著者
遠西 昭寿 福田 恒康 佐野 嘉昭
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-86, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
27
被引用文献数
4

「主体的な学習」においては, 行為や具体的操作よりも心的・認知的な意味での主体性が問われなければならない。本研究の目的は, 観察・実験における主体的探究者としての科学者と授業における学習者の認知的活動を比較して, その差異から授業を改善することである。その結果, 観察や実験の結果の考察においては, 観察・実験が確証をめざす当該の理論のみならず, その理論を含む理論体系の全体が学習に先行して概観されていなければならないことを示した。さらにアプリオリな理論体系の存在は, 問題の発見から仮説設定, 観察・実験の方法の決定といった一連の過程においても必然であることを示した。すなわち, 観察や実験で演繹されるべき理論(仮説)のみならず, 学習の成果として期待される理論の体系的全体の概観が, 当の学習の前提であるという循環論である。本論文ではこの問題を解決する具体策として, 教科書記述の改善と現在の教科書を使用した対応の方法を提案した。
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.333-340, 2014

本研究は中学校において, イオン概念のような不可視な概念をどのように指導すればよいかを提案する実践的研究であり, 経験によって審判を受けるのは個々の理論ではなく科学理論の体系的全体であるというクワイン(1992)の主張に依拠している。このような観点からの指導事例には粒子の熱運動(遠西・佐野, 2012)や天動説に対する地動説の優位性(福田・大嶋・遠西, 2013)が報告されている。本研究では上述したクワインの理論をイオン概念の習得に適用している。クワインの主張に従えば, イオンは見えないが, イオンの存在を信じることによって構成される理論体系全体が経験の審判を受け, 理論体系全体にコミットできるとき, その構成要素であるイオンの存在を確信できると考えられる。観察や実験による経験的事実は理論体系における周辺的な事実であってイオン概念の説明にはほど遠いが, 理論体系全体にコミットできれば, このような事実も十分にイオン概念を確証できることを示した。このための方略としてコンセプトマップは有用なツールとして機能する。
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.45-52, 2016
被引用文献数
3

<p>概念転換は, 新しい理論を受容し古い理論を放棄することであるが, 古い理論の放棄は忘却ではなく, 保持する理論に対するコミットメントの順位の入れ替わりである(ストライク・ポスナー, 1994)。理解は, 理論に対するコミットメントの形成であり(ヘッド・サットン, 1994), 概念や理論に対して自信や信念を持つことである。概念転換は, 理論の切り換えと新しい理論に対するコミットメントの強化からなる(遠西・久保田, 2004)。本研究では授業をとおして概念転換の詳細な過程を, 運勢ライン法(White and Gunstone, 1992; ホワイト・ガンストン, 1995)を用いて調査した。授業では, 高等学校物理における「力のモーメント」の課題が実施された。その結果, 学習者によって概念転換が極めて多様な認知的過程を経て生じるにもかかわらず, 既有の理論に対するコミットメントの弱化, 理論切り換えによる新しい理論の受容, 新しい理論へのコミットメントの強化という共通のパターンが存在することが明らかになった。さらにこの過程は「既有の理論に対するコミットメントの弱化とそれに続く理論切り換えによる新しい理論の受容」と「新しい理論へのコミットメントの強化」という独立した2段階の構造を持つことが明らかになった。理論切り換えは, 理論の競合とコミットメントの弱化を前提とするので, 生徒どうし・生徒と教師による社会的相互過程において生じる。これに対して実験は, 理論からの予測と結果との一致・不一致によってコミットメントを変化させる。実験は, 理論を創造したり理論を変えることはないが, コミットメントを変える。これらは, 遠西・久保田(2004)が中学校において行った概念(理論)転換の実践的研究の正当性を強く支持するものであった。 </p>
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.45-52, 2016-07-12 (Released:2016-08-09)
参考文献数
8
被引用文献数
3 3

概念転換は, 新しい理論を受容し古い理論を放棄することであるが, 古い理論の放棄は忘却ではなく, 保持する理論に対するコミットメントの順位の入れ替わりである(ストライク・ポスナー, 1994)。理解は, 理論に対するコミットメントの形成であり(ヘッド・サットン, 1994), 概念や理論に対して自信や信念を持つことである。概念転換は, 理論の切り換えと新しい理論に対するコミットメントの強化からなる(遠西・久保田, 2004)。本研究では授業をとおして概念転換の詳細な過程を, 運勢ライン法(White and Gunstone, 1992; ホワイト・ガンストン, 1995)を用いて調査した。授業では, 高等学校物理における「力のモーメント」の課題が実施された。その結果, 学習者によって概念転換が極めて多様な認知的過程を経て生じるにもかかわらず, 既有の理論に対するコミットメントの弱化, 理論切り換えによる新しい理論の受容, 新しい理論へのコミットメントの強化という共通のパターンが存在することが明らかになった。さらにこの過程は「既有の理論に対するコミットメントの弱化とそれに続く理論切り換えによる新しい理論の受容」と「新しい理論へのコミットメントの強化」という独立した2段階の構造を持つことが明らかになった。理論切り換えは, 理論の競合とコミットメントの弱化を前提とするので, 生徒どうし・生徒と教師による社会的相互過程において生じる。これに対して実験は, 理論からの予測と結果との一致・不一致によってコミットメントを変化させる。実験は, 理論を創造したり理論を変えることはないが, コミットメントを変える。これらは, 遠西・久保田(2004)が中学校において行った概念(理論)転換の実践的研究の正当性を強く支持するものであった。