6.8±2.6)であり,接触なしは他の条件と比較して有意に高値を示した(p<0.05)。肩峰接触は大腿骨外側顆部接触よりも有意に低値を示し(p<0.05),大転子条件は大腿骨外側顆部接触よりも低値を示す傾向が認められた(p<0.10)。本研究結果より身体部位,特に肩峰での軽接触で重心動揺が軽減することが示唆された。【考察】軽接触なしと比較し,軽接触ありの他の条件で有意な減少が認められたことから,手指以外の部位での軽接触による感覚入力は,重心動揺を減少させ得ると考える。また軽接触3条件の各部位における触覚受容器の分布を調べるため,予備実験を行ったところ,2点識別閾値の平均値は肩峰部40mm,大転子部48mm,大腿骨外側顆部27mmであり,統計学的解析により,大転子部と比較し,大腿骨外側顆部では有意に低値を示していた。これらの結果より,感覚入力の情報量として,大腿骨外側顆部が他の2つの部位よりも多いことが考えられる。一方で,本研究結果では肩峰への軽接触が中腰姿勢の重心動揺をより減少させていた。さらに,総軌跡長において,触覚受容器が多く分布する大腿骨外側顆部は接触なしと比較して有意な減少が認められなかった。力学的有利性の観点から,支点の近くに作用させることにより力はその効果を失い,同じ力を支点から離れたところに作用させることによって,力学的有利性の効果を得る。足部を支点においた場合,支点からの距離が最も離れている肩峰での接触が力学的に有利であり,その他の部位よりも安定性が高いと考えられる。これらのことから,手指以外の部位での軽接触による中腰姿勢の安定には,感覚的要因に加えて力学的要因が関与していること示唆された。【理学療法学研究としての意義】中腰姿勢が不安定で,さらに片側上肢の使用が困難なうえで上肢による支持が必要な人の清拭動作の安定性の向上を図っていく一助として,一般家屋もしくは医療機関において,トイレ個室内の手すりの配置や形状を肩峰へ接触できるような環境設備が示されたことは,転倒予防の観点から意義がある。
著者
吉村 洋輔 石田 弘 小原 謙一 大坂 裕 伊藤 智崇 吉政 かおり 井上 かよ子 伊勢 眞樹 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0417, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 人間は歩行中,両側の腕を無意識のうちに振っているが,これは単なる振り子運動ではなく,歩行を円滑に行うために中枢神経系に組み込まれた機構の一つであると考えられている.しかし,実際の生活の中では荷物を持つ,ポケットに手を入れて歩くなど腕を振らないで歩いていることも少なくはない.さらに臨床場面に目を向けると,高齢者や障害者では杖をつく必要があったり,上肢の機能障害のために腕を振れない状態にある者も少なくはない.また,近年では,下肢の振りに合わせて対側ではなく同側の上肢を振った方が歩行速度の改善や歩行耐久性の向上につながることも報告され,いくつかの実証例も存在する.歩行時の上肢の腕振りの状態が歩行動作の歩行率やエネルギー消費にどう影響するかを検討した報告は少なく,特に下肢の筋活動についての比較は見当たらない.ここでは歩行中の腕振りの状態が下肢筋活動にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることにより,今後の歩行指導に役立てることを目的とした.【方法】 対象は研究の趣旨に同意を得られた健常成人8名(平均年齢22.5±0.5歳,平均体重52.7±1.7kg)であり,男女の内訳は男性4名,女性4名であった.各自の快適速度にて10m平地歩行をした際の歩行速度を算出し,その速度にて (1)腕の振りを固定しない自由な歩行(以下,自由歩行群),(2)上肢を同側の大腿部に固定し,腕の振りを制限した歩行(以下,固定歩行群)をそれぞれトレッドミル上にて30分間行った.その後,それぞれの条件下での歩行時の右大腿直筋(以下,RF),右大腿二頭筋(以下,BF),右前脛骨筋(以下,TA),右外側腓腹筋(以下,GL)の筋活動を表面筋電計(キッセイコムテック社製,Vital Recorder 2)にて計測し,付属のソフトであるBIMUTAS IIにて解析を行った.なお,両群での筋活動をフットスイッチからの信号により立脚相と遊脚相に分けてそれぞれを比較した.なお,筋疲労の蓄積を考慮し,自由歩行群と固定歩行群の計測には3日以上の間隔をあけて実施した.筋活動の比較は各筋の最大随意収縮値を100%として正規化し%MVCとして3歩行周期分の平均にて比較検討した.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS 17.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用いて,Wilcoxon符号順位和検定を行い,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて十分説明した上で協力を求め,同意書に署名を得た.【結果】 自由歩行群の30分トレッドミル歩行後のRF,BF,TA,GLの筋活動は,立脚相ではそれぞれ13.6±10.3(%),15.1±16.9(%),11.2±5.5(%),60.4±41.9(%)であり,遊脚相では12.4±14.0(%),18.4±14.3(%),22.7±6.8(%),15.4±9.0(%)であった.固定歩行群の30分歩行後のRF,BF,TA,GLの筋活動は,立脚相ではそれぞれ10.7±8.4(%),8.8±7.6(%),11.3±3.5(%),53.5±25.9(%)であり,遊脚相では6.1±4.2(%),12.0±5.2(%),20.7±6.8(%),18.2±21.6(%)であった.自由歩行群と固定歩行群の歩行後の各筋の筋活動の比較では,RFの立脚相では有意差を認めなかったが,遊脚相では有意差を認めた.BF,TAにおいては立脚相,遊脚相ともに有意差を認めなかったが,自由歩行群に比べ固定歩行群では筋活動が低値である傾向を認めた.GLでは両群間の立脚相においてその筋活動に有意差を認めた.【考察】 遊脚相におけるRFと立脚相におけるGLの筋活動は歩行周期の中で特にその働きが重要であるが,自由歩行群に比べ固定歩行群では,それらの筋活動において有意な低下を認めた.その他の筋の活動においても,固定歩行群では低値を示す傾向にあった.長い時間の歩行においては,上肢の振りを下肢の振りに合わせた方が下肢筋への負荷や疲労が少ないことを示唆する結果となった.なんば歩行と呼ばれる腕振りを同側下肢の振り出しに合わせた歩行様式ではエネルギー消費や酸素摂取量が変化することも報告されており,陸上競技などでのコーチング内容として紹介されることも多い.さらに,日常場面や臨床場面では上肢の動きが制限される場面もある.また理学療法治療場面では,下肢筋力や筋持久力が低下している患者も多いが,そのような患者がある程度以上連続して行える歩行能力の獲得には腕振りの状態を考慮する必要があるといえる.【理学療法学研究としての意義】 連続歩行の際に腕振りを制限することによる下肢機能への影響を下肢筋活動の観点から示すことができた.筋力低下や廃用症候群などにより歩行障害を呈する患者への歩行練習を指導する際の基礎的資料となり得ることから,理学療法学研究としての意義があるものと考えられる.
著者
西本 哲也 小原 謙一 藤田 大介 土屋 景子 西本 東彦
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, 2007-04-20

【目的】理学療法教育場面で学生のモチベーションの問題は大きく取り上げられ、多数の養成校で授業や実習形態の工夫がなされている。問題解決型学習やクリニカルクラークシップなどもそうであり、臨床に即した実践・模擬実践を通して学生のモチベーションや臨床適応能力向上に効果があることが報告され、それらから学ぶべきことが非常に多い。我々はモチベーションが向上する背景には必然的にポジティブ感情が伴っているような漠然としたイメージを抱いている。Fredricksonはポジティブ感情が思考と行動のレパートリーを増加させるという拡大-構築理論を提唱しているが、今回我々はポジティブ感情の付与要素を創造・実現的刺激と、娯楽・癒し的刺激に分け、各々が行動意欲にどのような影響を及ぼすかを検討し、学生に有効なポジティブ感情を付与するための要素を見出そうとした。<BR>【方法】岡山県内の福祉施設業務に従事する介護関係職、看護師、ボランティアの計49名を対象とし、約2時間のイベント前後の行動意欲および気分について調査した。イベントはA群(男性6名・女性14名、平均31歳)が「介護予防におけるリハビリの基本技術」研修会、B群(男性4名・女性11名、平均34歳)が一般に人気の娯楽番組を2番組続けて鑑賞、C群(男性4名・女性10名、平均36歳)はコントロール群でイベントは通常の業務内容であった。行動意欲は単語レベルの自由記載で現在したいことを全て記入してもらい(5分間)、その後幾つかのカテゴリーに分類した。気分については坂野らの気分調査票を使用した。行動意欲、気分調査はイベント前後での記載数、点数を比較(Wilcoxon検定;p<0.05)し、カテゴリー、項目のイベント前後での増減についての比率も比較検討した(2サンプル比率検定;p<0.05)。またA・B群は終了後の満足度についての5段階評価も行った。<BR>【結果】行動意欲については小川らの研究を参考に10のカテゴリーに分類した。A・B群ではイベント前後で記載事項が有意に増えており、A群では「勉強・仕事」が有意に増加していた。B群では「遊び」など幾つかのカテゴリーでの増加傾向が見られたが有意に増えたカテゴリーはなく「勉強・仕事」はむしろ減少傾向であった。C群でも有意に増えたカテゴリーはなかった。気分調査ではどの群もイベント前後で有意な変化は見られなかったが、A・Bでは「爽快感」で増加傾向が、「疲労感」「不安感」で減少傾向が見られた。満足度はA・B群とも2名を除き4以上であった。<BR>【考察】A・B群ともイベントによる行動意欲の拡大が示唆されたが、A群ではより創造・実現的な要素が拡大され、B群のイベントである娯楽的な刺激ではその要素はむしろ減少した。息抜きは癒しになるが創造・実現なポジティブ感情を誘発することは難しい可能性がある。今後は行動意欲とストレス尺度や不安尺度との関連を調査する必要性を感じた。