著者
谷口 吉光
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.4, pp.174-187, 1998-10-05
被引用文献数
1

「環境社会学は社会学のパラダイム転換である」というパラダイム転換論の主張はアメリカ環境社会学の中心的な理論であると受けとめられてきた。しかし、アメリカ環境社会学者がすべてパラダイム転換論を支持しているわけではない。特に、パラダイム転換論が実証研究と乖離しているという批判はアメリカにおいて根強くあった。本稿は、次の5つの命題を検討しながら、アメリカ環境社会学におけるパラダイム転換論の意義と限界を明らかにしたい。(1)パラダイム転換論は70年代のアメリカ社会学の状況に大きく制約されている、(2)パラダイム転換論は「世界観」と「理論的・実証的研究」という2つのレベルから構成されている、(3)パラダイム転換論は必ずしも実証研究を導く理論的方向性を与えるものではない、(4)アメリカ環境社会学は非常に多様化しており、パラダイム転換論がカバーできない多くの研究領域がある、(5)社会と環境に関する最近の理論的研究の進展によって、パラダイム転換論の提起した問題が新たに展開する可能性が出てきた。結論として、パラダイム転換論は環境に関する社会学的研究を促進し、アメリカ環境社会学を社会学の専門分野として樹立することに多大な貢献があった。パラダイム転換論は歴史的使命を終え、それが提起した諸課題は新たな方向で展開しつつあるように見える。
著者
原田 淳 宇佐美 繁 野見山 敏雄 谷口 吉光 久野 秀二 中島 紀一 大木 茂 細川 允史 原田 淳
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では対象とした事例はいずれもWTO体制下にあっても確実な成長を実現してきた産直産地組織と総称される農家グループである。その特徴は、新政策がサブ戦略として打ち出した環境保全型農業を早い時期から経営の基本戦略に位置づけ、主として生協との産直という形で、卸売市場への無条件委託販売ではなく、産地組織自身の手で消費をつかみ、継続的な事業システムを構築してきたという点にあった。産直産地組織は環境と安全性重視の農業生産体制の確立と戦略的マーケティングによる農産物販売を機軸とした農家の連合組織であり、法人形態としては農事組合法人、有限会社、株式会社、系統農協、法人格のない任意組織などさまざまである。既存の農業組織のなかでは組織形態や活動内容は農協に類似している。本来ならば系統農協が果たすことを期待された諸機能を、現実には多くの農協が果たし得ていないなかで、意志のある生産者たちが自ら農協類似の組織を作り上げ、時代を生き抜く道を拓いてきたと理解できる。マーケティングを軸とした戦略的経営についてのこれまでの議論は個別経営に視点をあてたものが多かったが、本報告の事例は意志のある農家によるグループとしての組織的な経営展開である。環境・安全など新時代農業のポリシーが確立されているという点、先端的マーケティングを展開する活力ある集団的経営構造が構築されているという点、地域における幅広い農家の結集などの諸点に際だった特色があり、個別経営主義に傾斜しがちだった戦略的経営論と農業を面として集団として捉えようとする地域農業論・産地形成論との断絶を埋める方向としても注目すべき取り組みである。