著者
細川 允史
出版者
日本農業市場学会
雑誌
農業市場研究 (ISSN:1341934X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.1-12, 1997

首都圏を構成する1都3県の人口は3240万人に達し、都市地域は県境を超えてとぎれることなく続き、道路や鉄道網は東京を中心として放射線状に結ばれている。このように、首都圏は東京を核とした経済圏、生活圏を構成している。青果物中央卸売市場は、東京都に9市場ともっとも多く、神奈川県に5市場、千葉県に2市場ある。地方卸売市場は、中央卸売市場が存在しない埼玉県にもっとも多い。主要卸売市場は、東京都心を中心として半径40kmの範囲内に分布している。小売業者は、都市の歴史が長い東京都に一般小売商が多く、一方、スーパーマーケットは、郊外である3県に多い。取引方式については、予約取引、予約相対取引、時間前販売などの予約型取引が中心となっていて、セリは地場出荷品などを対象として部分的なものとなっている。予約型取引が中心となっている理由は、産地の大型化やスーパーマーケットなど大型小売資本の進出を背景として、(1)高率で時間前販売が行われていて、セリ開始時刻に現物が少ない、(2)出荷に当たって大型出荷団体からの価格要請がなされる、(3)買い手側の小売企業への販売にあたって価格協議が行われている、(4)中小卸売市場においては、基幹的大市場で形成された建値を元にした販売を余儀なくされている、などである。予約型取引においては、事前に価格の協議が産地や小売側と行われることから、基幹的大市場が優位に立つ。現在、大産地の出荷品については、東京都中央卸売市場大田市場における価格形成を頂点としながら、他の卸売市場間に価格横並びの現象が見られる。物流については、東京都中央卸売市場の取扱数量の25%が首都圏3県に搬出されるほか、東北地方、北海道、中部地方など広範な地域にも搬出され、物流においても頂点に立っている。さらに、他市場への出荷品も基幹的大市場に荷下ろしして、そこから搬送する「気付出荷」が相当量存在し、大田市場がデポ拠点の中心的役割を果たしている。搬送費用は出荷を受ける卸売会社が負担し、経営を圧迫する要因となっている。卸売会社が仲介して、トラック1台分以上の取引が産地と買い手小売業との間に成立する場合には、品物は卸売市場を経由せず、直接に産地から買い手小売企業に納入する「商物分離」が取引量の1〜2割程度行われる状況となっている。このような取引・物流の状況変化により、変化に対応できる卸売市場(卸売会社)と、それが困難な卸売会社との間の格差が拡大し、一部卸売市場の拡大の下で、他の多くの卸売市場の集荷力が低下し、転送や気付集荷で対応することを余儀なくされている。利益率が低下し、経営内容の悪化を招来している傾向が見られる。大手卸売会社資本による卸売会社の系列化は必ずしも経営改善に結びつかないことから停滞していたが、異なる開設者間の卸売市場の卸売会社が本支社化するという新しい方式も登場しており、広範囲に同一卸売会社資本が支配関係を構築することに道が開かれた。結論として首都圏においては、大型小売資本の進出、大型産地の価格要請の強化を背景に、東京都中央卸売市場なかんずく大田市場を頂点とした取扱量の集中化が進行している。その過程で、予約型取引が増大しているが、これに対応困難な卸売会社の弱体化と再編は不可避であろう。
著者
原田 淳 宇佐美 繁 野見山 敏雄 谷口 吉光 久野 秀二 中島 紀一 大木 茂 細川 允史 原田 淳
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では対象とした事例はいずれもWTO体制下にあっても確実な成長を実現してきた産直産地組織と総称される農家グループである。その特徴は、新政策がサブ戦略として打ち出した環境保全型農業を早い時期から経営の基本戦略に位置づけ、主として生協との産直という形で、卸売市場への無条件委託販売ではなく、産地組織自身の手で消費をつかみ、継続的な事業システムを構築してきたという点にあった。産直産地組織は環境と安全性重視の農業生産体制の確立と戦略的マーケティングによる農産物販売を機軸とした農家の連合組織であり、法人形態としては農事組合法人、有限会社、株式会社、系統農協、法人格のない任意組織などさまざまである。既存の農業組織のなかでは組織形態や活動内容は農協に類似している。本来ならば系統農協が果たすことを期待された諸機能を、現実には多くの農協が果たし得ていないなかで、意志のある生産者たちが自ら農協類似の組織を作り上げ、時代を生き抜く道を拓いてきたと理解できる。マーケティングを軸とした戦略的経営についてのこれまでの議論は個別経営に視点をあてたものが多かったが、本報告の事例は意志のある農家によるグループとしての組織的な経営展開である。環境・安全など新時代農業のポリシーが確立されているという点、先端的マーケティングを展開する活力ある集団的経営構造が構築されているという点、地域における幅広い農家の結集などの諸点に際だった特色があり、個別経営主義に傾斜しがちだった戦略的経営論と農業を面として集団として捉えようとする地域農業論・産地形成論との断絶を埋める方向としても注目すべき取り組みである。