著者
伊藤 友彦 大伴 潔 藤野 博 福田 真二
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

特異的言語発達障害(Specific Languag Impairment, SLI)とは、知的障害や聴覚障害、対人関係の障害など言語発達を遅滞させる明らかな問題が認められないにもかかわらず、言語発達に遅れや歪みがみられる障害をいう。欧米の研究者の間ではではよく知られた用語であるが、我が国ではあまり知られておらず、言語学的掘り下げた研究はほとんど行われていなかった。我々の研究の目的は日本語SLI例の特徴を明らかにするとともに、日本語SLIの評価法を提案することであった。今回の我々が行った日本語の典型的なSLI例と思われる子どもの縦断研究の結果、対象児は欧米の研究でG-SLIと呼ばれるタイプであることが明らかになった。欧米の研究ではG-SLIの子どもは時制、受動文などに困難を示すと言われているが、我々の対象児も同様な困難を示した。我々はさらに日本語SLI3例を対象として、文法格(grammatical case)に視点をあてた実験的研究を行った。その結果、SLI例は、年齢を対応させた正常発達の子どもに比して、格付与(case-assignment)の成績が悪いことが明らかになった。また、SLI群は、通常の語順と異なる、かきまぜ(scrambling)文の成績が著しく低いことが明らかになった。また、我々はアメリカ(アリゾナ州立大学)においてSLIの評価法に関する調査を行い、日本語SLIの評価法を提案する準備を行ったが、日本で行った難聴・言語障害学級を対象とした調査では、SLIの名称そのものの理解が得られないこともあり、日本語SLI例のデータ収集が十分にはできなかった。今回の我々の研究で日本語SLIの興味深い特徴がいくつか明らかになり、日本語のSLIの評価法に役立つと思われる基礎的知見が得られた。
著者
島守 幸代 反田 千穂 伊藤 友彦
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.330-334, 2010-10-20
被引用文献数
1

本研究は吃音児に対する話し方の指導法を開発するための基礎的研究として,1)幼児は発話速度をいつ頃から意識的に調節できるようになるのか,2)速度調節の発達は声の大きさ調節の発達とは異なるのかどうか,について検討したものである.対象児は3歳から6歳の幼児81名であった.刺激語の速度(「ゆっくり」,「速く」)と大きさ(「小さい声」,「大きい声」)を調節させる課題を行った.その結果,速度調節が可能な幼児の割合は3歳で10.0%,4歳で14.3%,5歳で63.6%,6歳で88.9%であった.大きさ調節が可能な幼児の割合は,3歳で35.0%,4歳で61.9%,5歳で77.3%,6歳で94.4%であった.これらの結果から,4歳までは速度調節のほうが大きさ調節よりも困難であることが示唆される.一方,5歳になると速度調節が可能な幼児の割合が著しく増加し,大きさ調節との差が小さくなり,6歳ではほとんどの対象児で速度も大きさも調節可能になることが明らかになった.
著者
島守 幸代 反田 千穂 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.330-334, 2010 (Released:2010-10-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

本研究は吃音児に対する話し方の指導法を開発するための基礎的研究として,1)幼児は発話速度をいつ頃から意識的に調節できるようになるのか,2)速度調節の発達は声の大きさ調節の発達とは異なるのかどうか,について検討したものである.対象児は3歳から6歳の幼児81名であった.刺激語の速度(「ゆっくり」,「速く」)と大きさ(「小さい声」,「大きい声」)を調節させる課題を行った.その結果,速度調節が可能な幼児の割合は3歳で10.0%,4歳で14.3%,5歳で63.6%,6歳で88.9%であった.大きさ調節が可能な幼児の割合は,3歳で35.0%,4歳で61.9%,5歳で77.3%,6歳で94.4%であった.これらの結果から,4歳までは速度調節のほうが大きさ調節よりも困難であることが示唆される.一方,5歳になると速度調節が可能な幼児の割合が著しく増加し,大きさ調節との差が小さくなり,6歳ではほとんどの対象児で速度も大きさも調節可能になることが明らかになった.
著者
村尾 愛美 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.177-184, 2017

<p>日本語を母語とする特異的言語発達障害児(以下SLI児)が格助詞の使用に困難を示すことが明らかになっている.このことから,格助詞の誤用が日本語のSLI児の臨床的指標の一つとなる可能性が示唆される.しかし,格助詞の自然発話および実験課題における誤用率は明らかになっていない.本研究では,SLI児の自然発話における格助詞の誤用率と実験課題における格助詞の誤用率を明らかにすることを目的とした.対象児は小学2~5年生のSLI児9例であった.本研究の結果,SLI児の自然発話の誤用率は1.5%であった.これに対して,実験課題の誤用率は53.1%であり,自然発話よりも著しく高かった.この結果から,日本語を母語とするSLI児を同定するためには,自然発話のみならず,実験課題も必要であることが示唆された.</p>
著者
高橋 三郎 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.242-245, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

本研究はバイモーラ頻度の違いが吃音頻度に与える影響について検討したものである. 対象児は学齢期にある吃音児15名であった. バイモーラ頻度の高い非語13語とバイモーラ頻度の低い非語13語の計26語を刺激語として用い, 呼称課題を行った. その結果, バイモーラ頻度が高い非語はバイモーラ頻度が低い非語よりも吃音頻度が有意に低かった. この結果から, バイモーラ頻度の違いが吃音頻度に影響を与えることが示唆された.
著者
安宅 涼香 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.144-147, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

言語障害児の指導のためには基盤となる健常児の言語獲得の知見が不可欠である.日本語の主格は機能範疇T(時制辞)によって認可されるという仮説がある.この仮説は時制辞の発現の前に格助詞「が」が現れることはないと予測する.しかしこれを支持する実証的データはほとんどなく,また,日本語において何をもって時制辞の発現とみなすかについても一致した見解が得られていない.そのため時制辞の発現と格助詞の出現との関係は十分に明らかになっていない.そこで本研究では過去形(タ形)と非過去形(ル形)の両者と,格助詞「が」の出現に視点を当て,1,2歳の健常幼児7名の縦断的な発話データを分析した.その結果,7名とも動詞のル形とタ形の後に格助詞「が」が出現した.この結果について,ル形とタ形が出揃うことが日本語の時制辞の発現と関係しており,そのため上記の仮説が予測するとおり,時制辞が発現した後に格助詞「が」が出現すると考察した.
著者
金 東順 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.125-130, 2004-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 5

本研究は子音で始まる語と母音で始まる語で吃音の生起率が異なるかどうかを中心に韓国語と日本語の吃音を比較したものである.対象児は韓国語を母語とする吃音児15名と日本語を母語とする吃音児20名であった.6コマの連続絵と1枚の情景画を用いて発話を収集し, 分析した.本研究の結果, 以下の点が明らかになった.1) 韓国, 日本の対象児における吃音の生起率はともに母音で始まる語のほうで高い傾向があった.2) 吃音の繰り返し単位をC (頭子音) , (C) V (核母音まで) , (C) VC (尾子音まで) の3つに分けて比較した結果, 韓国, 日本の対象児はともに (C) Vを単位とする繰り返しの生起率が有意に高かった.上記2点は従来の英語において得られている結果と異なるものであった.これらの結果から, 吃音は音節構造など, 個別言語の言語学的特徴と密接に関連して生じている可能性が示唆された.