著者
玉井 昌宏 竹見 哲也
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、近年の都市温暖化と降雨形態の変化傾向の相関の実態を地上気象観測のデータから把握し、実際に降雨形態がどのように変遷してきたかを解明した。その中でいくつかの典型的な事例を抽出し、気象モデルによる数値シミュレーションを実施し、異なった気候状態から計算を開始することで都市域での降雨形態がどのように変化するかの将来予測を行った。調査対象は大阪都市圏とした。本研究は大きく分けて次の3段階に分けて実施した。1)地上気象観測データによる近年の都市温暖化傾向と降雨形態の実態の把握2)高解像度雲モデルを用いた現象,特に過去に甚大な洪水被害をもたらした降雨現象の再現実験3)都市気候変化の降雨現象に及ぼす影響予測のための数値シミュレーション約30年間の地上気象データにより大阪都市圏における夏季の降雨形態の変遷過程の実態を都市温暖化との関連に注目して解析し、その結果に基づき、気象予報モデルにより大阪都市圏における夏季の局地循環の再現数値シミュレーションを行った。都市気候変化の降雨現象に及ぼす影響を検討するため、地上気象データの解析から明らかになったこれまでの気温上昇傾向を加味するとともに、現時点での降水時の特徴的な条件を付加することで仮想的な将来の都市大気環境を作成した。現在状態と将来状態との数値シミュレーションを行い、その差異から都市化が降雨に及ぼす影響を評価した。想定される都市化の度合いの様々なシナリオに基づき感度実験を行った。
著者
竹見 哲也
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.387-397, 1999-04-25
被引用文献数
1

砂漠地域の乾燥した雲底下層中において降雨が蒸発により消失することについて、雨の落下・蒸発を表現した鉛直1次元非定常モデルを用いて調べた。夏季に中国北西部砂漠地域で見られる典型的な乾燥した深い境界層という条件のもとで、層状性タイプの弱い降雨をモデルでは仮定している。2種類の数値実験を行った。最初の実験では、大気は静止していると仮定している。中程度の降雨強度(9.5mmh^<-1>)の場合には、モデル上端で雨を与えてから約1時間後に地上レベルで降雨が始まる。一方弱い降雨強度(0.97mmh^<-1>)の場合には、地上での降雨は約11時間半経過してから生じる。蒸発による雨の消失量は、雲底高度からの雨の落下距離及び降雨強度に依存して大きく変化する。各降雨強度に対してモデル上端で与える総降雨量を一定にすると、強い降雨強度の時ほど蒸発する量は大きい。次の実験では一定の下降流を仮定し、下降流による断熱昇温が雨の蒸発に及ぼす効果について調べた。数10cms^<-1>の下降流だけでも雨の蒸発は大きく促進される。中国砂漠地域での地上観測とモデルの結果とを比較した結果、その地域で見られる典型的な降雨イベントに伴う気象変化は主に雨の蒸発によるものであることが示唆された。