著者
福山 朋季 渡部 優子 田島 均 田食 里沙子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S14-3, 2019 (Released:2019-07-10)

外来性エストロゲンは免疫機能に影響を及ぼす事が知られており、我々はこれまでに、幼若期の外来性エストロゲン曝露が成熟期のアレルギー病態を悪化させる事を証明した。しかし、外来性エストロゲンに関するこれまでの動物実験の報告は、胎児期ないし幼若期にエストロゲンを曝露し、休薬期間後の成熟期におけるアレルギー病態の増悪しか見ておらず、エストロゲン曝露とアレルギー病態増悪の直接的な因果関係は不明である。本発表では、我々が調査したエストロゲン曝露とアレルギー病態増悪の直接的な因果関係について概要を紹介する。In vivo実験では、Th2型ハプテン誘発皮膚ないし気道アレルギー炎症モデルのアレルギー惹起直前にPPT (エストロゲン受容体α (ERα) アゴニスト) およびDPN (ERβアゴニスト) を経口投与し、惹起後の皮膚ないし肺の炎症、痒み反応さらに各標的組織における免疫担当細胞数と炎症性サイトカイン産生量を測定した。In vitro実験では、ヒト角化細胞およびヒト気道上皮由来細胞株にPPTおよびDPNを24時間曝露し、免疫刺激後の炎症性サイトカイン産生量を測定した。結果、皮膚アレルギーモデルでは、皮膚の炎症反応および痒み反応がPPT曝露のみで増加したのに対し、気道アレルギーモデルでは、肺の炎症反応がPPTおよびDPNのいずれの曝露によっても増加した。TSLPやIL-33といった炎症性サイトカインも、皮膚アレルギーモデルではPPT曝露によってのみ増加したのに対し、気道アレルギーモデルではPPTおよびDPN曝露のいずれによっても増加した。In vitro実験においても、ヒト角化細胞はPPT曝露のみで炎症性サイトカイン産生量が上昇したのに対し、ヒト気道上皮細胞ではPPTおよびDPNいずれの曝露によっても炎症性サイトカイン産生量が増加した。以上の結果は、エストロゲン曝露がアレルギー病態悪化に直接的に寄与している事を証明していると同時に、皮膚アレルギーおよび気道アレルギーでは、依存するエストロゲン受容体が異なる可能性が示唆された。
著者
首藤 康文 福山 朋季 藤江 秀彰 小嶋 五百合 富田 真理子 小坂 忠司 原田 孝則
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.36, pp.4151, 2009

パラチオン(P)とメタミドホス(M)、2種の有機リン剤を2週間にわたり雌性ラットに反復経口投与し、一般毒性、神経毒性および免疫毒性関連項目を指標に複合曝露影響を検索した。<BR>供試動物:8 週齢のWistar Hannover系雌ラット 8匹/群<BR>実験群:溶媒対照群(コーンオイルと1% Tween80の1:1混合乳化液)、パラチオン単剤投与群(P0.6 mg/kg)、メタミドホス単剤投与群(M0.8 mg/kg)、複合投与群(P0.6 mg/kg+M0.2 mg/kg、P0.6 mg/kg+M0.4 mg/kg、P0.6 mg/kg+M0.8 mg/kg)の計6群<BR>投与方法:胃ゾンデを用いた14日間反復強制経口投与<BR>検査項目:一般毒性(体重、一般状態、血液・生化学的検査)、神経毒性(神経症状、瞳孔径、自発運動量、高架式十字迷路検査、脳重量、血漿および脳コリンエステラーゼ(ChE)活性測定)および免疫毒性関連項目(胸腺の細胞数測定およびフローサイトメータを用いたリンパ球サブセット解析)<BR>結果・考察:一般毒性指標および免疫毒性指標に変化は認められなかった。神経毒性学的検査では、複合曝露によってChE活性阻害作用の増強、有機リン剤曝露における鋭敏な臨床指標である縮瞳の重篤化などの神経作用が強く認められた。また、末梢神経性の症状は速やかに、中枢性の症状はやや遅れて発現する傾向が認められた。さらに、自発運動量の測定結果から、ChE活性阻害による運動量低下と認知機能低下による運動量増加の、相反する作用が混在している可能性が考えられた。認知機能低下については、症状観察において警戒性低下が認められたことおよび高架式十字迷路検査において開架/閉架間の移動回数が減少していたことから、複合曝露による注意力あるいは作業空間記憶への影響が疑われた。(平成20年度 厚生労働省科学研究事業)
著者
福山 朋季 田島 由香里 林 宏一 上田 英夫 小坂 忠司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20126, 2011 (Released:2011-08-11)

一部の有機リンおよび有機塩素系化合物による免疫抑制作用の報告は数多くなされており,我々の研究室でもin vivoおよびin vitro下で検証を実施した。近年,免疫抑制反応の回復段階で増殖した異常リンパ球細胞により,アレルギーや自己免疫性疾患といった免疫異常の発症リスクの上昇が危惧されている。本研究では,有機リンおよび有機塩素系化合物といった環境中化学物質により引き起こされる免疫抑制作用と,化学物質アレルギー発症の関連性について調査を行った。実験には4週齢の雌性Balb/cマウスを用い,免疫抑制化学物質として有機リン化合物のパラチオン(0, 0.15, 1.5 mg/kg)と有機塩素系化合物のメトキシクロル(0, 30, 300 mg/kg)を4週齢時に5日間経口投与した。8週齢時にTh1タイプアレルゲンのDNCB(0%, 0.03%, 0.1%, 0.3%)とTh2タイプアレルゲンのTMA(0%, 0.1%, 0.3%, 1%)を用いたLocal Lymph Node Assay(LLNA法)を実施した。また,DNCB 0.1%とTMA 0.3%についてリンパ節中のT細胞分類,サイトカイン産生量およびアレルギー関連遺伝子発現解析を行った。LLNA法の結果,DNCBおよびTMAのEC3値 (感作陽性の指標)が,パラチオンおよびメトキシクロルの用量依存的に減少し,パラチオンおよびメトキシクロルの投与がアレルギー反応の増大に寄与していることを示していた。また,採取したリンパ節を詳細に解析した結果,パラチオンおよびメトキシクロル投与により,Helper-およびCytotoxic-T細胞,サイトカイン産生量およびアレルギー関連遺伝子発現が有意に増加しており,LLNA法の結果を補佐していた。上記結果は,パラチオンやメトキシクロルといった免疫抑制化学物質による免疫機能の破綻が,化学物質アレルゲンに対する反応性を増大させることを示唆していた。