著者
福江 良純
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2-3, pp.25-35, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
18

本研究は,これまで芸術の解釈で一般的であった作品批評によらず,芸術を人間意識が含まれた現象として扱うことで,作品が構造化される仕組みを明らかにしていくものである.ここでは,立体と平面を次元の観点で対照的に捉えるのではなく,両者の間に働く機能に注目することで,その関係を総合的に捉えた.空間の2次元化は投影の典型的機能であり,それが伝統的に絵画の構造を決定してきた.その機能をふまえ,セザンヌの絵画論に端緒を持つキュビスムの構造が,本質的に絵画の条件を超え,実空間及び立体と等しいことを明らかにする.本稿はそこよりさらに,実空間のうちに働く時間についても言及し,近代芸術の理念に関する解釈にも展望を示す.
著者
福江 良純
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Supplement1, pp.145-150, 2007 (Released:2010-08-25)
参考文献数
4

彫刻の古典的模刻技法に「星取り法」と呼ばれる方法がある。古代ギリシャに原理的な起源を持ち、複雑な人物像を、大理石から写実的に彫り出すために発達した、機械的転写の技法である。だが、彫刻家の創意はこの技法を用いながらも、複製だけでなく同形のオリジナル作品を作り出すことが出来る。そこには形と質という二つの形態の現れ方への重心の移動が働く。したがって、この技法が模刻技法である所以の解明は、芸術作品の複製とオリジナルという造形的な問題の構造を明らかにする手掛かりとなる。その際有効なのが、一切の機械的手法に依らない「直彫り法」との対比であり、感覚と形態の間に介在するラインの感覚の考察である。「星取り法」による形状の固定作用を図の固定的性格から説明し、作品のオリジナル性については、「直彫り法」に見られるライン感覚のダイナミズムに根拠を求めてみた。
著者
福江 良純
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.11-20, 2008 (Released:2010-08-25)
参考文献数
17

彫刻の古典的模刻技法に「星取り法」と呼ばれる方法がある.古代ギリシャに原理的な起源を持ち, 複雑な人物像を, 大理石から精確に彫り出すために発達した, 機械的転写の技法である.だが, 彫刻とは単純に外形に還元できるものではなく, 転写の過程には形以外の質的なものが彫り込まれなくてはならない.彫刻家の創意はここに働き, この技法を用いながらも, 複製には尽くされない同形のオリジナル作品を作り出すことが出来る.したがって, この技法による造形的な現象の解明は, 芸術作品の複製とオリジナルという問題の構造を明らかにする手掛かりとなる.その際有効なのが, 一切の機械的手法に依らない「直彫り法」との対比であり, 感覚と形態の問に介在するラインの感覚の考察である.「星取り法」による形状の固定作用を図の固定的性格から説明し, 作品のオリジナル性については, 「直彫り法」に見られるラインの感覚のダイナミズムに根拠を求めてみた.また本論末尾では, 星取り法を用いた創造的な取組の実例として, ロダンに言及する.
著者
福江 良純
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.42, no.Supplement2, pp.57-62, 2008 (Released:2010-08-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

彫刻とは, 材料の素材が持つ3次元の立体性を本質的な形式とする芸術である.線遠近法が平面に奥行き概念を形成するよりも古くから, 彫刻は立体であり続けている.しかし, 彫刻が3次元であるという自明の事実と, 彫刻を立体として捉えるということは同一ではない.そこには, 奥行き概念を平面上で獲得する絵画空間の逆説性にも似た, 特異な立体認識の仕組みがある.つまり, 立体概念とは, 単なる知覚以上の内容を意味し, その点では, ある面主観的な認識といえる.だが, それは2次元の平面に投影された線の感覚を必要とし, それは技術的な検証が可能である.ただし, 彫刻における線の感覚は, 物性を伴う実体に対する操作を直接導くもので, そこに彫刻の独自性がある.つまり, 彫刻の立体概念には, 時間, 行為といった形状とは別種の要因が密接に関係しているのである.
著者
福江 良純
出版者
信州大学附属図書館
雑誌
信州大学附属図書館研究
巻号頁・発行日
vol.9, pp.97-104, 2020-01-31

木曽における石井鶴三の業績には、島崎藤村木彫刻制作事業を第一として、そこから派生するように取り組まれた木曽馬像制作事業がある。数年に亘ってなされた藤村木像に比べ、木曽馬像はわずか8日間に2体の粘土原型が成るという短期の事業であった。しかしながら、馬という動物に対する石井の思いの深さは、同じく生涯愛してやまなかった山の高さに匹敵するものがあり、加えて木曽人の木曽馬に対する心を知るに及ぶ時、作品木曽馬からは時空を超えた広がりが現れる。本稿は、本誌第八号上の写真家基敦氏による小論「木曽馬の記念写真に見る創造性―演戯する意識を失った現代とは―」で注目された集合記念写真に関し、その後に判明した事実を補完するとともに、木曽人と木曽馬の絆の奥行きを記すものである。
著者
福江 良純
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-12, 2010 (Released:2017-08-01)
参考文献数
6

彫刻とは,材料の素材が持つ3次元の立体性を本質的な形式とする芸術である.しかし,彫刻が3次元であるという自明の事実と,彫刻を立体として捉えるということは同一ではない.そこには,平面において奥行き概念を獲得する絵画空間にも似た,立体認識の特異な仕組みがある.ただし,立体概念とは単なる知覚以上の内容を意味し,感性上の現象であるという点で主観的な認識と言える.だが,それは2次元の平面に投影された線の認識を必要とし,それを手掛かりにとすることで技術的に検証が可能である.ただし,彫刻における線の意味は,所与の実体である材料に対する操作を直接導く理念の現れでもあり,そこに彫刻の独自性がある.つまり,彫刻の立体概念には,単なる形状とは別種の,制作過程,素材の物性といった複合的要因が密接に関係しているのである.