著者
石松 伸一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.193, 2011 (Released:2011-08-11)

【はじめに】1995年3月20日朝、発生した地下鉄サリン事件では死者13名、傷病者6000名を超えるテロ事件であった。当院では当日だけで640名、その後1週間で1200名以上の傷病者が来院した。初期に見られた中毒症状も次第に軽減し、消失するものと思われたが、1年以上を経過しても症状の残存する事例を多数経験したので、継続的に症状の追跡調査を開始した。 【方法】事件後5年間は、当院を初診した被害者にアンケート用紙を郵送して記入後返信してもらった。6年以降は同様に被害者のケアを行なっていたNPO法人リカバリーサポートセンター(RSC)とともに調査を行ない、希望者には検診を実施した。症状アンケートは事件後、被害者の訴えの多かった33種類の症状について重症度を1〜5までのリカートスケールを用いた。なお重症度の3〜5と回答したものを「症状あり」とした。 【結果】後遺症と認定されている眼症状、PTSDをはじめとする精神症状以外での身体症状では、「体がだるい」1年後7.3%、5年後16.0%、10年後43.4%、「体が疲れやすい」は1年後11.9%、5年後23.1%、10年後56.3%、「頭痛」は1年後8.6%、5年後12.5%、10年後44.7%、「下痢をしやすい」は1年後1.0%、5年後11.9%、10年後18.6%。なお、アンケート調査開始時には項目になかった症状のうち「手足のしびれ」は13年後の時点で49.8%と実に半数近くが症状を訴えていた。また受傷時未成年であった被害者への小児科による追跡調査では身体症状は遅発的に発生しており、精神健康度、不安尺度ともに正常域であった。 【考察】多くの身体症状で経年的に訴える頻度が増加していたことは、年齢の変化以外にアンケート回答者の特異性などの因子も関連していると思われるが、有機リン系毒物の遅発的障害に関しても否定できない。
著者
神野 透人 古川 容子 大河原 晋 西村 哲治 香川(田中) 聡子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20064, 2011 (Released:2011-08-11)

【目的】室内環境中の化学物質が発症の原因あるいは増悪因子となり得る疾病として、いわゆるシックハウス症候群や気管支喘息等があるが、その発症機序の詳細には未解明な部分も多い。本研究では主に塗料や粘着剤・接着剤、アクリル樹脂等の原料として利用されており、既に呼吸器/皮膚感作性が確認されている物質も含まれているアクリル酸及びメタクリル酸とそのエステル類について、侵害刺激受容体であり気管支喘息にも深く関与することが示唆されているTransient Receptor Potential (TRP) A1及びTRPV1 に対する活性化作用を検討した。 【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりRT-PCRによってTRPA1及びTRPV1 cDNAをクローニングし、それぞれを安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立した。得られた細胞株の細胞内Ca 2+濃度の増加を指標としてTPRA1及びTRPV1イオンチャネルの活性化を評価した。 【結果】アクリル酸及びメタクリル酸とそのエステル類14物質について、ヒトTPRA1及びTRPV1に対する活性化能を評価した。その結果、TRPV1に対する活性化能は本研究で対象とした14物質には認められなかったが、アクリル酸ブチル及びメタクリル酸ブチルがTPRA1を活性化する作用を有することが明らかになった。我々はこれまでに家庭用品から放散される揮発性有機化合物の評価試験を実施し、パーソナルコンピューターやテレビ等多種多様な家庭用品からからある種のアクリル酸エステル類・メタクリル酸エステル類が放散することを見いだしている。本研究結果から、これら家庭用品から放散されるアクリル酸エステル類・メタクリル酸エステル類がTRPA1を介した感覚神経あるいは気道の刺激を引き起こす可能性が考えられる。
著者
北村 繁幸 浦丸 直人 井上 俊夫 鈴木 祐子 尾崎 ひとみ 杉原 数美 太田 茂
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20067, 2011 (Released:2011-08-11)

【目的】パラベン類(p-hydroxyalkylbenzoates)は、抗菌作用を有し保存料として食品、化粧品、医薬品等の様々な製品に使用されており、とくに化粧品中では最も頻繁に使用されている防腐剤である。化粧品の特性上、直接皮膚に使用するため、接触皮膚炎などのアレルギー症状が問題となっており、化粧品成分中の防腐剤が感作性物質(アレルゲン)になることが懸念されている。本研究では、パラベン類のアレルギー反応及びアレルギー反応へのパラベン類の代謝の関与を明らかにすることを目的とする。 【方法】代謝実験に供したラット肝ミクロゾームはSD系ラット肝より調製した。被検化合物はラット肝ミクロゾームと共に反応させ、代謝生成物であるp-ヒドロキシ安息香酸をHPLCにて測定した。抗原性試験はモルモットの皮膚反応にて検討した。被検化合物のヒスタミン遊離実験には、Wistar系ラットの腹腔から精製したマスト細胞を用いた。被検化合物をマスト細胞と共に反応させ、遊離したヒスタミンをHPLCにて測定した。 【結果および考察】代謝実験では、ラット肝ミクロソームはパラベン類に対して加水分解活性を示した。ブチルパラベンにて感作したモルモットおいて、ブチルパラベンでは弱いながら皮膚紅斑が認められた。p-ヒドロキシ安息香酸では、濃度依存的なマスト細胞からのヒスタミン遊離作用が認められた。一方、ブチルパラベンでは、低濃度域ではヒスタミン遊離作用は認められないものの高濃度域では認められた。ブチルパラベンにおけるアレルギー反応の発症には、p-ヒドロキシ安息香酸への代謝反応の関与が考えられる。
著者
畑 竜也 宮田 昌明 吉成 浩一 山添 康
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20018, 2011 (Released:2011-08-11)

胆汁酸の肝内濃度上昇は細胞を障害し、肝障害を誘起する。このため、肝内の胆汁酸レベルは厳密に制御されている。肝内胆汁酸レベルは、肝臓におけるコレステロールからの胆汁酸の合成調節によって維持されている。近年、胆汁酸合成を抑制する因子として、回腸で発現するfibroblast growth factor (FGF) 15/19が注目されている。最近当研究室では、マウスへの抗菌薬投与時に認められる肝内胆汁酸レベルの上昇に、ヒトFGF19の相同分子種であるFGF15の発現低下が関与することを明らかにした。FGF15/19の発現は胆汁酸によって調節されると考えられているが、転写レベルの発現調節の機序に関しては不明な点が多い。そこで、本研究では、胆汁酸による転写レベルのヒトFGF19の発現調節を検討した。FGF19遺伝子のプロモーター領域約9 kbを含むレポーターコンストラクトを作製し、ヒト結腸がん由来LS174T細胞を用いてレポーターアッセイを行った。ヒトの主要胆汁酸のchenodeoxycholic acid (CDCA)を単独処置した時、コントロール群に比べて明確な応答が見られなかったが、同時に胆汁酸をリガンドとする核内受容体のfarnesoid X receptor (FXR)を細胞に発現させると、CDCA処置時に応答が見られた。次に、約9 kbのプロモーター領域を段階的に欠失させ、応答を解析したところ、複数の胆汁酸/FXR応答領域の存在が示唆された。また、ゲルシフトアッセイによりFXRの結合が確認された。さらに、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域とこれまでに報告されているFGF19遺伝子の第2イントロン上のFXR結合配列が胆汁酸によるFGF19遺伝子の転写活性化に対しどの程度寄与しているかレポーターアッセイにより検討した。その結果、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域を含むプロモーター領域のコンストラクトではCDCA/FXRで約8倍、第2イントロンを含むコンストラクトでは約4倍活性が上昇した。さらに、両コンストラクトを同時につなげた時は約16倍活性が上昇し、相乗的な作用が見られた。以上の結果より、胆汁酸はFXRを活性化し、第2イントロンのFXR結合配列のみならずプロモーター領域の複数のFXR応答領域を介して相乗的にFGF19遺伝子の転写を亢進している可能性が示された。
著者
田中 豊人 高橋 省 大山 謙一 小縣 昭夫 中江 大
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20051, 2011 (Released:2011-08-11)

【目的】ネオニコチノイド系農薬の殺虫剤であるクロチアニジンについて行動発達毒性試験を行い、マウスの次世代の行動発達に及ぼす影響の有無について検討する。 【方法】クロチアニジンを混餌法によりCD1マウスに0(対照群)、0.003%、0.006%、0.012%となるように調製してマウスのF0世代の5週齢からF1世代の12週齢までの2世代にわたって投与して、マウスの行動発達に及ぼす影響について検討した。 【結果】F0世代の探査行動では、雄の平均移動時間・立ち上がり回数・立ち上がり時間が用量依存的に増加する傾向が見られた。F1世代の仔マウスの体重は授乳期の初期に用量依存的に増加した。また、授乳期間中の行動発達では雄仔マウスの7日齢時遊泳試験の頭角度が用量依存的に抑制された。さらに、雌仔マウスの7日齢時背地走性が用量依存的に抑制された。F1世代の探査行動については、雌仔マウスの立ち上がり回数が用量依存的に増加する傾向が見られた。さらに、F1世代の雄成体マウスの移動時間が用量依存的に増加する傾向が見られ、一回あたりの平均立ち上がり時間が中濃度投与群で短縮された。F1世代の自発行動にはクロチアニジンの投与の影響は見られなかった。 【まとめ】本実験においてクロチアニジンの継代投与により、次世代マウスの行動発達に対していくつかの影響が観察された。本実験で用いられたクロチアニジンの用量はADI値を基に算出された(0.006%がADI値の約100倍相当)ものであるが、実際の人の摂取量はADI値の1/25以下であるので現実的なクロチアニジンの摂取量では人に対して影響を及ぼさないものと思われる。
著者
田畑 肇 坂本 和仁 門倉 豪臣 蓑毛 博文 瀬戸山 孔三郎 谷口 康徳 福岡 香織 北村 知宏 所 和美 洲加本 孝幸 宮前 陽一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20139, 2011 (Released:2011-08-11)

Fluoride is a natural component of the biosphere, the 13th most abundant element in the earth’s crust. Fluoride has been known to play an important role in mineralization of bone and teeth, and can be therapeutically used at low doses for dental care and prevention or at high doses for the treatment of osteoporosis. Particularly in cases of the development of a fluoride compound as a proprietary drug, liberated fluoride ions may bring the risk of causing dental or skeletal fluorosis in animals treated with high doses of fluoride drugs in toxicity studies. However, there are limited data on changes in fluoride levels in hard tissues of the body over animal life spans. In the present work, we obtained plasma, teeth (incisors and molars), bones (alveolar, femur and tibia) and nails from SD rats at 8, 11, 20, 33, 46, 59 and 72 weeks of age and determined fluoride levels individually. Fluoride accumulated time-dependently in bones, nails and molars in a similar manner, with fluoride levels increasing 2-3 folds from 8 to 72 weeks of age. In contrast, fluoride levels in plasma and incisors, which grow continuously in living rats, showed almost constant values. These data can be used not only as a historical database for the effective evaluation of data from toxicology studies, but also as a contribution to biological characterization of SD rats.
著者
福山 朋季 田島 由香里 林 宏一 上田 英夫 小坂 忠司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20126, 2011 (Released:2011-08-11)

一部の有機リンおよび有機塩素系化合物による免疫抑制作用の報告は数多くなされており,我々の研究室でもin vivoおよびin vitro下で検証を実施した。近年,免疫抑制反応の回復段階で増殖した異常リンパ球細胞により,アレルギーや自己免疫性疾患といった免疫異常の発症リスクの上昇が危惧されている。本研究では,有機リンおよび有機塩素系化合物といった環境中化学物質により引き起こされる免疫抑制作用と,化学物質アレルギー発症の関連性について調査を行った。実験には4週齢の雌性Balb/cマウスを用い,免疫抑制化学物質として有機リン化合物のパラチオン(0, 0.15, 1.5 mg/kg)と有機塩素系化合物のメトキシクロル(0, 30, 300 mg/kg)を4週齢時に5日間経口投与した。8週齢時にTh1タイプアレルゲンのDNCB(0%, 0.03%, 0.1%, 0.3%)とTh2タイプアレルゲンのTMA(0%, 0.1%, 0.3%, 1%)を用いたLocal Lymph Node Assay(LLNA法)を実施した。また,DNCB 0.1%とTMA 0.3%についてリンパ節中のT細胞分類,サイトカイン産生量およびアレルギー関連遺伝子発現解析を行った。LLNA法の結果,DNCBおよびTMAのEC3値 (感作陽性の指標)が,パラチオンおよびメトキシクロルの用量依存的に減少し,パラチオンおよびメトキシクロルの投与がアレルギー反応の増大に寄与していることを示していた。また,採取したリンパ節を詳細に解析した結果,パラチオンおよびメトキシクロル投与により,Helper-およびCytotoxic-T細胞,サイトカイン産生量およびアレルギー関連遺伝子発現が有意に増加しており,LLNA法の結果を補佐していた。上記結果は,パラチオンやメトキシクロルといった免疫抑制化学物質による免疫機能の破綻が,化学物質アレルゲンに対する反応性を増大させることを示唆していた。