- 著者
-
伏見 譲
鈴木 美穂
西垣 功一
- 出版者
- 埼玉大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1994
1.進化分子工学において、ウイルス粒子は、遺伝子型と表現型が一つの結合体になっているので、表現型の評価が即遺伝子型の選択に結びつくため、クローニング操作なしに人為淘汰が行える。これを模擬する試験管無いプロセスとして、無細胞翻訳系でmRNAと新生タンパク分子が結合体となるような系(これを以下in vitroウイルスと呼ぶ)を開発しつつある。in vitroウイルスは、逆転写、PCR増幅、転写という、レトロウイルス様のライフサイクルで増殖する。mRNAと新生蛋白の結合法として、2つの方法を試みた。一つは、その蛋白に組み込まれたビオチン様ペプチドと、mRNAに付加されたアビジンとの結合による。もう一つは、mRNAをtRNAとみなすことができるように改変する方法である。このmRNAの3'末端CCAにシンテターゼを用いて、アミノ酸をチャージする事には成功した。2.進化分子工学は生命の起源のモデルと表裏一体をなす。われわれは、進化分子工学において、遺伝子型と表現型を対応づける戦略としてのウイルス型戦略が、細胞型戦略よりも進化速度の点で有利であることに着目した。RNAワールドから、蛋白質合成系が進化してくる機構として、in vitroウイルス様の生命体があったとするモデルを構築することに成功した。すなわち、RNAワールドに登場する最初のコード化された蛋白質はRNAレプリカーゼ(当然リボザイムである)の補因子に違いないが、その蛋白質補因子はそれがコードされているリボザイムRNAに結合していたとする。すると、RNA複製系と翻訳系が、速やかに安定に漸進的に共進化してくることが、コンピュータシミュレーションで明らかにされた。それは、ウイルス型メンバーを持つハイパーサイクルである。