著者
竹下 昌志
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.1K5OS11b03, 2023 (Released:2023-07-10)

人間とAIやロボットなどの人工物との親密な関係の価値について様々な仕方で議論されており、一部の人々は、そのような親密な関係には人間同士の場合と同等の価値があると主張する。だがそのような主張は正当化されるだろうか。本発表では人間とAI・ロボットの親密な関係の価値を擁護する上で次のようなジレンマがあると主張する。一方で(1)人間同士の親密な関係の価値の典型的な説明を前提とすると、人間と現状のAI・ロボットは価値ある親密な関係を築けると言うのが困難になる。仮に高度なAI・ロボットとの価値ある親密な関係が築けるとしても、その関係がここで擁護したい人間とAI・ロボットの親密な関係としてみなされるかどうかは疑わしい。他方で(2)人間同士の親密な関係の価値の説明を前提としなければ人間とAI・ロボットの親密な関係の価値を認めることができるが、親密な関係一般の価値を十分に捉えることが困難になる。本発表ではこのジレンマを説明した後、ジレンマから抜け出す方法を整理する。次に既存研究を検討し、それらはジレンマから抜け出せていないと主張する。最後に、筆者が望ましいと考える方法を提示する。
著者
竹下 昌志
出版者
北海道大学大学院文学研究院応用倫理・応用哲学研究教育センター
雑誌
応用倫理 (ISSN:18830110)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.3-20, 2023-03-31

近年、私たちがより道徳的になる方法の1つとして、道徳的エンハンスメントが提案されている。道徳的エンハンスメントとは、ある道徳的主体の道徳的能力の改善や道徳的能力の獲得・選択を目的にした何らかの処置や介入のことである。道徳的エンハンスメントの方法として多く議論されているのはバイオエンハンスメントであるが、これは個人の自由や自律性を損なうという懸念がある。そこで、近年のAIの発展を受け、道徳的AIエンハンスメントが提案されている。提案されている道徳的AIエンハンスメントには、道徳的判断を下しユーザーに伝えるAI、ユーザーに助言するAI、ユーザーと議論するAIがある。しかし、道徳的AIエンハンスメントには、道徳的エンハンスメントに成功しないのではないか、AIの助言にしたがうことは問題があるのではないか、などの指摘がなされている。そこで本稿では、道徳的AIエンハンスメントの種類や、道徳的AIエンハンスメントが何を改善するのかについて整理した後、六つの批判を取り上げ、それらに対して反論することで道徳的AIエンハンスメントを擁護する。また既存研究でほとんど擁護されていない、質問を受けて答えるだけのAIによる道徳的AIエンハンスメントも擁護する。