- 著者
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立花 英裕
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1999
今回の研究目的は、フランス語圏を中心にアメリカ諸地域について調査した上で、その社会や歴史を明らかにし、文学や思想との相関をとらえるものだった。研究成果をまとめるにあたっては、ある程度地域を限定しなければならなかったので、全般的な視野を踏まえた上で特にフランス海外領土のマルチニック島、グアドゥループ島、およびハイチ共和国、カナダケベック州を対象とした。「クレオール」の概念は、時代によっても、また言語圏によっても意味が大きく異なっているが、その相違を調査した上で、本研究ではベネディクト・アンダーソンに見られるような広い視点からとらえた。すなわち、アメリカ地域に形成された国民は基本的にクレオールであるという視点である。そのように見ていくと、カナダケベック州とカリブ海域という南北にへだたった地域においても、一定の通約性が浮き上がってくる。ケベックの歴史家ジェラール・ブシャールはそれを「アメリカ性」と呼んでいるが、この概念は、カリブ海文化の特性としての「アンティル性」を発想したエドゥアール・グリッサンの見方に繋がっている。このような「アメリカ性」「アンティル性」、あるいは「クレオール性」が近代史の中でどのように形成され、どのような文化や文学を生み出したかについて、今回は、上述の地域に限定して解明につとめた。いうまでもなく、これはきわめて大きなテーマであり、今回の研究がまだ不十分であることは否めない。今後、更に調査と研究を継続していきたい。とはいえ、研究の過程で予期しない視野が広がってきたことも事実である。コロンブスの大航海に始まった近代の曙はグローバリゼーションの最初の一歩だったと考えられる。アメリカ地域の「クレオール的性格」は、グローバリゼーションの時代を予告し、準備するものだったのである。