- 著者
-
稲田 勝美
- 出版者
- CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
- 雑誌
- 日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.1, pp.37-44, 1977-03-30 (Released:2008-02-14)
- 参考文献数
- 15
- 被引用文献数
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作物の光合成における分光反応曲線が葉色や栽培条件によってどの程度変化するかを明らかにするため, 緑色程度の異なる葉, 緑色葉と紫色葉, ならびに異なる光質下で発育した葉について作用, 吸収率および量子収率スペクトルを比較した. 栽培法, 植物令などの違いによって生じた緑色程度の異なる葉の比較には水稲, トウモロコシ, ダイズ, トマト, ナス, ウンシュウミカンおよびチャを用いた. 単位入射エネルギーに対する作用スペクトルの相対値は, 500~650nm の波長帯においていずれも淡緑葉の方が濃緑葉よりも低く(第2, 3図), 波長 560nm に対する 435nm の作用比と 560nm における吸収率との間には種間の場合と同様の負の相関が認められた(第4図). 緑色葉と紫色葉の比較はハボタン(緑葉に白色斑入りのある品種と暗紫葉に紅紫色斑入りのある品種)およびシソ(青ちりめんと赤ちりめんの2品種)について行った. 紫色葉では緑色葉で明らかに見られる緑色域での吸収率低下が全く認められず, この緑色域において作用ならびに量子収率が著しく低下することが明らかにされた(第5, 6図). 紫色葉の緑色域における光合成効率の低下はアントシアニンによる緑色光の選択的吸収に帰せられる. 青色, 赤色および中性(灰色)の塩ビフィルムを被覆して得た異なる光質(第1図)下で水稲を育て, 新たに伸長した葉の光合成を比較した. 作用スペクトルの相対値は 600nm 前後の波長帯で多少差が認められ, 青色区で最も高く, 中性区はこれに次ぎ, 赤色区で最も低かった. しかし, 吸収率および量子収率スペクトルには明らかな差を認め難く, 光質適応の存在を確認するには至らなかった(第7図). 以上の結果から, 光合成の分光反応曲線は葉の特性とくに葉色によって変化するが, その変化の幅は紫色葉のような特殊な色を呈する葉を除けば種間でみられる差異と同程度であると考えられる.