著者
元 炳〓 禹 漢貞 田 美子 咸 奎晃
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.4, no.6, pp.445-468, 1966
被引用文献数
1

本調査は1965年6月上旬から7月下旬まで京畿道光陵試験林と附近の開けた土地で繁殖した次の10種(及び亜種)チゴモズ,ササゴイ,ホオアカ,ホオジロハクセキレイ,コウライウグイス,ハイタカ,エゾヒヨドリ,カラフトミヤマカケス,アカハラタカ及びコマオナガに対する育雛期の食習性を調査したものである。ハイタカ,エゾヒヨドリ,カラフトミヤマカケス,コマオナガは留鳥であり,残りの6種は韓国では普通見かける夏鳥である。<br>調査はCollar methodに依りcoil線を利用して,チゴモズに対しては90分間,ササゴイは100-120分間,ホオアカ,ホオジロハクセキレイ,コウライウグイス,エゾヒヨドリ,カラフトミヤマカケス及びコマオナガは50-60分間,各々適用した。調査した雛の食餌物の内訳は次の通りである。<br><b>1.チゴモズ<i>Lanius tigrinus</i></b><br>全食餌物は動物質のみでInsect Larvae form 41.5%, Adult Insects 49.4%, Spiders 7.69%,蛙1.53%の比率である。Insect Larvae 41.5%中<i>Gampsocleis ussuriensis</i>が33.8%で大部分を占めておりAdult Insectsでは<i>Platypleura kaempferi</i>が35.4%に及ぶ,Spidersは<i>Clubiona jucunda</i>1種のみ7.69%が見出された。<br><b>2.ササゴイ<i>Butorides striatus amuresis</i></b><br>食餌物は動物質のみで魚類48.57%, Ranidae 45.71%,其他5.71%である。魚類48.57%では<i>Zacco platypus</i> 20%, <i>Hemibarbus logirostris</i> 14.28%であり,両棲類では<i>Rana n. nigromaculata</i> 22.8%である。<br><b>3.ホオアカ<i>Emberiza f. fucata</i></b><br>食餌物は動物質のみでInsect Larvae 63.3%, Adult Insects 25.64%,其他12.78%である。<i>Pieris rapae</i>の幼虫は孵化直後から巣立ちまで48.1%を占めており農業上害虫駆除の功は大きい。<br><b>4.ホオジロハクセキレイ<i>Motacilla alba leucopsis</i></b><br>食餌物は動物質でInsect Larvae 30.5%, Adult Insects 55.4%, Spiders 13.9%である。Insect LarvaeではOdonata indet. 22.2%が最も多く,Adult InsectsではSyrphidae indet. 16.6%, Spidersは<i>Lycosa</i> sp. 12.1%, <i>Lycosa astrigera</i> 2.8%の<i>Lycosa</i>属のみ見出された。<br><b>5.コウライウグイス<i>Oriolus chinensis diffusus</i></b><br>食餌物はやはり動物質のみでInsect Larvae 62.36%, Adult Insects 20.17%,其他動物質が17.42%である。山林害虫である松毛虫<i>Dendrolimus spectabilis</i>を孵化直後から巣立ちまで全食餌物の45.08%を与えているのは注目すべき功である。<br><b>6.ハイタカ<i>Accipiter nisus nisosimilis</i></b><br>食餌物は動物質のみで小鳥類87.5%とRanidae 12.05%である。山林鳥類であるParidaeと<i>Paradoxornis webbiana fulvicauda</i>を捕食したし,以外に<i>Rana n. nigromaculata</i> 12.50%がある。<br><b>7.エゾヒヨドリ<i>Microscelis amaurotis hensoni</i></b><br>食餌物はAdult Insects 79.65%, Mollusca 12.15%, Vegetable matters 4.05%, Insect Larvae 2.70%, Araneina 1.35%の比率でInsect Adultsが全食餌物の大部分を占めておる。Adult InsectsではHomopteraが43.35%である。<br><b>8.カラフトミヤマカケス<i>Garrulus glandarius bradtii</i></b><br>育雛時の食餌物は動物質のみでInsect Larvae 38.80%, Adult Insects 28.90%, Araneina 24.87%, Adult Amphibia 15.49%である。孵化直後から巣立ちまで松毛虫35.08%, Araneina 24.87%, <i>Clubiona jucunda</i>だけが6.43%を占めておる。全食餌物のうち73.48%は山林害虫である。<br><b>9.アカハラタカ<i>Accipiter solo&euml;nsis</i></b><br>全育雛期間を<i>Rana n. nigromaculata</i> 89.08%で育ち多少の<i>Platypleura kaempferi</i> 8.26%がある。<br><b>10.コマオナガ<i>Cyanopica cyanus koreensis</i></b><br>食餌物はInsect Larvae 6.11%, Adult Insects 60.55%, <i>Hyla arborea japonica</i> 12.22%, Vegetable matters 1.11%である。<i>Gampsocleis ussuriensis</i> 23.39%, <i>Platypleura kaempferi</i> 15.55%及び<i>Hyla arborea japonica</i> 12.22%は全育雛期間に亙って与えている嗜好食餌である。
著者
元 炳〓 禹 漢貞 咸 奎晃 尹 茂夫
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.4, no.6, pp.405-444, 1966-12-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1 4

本論文は,1963年6月から1966年12月までの期間に,韓国に於て京畿道を中心として標識放鳥した結果と併せ,この放鳥過程で観察した主に渡り鳥の季節的分布並びに其の生態に就いて纒めて報告した。1.1963年6月6日から25日までの20日間に,3種(及び亜種)99羽,1964年7月3日から1966年12月31日までに124種(及び亜種)123,242羽を放鳥した。22種(及び亜種)196羽(144羽再帰)が国内(標識放鳥した以外の場所)で回収されており,5種(及び亜種),7羽が国外から回収された。2.1964年8月12日から1966年9月30日までの3年間に亙ってSeoul東北方泰陵墨洞所在の梨畑でホオジロハクセキレイ11,680羽とツバメ9,013羽を放鳥した。a.ホオジロハクセキレイは3月初めにツバメは4月上旬,韓国に渡来し5月~6月に繁殖を終え,10月下旬南下移動するまで梨畑で集団就眠する。b.ホオジロハクセキレイとツバメは,同じ塒で就眠するが,帰眠,離眠時間及び照度が違い,その行動にも差異があるのみでなく塒の一部が重複(overlap)するけれども,其の地位(roosting niche)が違っている。ホオジロハクセキレイの大群が塒周囲に集結すると同時に入塒を始める頃,ツバメは上空に現われ始め,ホオジロハクセキレイの群が入塒完了後ツバメ小群が大群をつくりながら就眠地域上空を時計針と反対方向に飛び廻る。次いで低空を飛びながら,素早く入塒を完了する。ツバメが離塒した後,ホオジロハクセキレイが出始める。c.帰眠,離眠(塒)は晴,曇天に依って時間的差はあるが照度(Lux)には,殆んど差がなかった。d.ホオジロハクセキレイは塒から20km半径以上の距離から小群で帰眠飛翔を始める。e.ホオジロハクセキレイとツバメの一部は1~2年後回帰(return)する。再捕獲(repeat)が少いが,これは両種共南下移動中の群であるためであろう。3.1964年7月から1966年10月まで,主に京畿道で放鳥したホオジロ属鳥類は12種(及び亜種)78,170羽である。Emberiza rutila, E. spodocephala, E. tristrami, E. aureola ornata及びE.rusticaは春秋通過する優占種であり,秋には大豆,トウモロコシ,キビ畑を好み,特にEmberiza rutila集団は粟畑に集結する。E.rustica集団は前記4種とは違い,開けた土地の藪,疎林又は森林の下木や灌木等に集結する第一位の優占種である。シマノジコEmberiza rutila秋の渡りは,8月上旬から10月下旬まで,春は5月に韓国を通過する。性比は155:100(17761♂,11674♀)であるが,9月(1964年と1965年両年共)だけは38:100である。渡りの初めには雄群が先立ち,以後雌群が渡来し,次いで若鳥と雌雄の混成群が通過する。アオジEmberiza spodocephala秋は,9月下旬から10月下旬まで,春は4月下旬から5月中旬まで,韓国を通過する。性比は140:100(551♂,392♀)である。シロハラホオジロEmberiza tristrami9月下旬から10月下旬まで韓国を南下通過し,翌年4月下旬から5月中旬まで北上通過する。性比は140:100(551♂,392♀)である。シマアオジEmberiza aureola ornata8月上旬から10月下旬まで,韓国を南下通過し,翌年4月下旬から5月下旬まで北上通過する。カシラダカEmberiza rustica10月上旬南下渡来し始め,前記の4種が韓国を通過完了する頃の10月下旬から大群が南下し,11月下旬から渡来最盛期をあらわす。12月上旬から漸次渡来数が減少しながら通過を終えるが,一部は残留越冬する。越冬群の滞留期間は10月上旬から4月下旬までであり,性比は191:100(25687♂,13450♀)である。チョウセンコジュリンEmberiza yessoënsis continentalis10月中旬頃韓国に渡来するが一部は越冬し一部は南下する。滞留期間は10月中旬らか2月中旬までであるが数は少い。チョウセンホオジロEmberiza cioides周年見かける繁殖種であるが,冬大群が南下し,翌年春北上する。性比は1964年と1965年の調査では159:100(792♂,497♀)である。ミヤマホオジロEmberiza elegans elegans数少く繁殖する留鳥であるが,10月下旬頃大群が南下し,翌年4月北上する。性比は280:100(962♂,462♀)である。ホオアカEmberiza fucata fucata4月中旬韓国に渡来繁殖し,9月大部分南下する夏鳥である。キマユホオジロEmberiza chrysophrys5月と9~10月に極めて数少く韓国を通過する。コホオアカEmberiza pusilla春秋韓国を通過するが数は稀で少ない。厳冬にも数少く南下し漂行しているようである。シラガホオジロEmberiza leucocephala leucocephalaいままで5回6羽が採集され迷鳥として知られていたが,厳冬の1月下旬頃極めて少数南下し,翌年3月まで越冬する冬鳥である。