著者
竹内 祐介
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.447-467, 2009

日本・朝鮮・満洲間の穀物需給をめぐる帝国内分業は,戦間期を通じて大きく再編成された。産米増殖計画による米生産および対日輸出の増加は米の生産地である朝鮮南部に代替食糧としての満洲粟需要を創出し,日本・朝鮮・満洲間に米の対日輸出を軸とした「米と粟の帝国内分業」を成立させた。しかし1927〜28年にかけて,米価低落による粟価の相対的上昇に伴い,粟の輸入量は大きく減少し,以後その傾向が続いていった。但し,その需要変化の様相は地域によって異なっていた。まず北部では咸鏡線の拡張と,同沿線が工業化されるに従って粟の新規市場として登場し需要が維持された。他方朝鮮南部では(1)都市部では工業化による生活水準の上昇によって米需要が高まることによって,(2)農村部では産米増殖計画による灌漑施設の整備と肥料使用の増加が麦類の増産をも促進させる条件となったことで,麦類の自給的消費を可能にし,粟需要を減少させた。すなわち,産米増殖計画に加えて工業化という新たな軸が登場することにより,米の対日輸出を軸とした穀物間の帝国内分業は,穀物需要の地域差を生み出す形で再編成されたのである。