著者
竹田 晋也
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
no.128, pp.8-13, 1995-11
参考文献数
12
被引用文献数
1

地域住民による森林の利用と管理の実態を,タイ東北部ヤソトン県の水田水稲作を主とする低地の村で調べた。束北部ではこれまで村落単位の資源管理組織が発達していないと言われてきたが,調査地区では村落郡単位で森林・公共地が管理されていた。1989年の天然林伐採の全面停止以降,住民主体の森林管理が模索されているタイでは,タンボン行政区をその担い手として位置づけ,制度的な枠組みとして「コミュニティーフォレストリー法」と「タンボン評議会の法人化」が検討されている。今後,森林再生が,地域住民の主体的な取り組みの結果として実現してゆくのか,あるいは経済成長に伴って生活・生業の森林への依存が稀薄になり,その結果として森林が主に自然力によって再生していくのかは,今の時点ではわからないが,経済成長の著しいタイにおいては後者の可能性がかなり高いと思われる。
著者
竹田 晋也 鈴木 玲治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

ミャンマーのバゴー山地では英領時代よりカレン領域が設定され、ごく最近まで政府からの規制をほとんど受けない焼畑が営まれてきた。このカレン領域であるバゴー管区トングー県オクトウィン郡S村では、各世帯は毎年焼畑を開いて自給用陸稲に加えて換金用のゴマ、トウガラシ、ワタなどを栽培してきた。同村では2010年ごろから小規模ながらも谷地田造成による水田水稲作がはじまった。谷地田周囲の斜面にはバナナ、マンゴーなどの果樹とともにチーク(<i>Tectona grandis</i>)やピンカドー(<i>Xylia xylocarpa</i>)が植えられ、現地では「水田アグロフォレストリー」と呼ばれている。2012年に成立した農地法では、水田と常畑を対象に土地利用証明書の発行を通じた小農土地保有の合法化が想定されているが、焼畑はその対象外である。S村にも、最近の土地政策変化の情報が断片的に伝わりつつあり、各世帯は将来の土地所有権確保を期待して「水田アグロフォレストリー」をすすめている。19世紀末のカレン領域制定から焼畑耕作が続くS村では、自給用陸稲生産という基本的な性格は変わらないが、道路通信事情が改善され、学校教育が普及する中で、市場経済との接合が少しずつ進行している。
著者
小野寺 佑紀 小林 繁男 竹田 晋也
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.632, 2005

森林の分断化とそれに伴う消失は、人間活動の広がりとともに世界中で見られる現象である。しかし、一部の森林は住民が保全することで森林パッチとして残存している。タイ東北部の代表的な景観は、水田と森林パッチである。これらの森林パッチは、先祖の魂を奉るための「守護霊の森(don puta)」、火葬・埋葬に用いられる「埋葬林(pa cha)」、そして林産物および薪炭材採取のための公共林に分類されると言われてきた。利用形態は変容しながらも、現在でも住民の生活に森林パッチは欠かすことができない。ところが、これまで森林パッチの構造と種構成に関する調査は行われてこなかった。そこで、森林パッチの植生に及ぼす人為・環境要因を明らかにするために、ヤソトン県南部のK郡に分布する35の森林パッチを対象に、植生調査および村人への聞き取り調査をおこなった。植生調査では、パッチの面積に応じて3から10のコドラート(10m×10m)を合計206個設置した。その結果、K郡では172種の木本を記録した。 35の森林パッチは、既存の分類(e.g. Prachaiyo 2000)のように明確に分けられるものばかりではなく、その利用形態は複合的なものが多かった。今回確認された埋葬林は7つであったが、そのうち6つではすでに埋葬は行われていなかった。なかでも放棄された埋葬林は、利用頻度が高い森林パッチと比較して、個体数密度および種数が大きい値を示す傾向があった。一方で、「守護霊の森」は、個体数密度が小さく、大径木が多く出現する傾向があった。以上より、異なる住民利用は森林パッチの構造に異なる影響を与えていることが明らかとなった。さらに、住民利用が森林パッチの種数および種構成に与える影響および環境要因として河川の氾濫を取り上げ、それが森林パッチの植生に及ぼす影響についても検討する。