- 著者
-
岸本 健雄
立花 和則
- 出版者
- 東京工業大学
- 雑誌
- 特定領域研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2000
テラトーマなどの胚細胞性腫瘍は胚性がん腫細胞に由来し、これは受精によらない胚細胞の増殖、つまり単為発生に起因している。本研究の目的は、Mosが単為発生を抑制し、その結果として胚性がん腫細胞の形成を抑制する機構の解明である。これらの抑制は、卵母細胞においてMosが減数第二分裂を成立させ、かつその後に細胞周期の進行を停止させるのによることを、筆者らの最近の研究は示している。それらの分子機構について、ヒトデ卵を用いた本研究により、以下の点が判明した。1.Mosが減数第一/第二分裂移行をもたらす機構については、Mos-MAPキナーゼ経路の下流にPlk(pdo-likekinase)が介在すると判明した。PlkはCdc25活性の維持よりはむしろMyt1の抑制維持に関わり、それによってCdc2キナーゼの速やかな活性化をもたらし、その結果、M/M期移行が成立する。この際、Mos-MAPKからPlk活性の維持に至るには、蛋白質合成を必要とする。他方、PlkはMyt1を直接リン酸化できるが、それが活性抑制に関わっているかどうかは、現在検討中である。2.減数第二分裂後のG1期停止の機構を解明する手掛かりとして、G1期での停止状態、つまり、成熟未受精卵ではDNA複製開始装置はどのような状態にあるのかを解析した。その結果、G1期に停止した成熟未受精卵では、Mcm2は未だMcm7と結合しているにもかかわらず、その後のDNA複製の開始にはサイクリンE-CDK2を必要としないことが判明した。これらの事実は、受精後のDNA複製開始は、通常の体細胞におけるDNA復製開始(サイクリンE-CDK2を必須とする)とは全く異なった様式による可能性を示唆している。こうしたS期開始の抑制にMos-MAPキナーゼ経路がいかに関わっているかを、現在解析中である。