著者
細川 大二郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

近年、多くの植物ウイルスについて、ゲノムの構造や機能が明らかにされてきている。しかし、ウイルスのゲノムの宿主細胞における発現や複製、あるいはウイルスの増殖機構については不明の点が多く残されている。本研究では、電子顕微鏡(電顕)レベルのin situハイブリダイゼーション法を用いて、ウイルス核酸の動態を宿主細胞の微細構造と関連させて詳細に調べ、ウイルスの増殖機構を主に細胞生物学的な面から明にしようとした。現在、まだ電顕レベルのin situハイブリダイゼーション法は十分に確立されたものがないため、固定や包埋法(前包埋法、後包埋法)、核酸プローブや標識マーカーの種類、ハイブリダイゼーション反応やその可視化などについて検討した。供試ウイルスにはタバコモザイクウイルス(TMV)及びジャガイモXウイルス(PVX)を用いた。これらのウイルスを接種したタバコプロトプラストを4%パラホルムアルデヒドと0.5%グルタルアルデヒド混合液で、4℃で、2時間固定し、アルコールで脱水後、Lowicryl K4Mに包埋り、超薄切片を作製したのち、ジゴキシゲニン標識RNAプローブでin situハイブリダイゼーションを行い、抗ジゴキシゲニン抗体と反応後、金コロイド標識抗ヒツジIgG抗体で可視化する方法によりシグナルを検出することができた。そこで、この方法を用いて、TMV及びPVXのRNAのタバコプロトプラスト内における局在を調べ、次ぎの結果を得た。すなわち、TMVでは、プロトプラストの細胞質の一部にやや電子密度の高い部位が生じ、そこに金粒子の標識が認められた。このプロトプラスト内におけるウイルスRNAの局在部位とその合成部位の関連を明らかにするため、[II]-ウリジンの取り込みによる電顕オートラジオグラフィー法を用いて、プロトプラスト内におけるTMV-RNAの合成部位を検討した。その結果、[II]-ウリジンの取り込みによる現像銀がプロトプラストの細胞質のウイルス粒子の集塊の近傍に認められた。PVXではウイルス接種4時間後からプロトプラストの細胞質の一部に金粒子の標識が認められ、金粒子は数個から10個位が集合して観察され、接種後の時間が経過するにつれて金粒子の標識部位はやや大きくなり、数も多くなつた。この金粒子の標識部位は細胞質基質であり、特別の細胞構造は認められなつた。
著者
細川 大二郎 森 寛一
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.166-172, 1983-04-25

Multiplication and distribution of cucumber mosaic virus during the development of systemic infection in tobacco plants (Nicotiana tabacum cv. Xanthi) inoculated to the middle leaf were investigated by the use of fluorescent antibody technique. After the virus multiplied in the inoculated leaf, the virus antigen was first detected in the upper stem and leaves, and later in the lower stem and roots. In the early stage of a long distance movement of the virus, the virus antigen was first observed in separate areas along the phloem. This mode of virus movement differed from that in the parenchyma tissue, in which the virus moved from cell to cell, suggesting that the virus move a long distance through sieve tubes. Thereafter the virus progressively spread from the infection site in the phloem to surrounding tissues and caused the systemic infection. In the upper leaves, the appearance of symptoms such as veinclearing and yellowing followed the distribution of virus antigen in the tissues. After the virus antigen had distributed throughout all the tissues in a certain part of the plant, it gradually decreased.