- 著者
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谷口 吉光
- 出版者
- 環境社会学会
- 雑誌
- 環境社会学研究
- 巻号頁・発行日
- no.4, pp.174-187, 1998-10-05
- 被引用文献数
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「環境社会学は社会学のパラダイム転換である」というパラダイム転換論の主張はアメリカ環境社会学の中心的な理論であると受けとめられてきた。しかし、アメリカ環境社会学者がすべてパラダイム転換論を支持しているわけではない。特に、パラダイム転換論が実証研究と乖離しているという批判はアメリカにおいて根強くあった。本稿は、次の5つの命題を検討しながら、アメリカ環境社会学におけるパラダイム転換論の意義と限界を明らかにしたい。(1)パラダイム転換論は70年代のアメリカ社会学の状況に大きく制約されている、(2)パラダイム転換論は「世界観」と「理論的・実証的研究」という2つのレベルから構成されている、(3)パラダイム転換論は必ずしも実証研究を導く理論的方向性を与えるものではない、(4)アメリカ環境社会学は非常に多様化しており、パラダイム転換論がカバーできない多くの研究領域がある、(5)社会と環境に関する最近の理論的研究の進展によって、パラダイム転換論の提起した問題が新たに展開する可能性が出てきた。結論として、パラダイム転換論は環境に関する社会学的研究を促進し、アメリカ環境社会学を社会学の専門分野として樹立することに多大な貢献があった。パラダイム転換論は歴史的使命を終え、それが提起した諸課題は新たな方向で展開しつつあるように見える。