著者
田邉 規和 播磨 夕美子 橋本 真一 寺井 崇二 山﨑 隆弘 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.33-37, 2013-02-01 (Released:2013-03-14)
参考文献数
11

症例は31歳の女性.18歳時にCrohn病と診断され,当科での治療を開始された.経腸栄養療法や5-ASA製剤,ステロイドや抗TNFα抗体製剤等の内科的治療を行うも効果不十分であり,消化管合併症の悪化から24歳時に回腸部分切除術,26歳時に回盲部切除術,28歳時に回腸および上行結腸切除術を施行し,残存小腸は約280cmとなった.その後も症状は安定せず,成分栄養剤による経腸栄養療法を勧めるも患者の理解が得られず,長期の絶食および中心静脈栄養を施行していた.31歳時頃より,見当識障害および活動性低下が認められたため当科入院となった.腹部骨盤単純CT検査上,肝萎縮を伴う肝硬変の状態と考えられ,血液生化学検査にて著明な肝機能障害およびアンモニア値の上昇を認めたため,非代償性肝硬変症による肝性脳症と診断された.血液検査上HBVおよびHCV感染は否定され,飲酒歴もなく,以前より脂肪肝が認められ,肝胆道系酵素の上昇も認められていたことから,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)による非代償性肝硬変と診断した.年齢と肝機能から肝移植を考慮したが,適したドナーがいなかったことと,患者が肝移植を希望しなかったことから対症療法を継続した.その後もCrohn病や肝硬変の加療で入退院を繰り返し肝不全により死亡した.重症Crohn病の経過中に複数の要因からNASHを併発し非代償性肝硬変症へ進展した,極めてまれな症例を経験したため報告する.
著者
野口 哲央 花園 忠相 森 健治 沖田 幸祐 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.241-246, 2013-11-01 (Released:2014-02-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

症例は65歳の女性で,下腹部痛を主訴に受診し,腹部CTで内臓動脈瘤破裂による腹腔内出血と診断された.血管造影検査では広範囲にわたって血管径の不整や動脈瘤が認められ,回結腸動脈瘤が出血源と考えられた.動脈塞栓術にて症状は改善した.血管造影所見から分節性動脈中膜融解,segmental arterial mediolysis(以下,SAM)と診断された.TAE後1年10ヵ月のCTでは,未治療の動脈瘤と血管狭窄は消失していた.SAMは比較的稀な疾患であり,長期予後の報告もないため自然予後を理解する上で興味ある症例と思われたので,報告する.
著者
山下 智省 鈴木 千衣子 谷川 幸治 坂井田 功 沖田 極
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.636-644, 1999-12-25 (Released:2010-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
6 6

肝硬変患者におけるグルコース利用能を評価する目的でグルコースを経口的あるいは経静脈的に投与した後のグルコース利用率と非蛋白呼吸商を間接カロリーメーターを用いて計測した. 経口的, 経静脈的投与のいずれにおいても対照に比し肝硬変患者ではグルコースの利用が遅延する傾向を認めた. 肝硬変患者を代償期群と非代償期群とに, あるいはChild分類別に分けた比較では肝硬変がより進展した群においてグルコース利用能は亢進していた. 経口的投与後のグルコース利用率はbody mass indexとの間に有意な負の相関を, クレアチニン身長係数比との間に有意な正の相関を認めたが, 血中アルブミン, コレステロール, プロトロンビン時間およびアンモニアとの間には相関を認めなかった. 肝硬変患者では進行例においても遅延しながらもグルコース利用能は亢進しており, このことは末梢組織でのグルコース利用の亢進を反映していると考えられる.
著者
福井 悠美 佐伯 一成 花園 忠相 田邉 規和 浦田 洋平 日髙 勲 寺井 崇二 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.35-40, 2015-02-01 (Released:2016-05-11)
参考文献数
18

肝細胞癌(HCC;hepatocellular carcinoma)の自然破裂はしばしば遭遇する病態である.しかし,肝動脈化学塞栓療法(TACE;transcatheter arterial chemoembolization)施行直後に破裂を来した症例の報告は比較的まれであり,今回,HCCに対しTACE施行直後に破裂を来した一例を経験したので報告する.患者は73歳男性,背景肝は慢性肝障害(非B非C)であり,20XX年5月に肝S7のHCCに対して,開胸開腹S7亜区域切除術を施行した.翌年5月,肝両葉にHCCの再発を認め,リピオドール併用肝動脈化学療法(Lip-TAI;lipiodol - transcatheter arterial infusion)を施行したが,肝S2の腫瘍はリピオドール貯留不良であった.7月には同S2病変は径38×20mm大に増大し,肝表面に突出していた.同病変に対してTACEを施行したが,治療終了4時間後に心窩部痛が出現し,収縮期血圧は60mmHg台に低下した.細胞外液負荷にて速やかに収縮期血圧90mmHg台まで上昇したため経過観察としたが,徐々に貧血が進行した(術前Hb 11g/dl → 術後Hb 6.2g/dl).術後4日目の腹部エコーおよび腹部造影CTで,TACE施行後の肝S2のHCCの周囲に血腫を認めた.明らかな造影剤の漏出は認めなかったが,HCC破裂による貧血進行と判断し,同日再出血予防のため肝動脈塞栓療法(TAE;transcatheter arterial embolization)を施行した.TAE施行後は再出血なく経過した.本症例では,HCCが増大傾向にあり,肝表面に突出していたことから,元々HCC破裂の可能性も考慮すべきであった.加えて,TAE施行時にTACE後の肝S2HCCに血流の残存を認め,塞栓が不十分であったことが判明した.以上のことから,TACEに伴う様々な刺激,血流残存などの要因によりHCC破裂を来したことが推察された.したがって,本症例のように肝表面に局在するHCCに対してTACEを施行する際には,TACE後破裂のリスクも想定して,慎重かつ確実に肝動脈を塞栓し,厳重な経過観察をしていくことが重要と考えられる.
著者
内田 耕一 寺井 崇二 山本 直樹 飯塚 徳男 坂井田 功
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

我々は漢方薬・防風通聖散(TJ-62)および大柴胡湯(TJ-8)の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する治療効果の検討のため、ラットコリン欠乏性脂肪性肝炎・肝硬変モデルを用いて実験を行なった。防風通聖散投与群および大柴胡湯投与群は肝線維化を有意に改善した。肝星細胞の活性化を有意に抑制した。また肝発癌については前癌性病変のマーカーであるGSTP蛋白の発現が、防風通聖散投与群と大柴胡湯投与群では有意に抑制した。これらの漢方薬での結果を2008年11月米国、サンフランシスコで開催された第95回アメリカ肝臓病学会でそれぞれ発表した。