著者
福田 真二
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.317-332, 2014 (Released:2015-11-19)
参考文献数
88
被引用文献数
3 1

特異的言語障害の症状の最も顕著な特徴は、発話時にみられる屈折接辞や機能語などの文法形態素の脱落である。この文法障害の発現機構はまだ解明されておらず、さまざまな仮説が提唱されている。本稿では、これらの仮説の中で音韻処理障害仮説に属する2つの説を検証し、その妥当性について検討した。具体的には、1)急速な音の変化を伴う音の弁別過程の問題、2)音韻ワーキングメモリ・音韻短期記憶の能力の低下、で文法障害の諸症状を論理的に説明することができるのか検証した。今後の課題としては、横断的な研究をする場合には、言語特徴の異なるサブタイプの存在に十分に留意して適切に対象児を選択する、縦断的な研究をする場合には、対象児の年齢層に留意する、ことが重要であると指摘した。また、日本語において特異的言語障害の文法障害の言語特徴を明らかにするにあたって、言語学的な視点から今後の研究の方向性について提言をするとともに研究手法上の留意する点を指摘した。
著者
伊藤 友彦 大伴 潔 藤野 博 福田 真二
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

特異的言語発達障害(Specific Languag Impairment, SLI)とは、知的障害や聴覚障害、対人関係の障害など言語発達を遅滞させる明らかな問題が認められないにもかかわらず、言語発達に遅れや歪みがみられる障害をいう。欧米の研究者の間ではではよく知られた用語であるが、我が国ではあまり知られておらず、言語学的掘り下げた研究はほとんど行われていなかった。我々の研究の目的は日本語SLI例の特徴を明らかにするとともに、日本語SLIの評価法を提案することであった。今回の我々が行った日本語の典型的なSLI例と思われる子どもの縦断研究の結果、対象児は欧米の研究でG-SLIと呼ばれるタイプであることが明らかになった。欧米の研究ではG-SLIの子どもは時制、受動文などに困難を示すと言われているが、我々の対象児も同様な困難を示した。我々はさらに日本語SLI3例を対象として、文法格(grammatical case)に視点をあてた実験的研究を行った。その結果、SLI例は、年齢を対応させた正常発達の子どもに比して、格付与(case-assignment)の成績が悪いことが明らかになった。また、SLI群は、通常の語順と異なる、かきまぜ(scrambling)文の成績が著しく低いことが明らかになった。また、我々はアメリカ(アリゾナ州立大学)においてSLIの評価法に関する調査を行い、日本語SLIの評価法を提案する準備を行ったが、日本で行った難聴・言語障害学級を対象とした調査では、SLIの名称そのものの理解が得られないこともあり、日本語SLI例のデータ収集が十分にはできなかった。今回の我々の研究で日本語SLIの興味深い特徴がいくつか明らかになり、日本語のSLIの評価法に役立つと思われる基礎的知見が得られた。