著者
土田 さやか 牛田 一成
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.25-33, 2016-03-15 (Released:2017-04-26)
参考文献数
25

乳酸菌は、その保健効果が注目されることによって、ほかの腸内細菌に比べて研究が進んでいる。 腸管常在性の乳酸菌は、これまでの分離情報を見る限り一定の宿主特異性が存在するように思われるが、そのような宿主特異性を示す理由についてはあまり関心を持たれてこなかった。我々は、ヒトとゴリラの共通祖先が持っていたと推定される祖先型ビフィズス菌に近いと考えられる Bifidobacterium moukalabense、祖先型乳酸桿菌に近いと考えられる Lactobacillus gorillae の分離に成功し、新種として発表した。本稿では、これらの細菌のゲノム情報や表現型形質からヒト科霊長類の進化と腸内共生乳酸菌の適応について考察した。また、同じく祖先野生種が家畜化される過程における腸内共生乳酸菌の適応についても考察した。
著者
牛田 一成 土田 さやか
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S8-1, 2018 (Released:2018-08-10)

植物は、草食動物の捕食から逃れるために様々な化合物を含む。化合物によっては、ミモシンのように直接に毒性を持つが、タンニンなどポリフェノールでは、動物に苦みを感じさせることで摂食を抑制するほか、タンパク質と結合して消化を阻害する。動物側の適応として、毒物の場合、肝臓でこれらを解毒する能力の他に、タンニンのような物に対しては、受容体を欠損させる、唾液タンパク質によってタンニンを吸着してしまうなどの適応が起こっている。青酸配糖体のような物では、腸内細菌の作用によって有毒な青酸が発生してしまうが、一方でミモシンやタンニンなどでは、これを直接分解する腸内細菌がいると、これらを含む食物を摂食することができるようになる。ミモシンの例では、Synergistes jonesiiが分解能を持つ細菌としてヤギの反芻胃液から分離されている。タンニンは、高いタンナーゼ活性を示すStreptococcus gallolyticusや Lactobacillus apodemiがユーカリを食べるコアラ、ハイマツやガンコウランなどの高山植物を食べるニホンライチョウ、シイやナラの堅果を食べる野生齧歯目などから高頻度で分離されている。腸内細菌の側も、宿主の食事に応じて優占種の交代がおこるほか、同じ種が常に存在する場合でも、その細菌ゲノムの遺伝子構成に変化が生じており、例えばヒト科霊長類における植物食から雑食への移行やイノシシの野生から家畜化への過程で、ある細菌種の特定の遺伝子群の獲得(ないしは欠損)が認められる。このように宿主の生存戦略と腸内細菌の機能は密接に関わっており、こうした観点から見て、動物の個体は宿主の細胞だけでできあがっているわけではなく、腸内菌などの微生物叢も含めた「超個体」という概念で理解されるべきだという考えが広く受け入れられるようになってきた。
著者
Anne Marit VIK 土田 さやか 橋戸 南美 小林 篤 秋葉 由紀 原藤 芽衣 牛田 一成
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.95-101, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
26

ニホンライチョウの飼育では,雛の高い死亡率がかねてより問題になっていたが,その原因として移行抗体が不十分である可能性が指摘されていた。2020年に中央アルプスで単独で暮らす飛来雌が産卵をしたためその未受精卵と動物園で得られた未受精卵の卵黄抗体(IgY)および卵白中のIgA抗体とIgM抗体の濃度を比較した。卵黄IgY濃度は,飼育下未受精卵が高値を示したが,統計的には有意でなかった。卵白IgA及び卵白IgMは,いずれも低値を示し,二群間に有意差はなかった。母鳥からの移行抗体量に野生と飼育下に差があるとはいえず,飼育下の雛の高い死亡率を説明する要因ではないと推測された。
著者
牛田 一成 服部 考成 澤田 晶子 緒方 是嗣 土田 さやか 渡辺 淳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.35, pp.63, 2019

<p>次世代シーケンサーを用いた野生動物糞便細菌の網羅解析が盛んに行われている。宿主の生活を反映した細菌叢構成の差異を検出することができるようになったものの,解析対象が「PCR増幅された16S rRNA遺伝子の部分配列に基づく不十分な系統情報」にすぎないため,宿主の生理状態に直接影響する腸内環境を知ることはできない。近年,分子量データーベースの充実からHPLCやCEと質量分析を組み合わせた化合物の網羅解析が発達し,腸内細菌叢が産生する代謝物を網羅的に解析することが可能となった。これを一般にメタボローム解析と呼ぶが,野生動物の生理研究や生態研究における本解析手法の有用性を報告する。屋久島西部林道上の2地域(川原と鹿見橋)で,群れを異にするニホンザル計5頭の糞便を採取した。2検体を除き排泄直後に採取し,全量をドライアイス上で直ちに凍結した。1検体は,前日の排泄糞で発見後直ちに凍結した。もう1検体は,2分割してそれぞれ排泄直後と1時間放置後に凍結した。解凍後,Matsumotoら(<i>Sci Rep</i> <b>2</b>: 233)の方法で前処理し測定試料とした。LCMS-8060(島津製作所)にPFPPカラムを装着し,0.1%ギ酸水溶液と0.1%ギ酸アセトニトリル溶液を移動相としてイオンペアフリー条件のグラジエント分析を行った。遊離アミノ酸のほか,ヌクレオチド, ヌクレオシド、核酸塩基などの核酸代謝物,TCA回路に関わる有機酸等全体で63成分が検出された。PCA解析を行うと,川原の古い糞,川原の新鮮糞,鹿見橋新鮮糞の3つにクラスターが分離した。前日由来の糞の水溶性成分は変化していたが,新鮮糞の水溶性成分については1時間放置の影響はなかった。鹿見橋周辺の群れから採取した糞は川原で採取した糞よりも必須アミノ酸が少なく,逆に核酸代謝産物濃度が高い傾向が見られた。</p>
著者
牛田 一成 大熊 盛也 丸山 史人 塚原 隆充 井上 亮 土田 さやか
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

家畜用のプロバイオは、ヒト用に開発された菌株を転用したものが多く、家畜に適しているかどうか曖昧である。宿主と共進化してきた菌種を分離し、ゲノム解析と抗菌作用検定を組み合わせた。飼養形態と品種を異にする、野生と飼育下のアジアイノシシ、アカカワイノシシ、イボイノシシの新鮮糞のNGSによるメタゲノム解析のほか、単離乳酸菌の全ゲノム解析を行った。ブタ用プロバイオ候補菌として、イノシシ科の共生乳酸菌B. thermacidophilum やL. mucosaeの可能性が高いと判断した。B. tは、薬剤耐性を伝播するので、抗菌性に優れた菌株も存在したL. mucosaeが有力であると考えられた。