著者
笹田 裕子 ササダ ヒロコ Hiroko SASADA
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要
巻号頁・発行日
no.38, pp.114-128, 2017-03-31

The BFG(1982)は、子ども読者を対象としたライトファンタジーの作家として知られるRoald Dahl(1916―1990)の代表作の1つである。孤児の少女SophieとBFG(Big Friendly Giantの略)という名の巨人との交流を描くこの作品は、献辞にも明記されているように、Dahlの亡き娘Oliviaへ捧げられたものである。Dahlの児童文学作品としては稀なことだが、〈よい〉大人が登場することと、大人と子どもの良好な関係が描かれていることから、The BFGはMatilda(1988)と同様、子ども読者のみならず大人読者にも好評を博している。 この作品は、これまでに2回映像化されている。最初の映像化は、イギリスのアニメーション作家Brian Cosgrove(1934― )によるアニメーション作品Roald Dahl's The BFG: Big Friendly Giant(1989)で、クリスマスにITVで放映された。次が、Steven Spielberg(1946― )が監督を務めた実写映画The BFG(2016)である。 本稿では、この2本の映像作品を題材に、Quentin Blake(1932― )の挿し絵が付された原作にも言及しながら、BFGを含む巨人の造型、巨人国や夢の国といった別世界の造型、巨人国の飲料Frobscottleの表現方法、この作品に内包される擬似父娘関係の描かれ方などに関する分析を通して、映像化によるファンタジー作品の視覚化および架空の事物や〈目に見えぬもの〉の視覚化について考察する。
著者
笹田 裕子 ササダ ヒロコ Hiroko SASADA
出版者
清泉女子大学人文科学研究所
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
no.36, pp.214-204, 2015

イギリスの児童文学作家・挿絵画家であるJoan G. Robinson(1910―88)は、作家自身の娘Deborahのテディベアについて書かれたTeddy Robinsonシリーズ(1953―64)や、5人兄妹の末っ子が主人公のMary-Mary(1957―60)など、幼い子ども読者を対象とした短編物語集で知られる。これらの作品では、挿絵もRobinson自身が描いている。また、Joan Gale Thomas という別の筆名で何冊かキリスト教に関する本も手がけた。前掲作品に比べると年長の子ども向けに書かれたWhen Marnie Was There(1967)は、カーネギー賞ショートリストに挙げられた作品である。1960 年代に出版された作品でありながら、本作品には1950 年代のファンタジー作品との共通点が見られる。 本稿では、When Marnie Was There の主要な要素である、主人公が過去と遭遇する特別な場所、子ども主人公にとっての愛する対象、孤立と成長について考察する。場所と少女主人公について論じる際には、本作品の舞台を北海道に移し、2014年に公開されたスタジオジブリ制作のアニメーション映画『思い出のマーニー』にも言及する。 最終的に、本作品の主題ともいえる、常に輪の「外側」(outside)にいる、すなわち孤立していると感じていた少女主人公が、他者を愛し自分も愛されるという経験を契機として成長する過程について明らかにしていく。 Joan G. Robinson (1910-88) was a British children's writer and illustrator who created several well-known works for young child readers. These included works such as Teddy Robinson series (1953-64) about her daughter Deborah's teddy bear and Mary-Mary books (1957-60) about the youngest girl in a family with five children . Robinson herself illustrated these works. She also wrote some religious books under another pen name, Joan Gale Thomas. When Marnie Was There (1967), which was written for older children, was shortlisted for the Carnegie medal. Although it was published in the 1960s, When Marnie Was There shows a lot of similarities to fantasy works of the 1950s. In this article, the significant aspects of When Marnie Was There are discussed: the specific place where the girl protagonist encounters the past; the child protagonist's object of love, and growing up through isolation. In the discussion of the place and the girl protagonist, the Ghibli animated film released in 2014, When Marnie Was There (original Japanese title: Omoide no Mani) is refrred to. Through this, the ar ticle explores the process of self-development the isolated girl protagonist undergoes, which is caused by the experience of loving the other and being loved in return.
著者
笹田 裕子
出版者
清泉女子大学
雑誌
清泉女子大学紀要 (ISSN:05824435)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.1-16, 2006-12-26

きたむら さとし(1956-)は、東京で生まれ育ち、1979年にロンドンに渡り、絵本作家となる。最初の絵本Angry Arthur(1982)で1983年マザーグース賞を受賞して以来、きたむらは、イギリスと日本の両方の国で絵本を出版している。きたむらの絵本は、二つのカテゴリーに分類することが可能である。一つは、ハーウィン・オラムが文を担当する初期の作品、もう一つは、きたむら自身による絵と文からなる作品である。きたむらの作品にはコミックの技術が用いられることが多いが、後者の場合は特に、最近のものになるほど、よりコミックに類似した絵本となってきている。したがって、きたむら作品は、その作風からは三種類に分類することができよう。すなわち、初期のオラムとの合作、最近のコミック的絵本、および両者の狭間の時期の作品である。1989年出版のUFO Diary(日本語版タイトル『あるひうちゅうで』)は、オラムとの合作からコミック的絵本へと移行する過渡期に属する。しかも、文を自分で手がけ始めた頃に描かれたアルファベット本や数かぞえ絵本(counting book)ではなくて、物語絵本であり、この時期を代表する作品の一つであると考えられる。絵本は文字と絵の両方を媒体とするため、文字のみで書かれる物語に比べ、創り手は、はるかに多様な表現方法を駆使することができる。本論は、二つの異なる文化圏にまたがって作品を発表し続ける絵本作家きたむらの、作風の上でも過渡期の作品であるUFO Diaryに焦点を当て、絵本の想定される読み手(通例子ども)に与える効果を含め、きたむら作品の特徴を明らかにしようとする試みである。まず、視点(viewpoint)、手がかりとなるイメージ(trigger image)、線(lines)や色(colour)の使い方といった、芸術作品としての絵本に用いられる技術的な要素を詳細に分析する。さらに、この作品が描き出す「友情」という普遍的な主題、および、主題とも深い関わりをもつ「心の中の別世界」へと考察を進める。心の中の別世界、すなわち「内なる外界(the external in the internal)」は、きたむら絵本の作品世界そのものであるといえよう。
著者
笹田 裕子
出版者
清泉女子大学
雑誌
清泉女子大学紀要 (ISSN:05824435)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.A31-A46, 2008