著者
程木 義邦 朴 虎東
出版者
茨城県霞ケ浦環境科学センター(湖沼環境研究室、大気・化学物質研究室)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

湖沼でアオコを形成するシアノバクテリアの多くの種がシアノトキシンと呼ばれる肝臓毒や神経毒を生産する株を含む。日本には神経毒を生産するシアノバクテリアCuspidothrix issatschenkoiが広く分布している。しかし、本種については、世界的にも研究事例が少ない。本年度は、一昨年度にゲノム完全長を決定した日本の湖沼から単離したCuspidothrix issatschenkoi RM-6に加え、琵琶湖、霞ヶ浦(西浦・北浦)など主要な湖沼から本種を単離している培養株から有毒株・無毒株を選抜しゲノム決定を試みた。また、ヨーロッパの湖沼から単離された本種2株について不完全帳ゲノムの情報が報告されている。これらの株の情報も含め、有毒株vs無毒株、日本株vsヨーロッパ株の機能遺伝子群の比較により、それぞれの株の環境特性を評価するとともに、本種にとっての窒素固定能やシアノトキシン生産能保有の適応的意義を議論した。その結果、RM-6株のゲノムから、47個のtRNA遺伝子および5セットのrRNA遺伝子を含む4,328個のコード配列(CDS)が確認された。ゲノムのG + C含量は37.7%でCRISPRの座位は12個検出された。また、二次代謝産物生合成遺伝子として、ホモアナトキシン-aのほかランチジン、シアノバクチン合成遺伝子が検出された。しかし、チェコ共和国で分離された株から報告されたカスペリン遺伝子は検出されなかった。また、RM-6のゲノムから多くのトランスポゾンに関する遺伝子が検出された。本種は、シアノトキシンの生産能だけでなく、ネンジュモ目の中では唯一、単一種内で窒素固定能を有する系統と欠損した系統がみられる。この様な遺伝的特性が本種の系統や生態型の多様性に関係していることが考えられた。
著者
程木 義邦 渡辺 泰徳
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.27-37, 1998-03-01 (Released:2009-06-12)
参考文献数
23
被引用文献数
3 10

5つの湖沼の22定点において水中の太陽紫外線の消散過程とその要因を調べた。測定を行った全ての水域において,太陽放射は水深とともにほぼ対数的に減衰し,UVB(280-315nm),UVA(320-400nm),光合成有効波長(400-700nm)の順で強く減衰された。太陽放射の減衰の程度は水域により大幅に異なり,UVBの水面での放射量に対して1%となる水深(Z1%)は,富栄養水域で0.3から1m,貧から中栄養で2m以上であった。また,UVBとUVAのZ1%はそれぞれ透明度の0.5倍,0.9倍であった。UVBとUVAの消散係数(m -1)は,湖水中のクロロフィルおよび懸濁態有機炭素濃度と強い正の相関を示し,溶存有機炭素濃度と弱い相関を示した。これ迄の報告では,水中紫外線の消散要因として溶存有機物による吸収が強調されていたが,植物プランクトン量が多くDOC濃度が低い水域では,植物プランクトンが水中紫外線の主な消散要因となることが推測された。
著者
程木 義邦
出版者
島根大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究では、貯水池等の河川構築物が水質の不連続性が河川および海域の生物生産に及ぼす影響について、現地調査および既存データの解析により評価を行った。島根県斐伊川水系の5基の貯水池下流、および天塩川水系の最上流部にある岩尾内ダム湖を対象として調査を行った結果、貯水池直下流では、1)融雪期の濁水貯留による河川下流域の濁度の増加と長期化、2)融雪水の希釈放流に起因する夏季の水温低下、3)貯水池表層における植物プランクトンの発生にともなう下流河川栄養塩類濃度の不連続的変化、4)秋期の貯水池水位の低下に伴う堆積物の巻き上げによる河川下流域の濁度の増加、などの水質変化が確認された。このような貯水池下流域における水質の変化は、下流にゆくに従い支流の合流により緩和され、不連続結合の影響が及ぶ範囲は数キロから10km程度と推定された。また、河川下流域の河川構築物による水質不連続性の評価として、分流のための潮止堰下流の河川感潮域を対象とし調査を行った結果、堰下流域では潮汐の阻害により河川水と海水の混合力は弱く、わずか2kmから3kmの間に急激に塩分が変化する水域が形成されていた。そのため、汽水域に由来する植物プランクトン群集は見られず、上流からの淡水性藻類の流下と塩水とともに侵入する海洋性植物プランクトンが見られ、両者の明確な境界が形成されていた。また、この様な境界域では、光合成活性も低下するため、植物プランクトンの種組成という点だけでなく、一次生産速度の不連続ももたらされていることとが明らかとなった。また、暗渠による分流や下流域への放流の影響は、これまで、瀬切れ等の局所的な問題として扱われてきたが、水質や物質輸送の不連続性という観点でも、流域全体に与える影響が大きいことが推測された。