著者
土井 陸雄 松田 肇 内田 明彦 神田 栄次 神谷 晴夫 紺野 圭太 玉城 英彦 野中 成晃 奥 祐三郎 神谷 正男
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.639-649, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
12
被引用文献数
3

目的 北海道から本州への移動畜犬数および国外からの輸入畜犬数を調査し,畜犬を介する本州への多包条虫,単包条虫侵入のリスクを検討する。方法 青森県から兵庫県まで29都府県 9 政令市を対象に,狂犬病予防法に基づく畜犬の居住地変更届の年間届出数を平成 8~13年度の 5 ヶ年余にわたり集計し,航空 3 社およびフェリー 3 社からペット輸送状況を聴取し,また人口移動統計などを資料として北海道から本州への年間移動畜犬数を推計した。次に,動物検疫所報告資料により国外からの輸入畜犬数を集計し,単包条虫,多包条虫流行圏との関係を検討した。また,ペット同伴宿泊施設の実態をアンケート調査した。結果 狂犬病予防法に基づく畜犬の居住地変更届から,毎年,約140頭の畜犬が北海道から本州へ飼主とともに移動していることが分かった。しかし,未届犬が相当数ある実態から,実際の移動畜犬数は約300~400頭余と推定された。また,北海道に乗り入れている航空 3 社およびフェリー 3 社への調査結果から,年間 1 万頭余のペットが北海道から道外に輸送されていることが分かった。その大半は観光目的などで飼主とともに来道し道外に戻るペットだが,北海道内から居住地移転するペットおよび観光目的などで道外へ移動する道内居住のペットが含まれている。北海道における野犬,畜犬の多包条虫感染調査結果を考慮すると,北海道からの移動畜犬中に毎年数頭から最大30頭程度の多包条虫感染犬が含まれる可能性が示唆された。 また,輸入畜犬数は毎年約1.5万頭に上り,ドイツ,フランス,中国など多包条虫,単包条虫常在国からも数百頭が無検疫で輸入されていた。 ペット同伴宿泊施設は概ね衛生的に運営されているが,多包虫症感染予防について適切な行政指導が必要と思われた。結論 多包条虫流行地の北海道から本州へ移動する畜犬および多包条虫・単包条虫常在国からの輸入犬について,早急に糞便検査を行って本州への多包条虫,単包条虫侵入のリスクを明らかにするとともに,流行拡大阻止体制を早急に整備するべきである。
著者
紺野 圭太 奥 祐三郎 神谷 正男 土井 陸雄 玉城 英彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.6-17, 2002 (Released:2015-04-08)
参考文献数
60
被引用文献数
2

Purpose This article focuses on understanding epidemiological features of alveolar echinococcosis and discussing its prevention and control, especially from a viewpoint of the ecosystem and risk management.Method Publications on alveolar echinococcosis throughout the world were systematically reviewed with special reference to ecology, epidemiology and countermeasures.Results Alveolar echinococcosis, caused by accidental infection with larva of the parasite Echinococcus multilocularis is fatal to humans unless diagnosed at an early stage. No effective control measures have been identified so far because it is difficult to fully understand the ecology of the parasite and its intermediate and definitive hosts. It is also not easy to determine the precise infection route to humans mainly because of the long latent period.In Hokkaido, infection rates among red foxes have recently risen even in low endemic districts. Not only stray and domestic dogs but also some pigs in Hokkaido have been found to be infected. While the number of reported human cases is still small, around 10 cases per year, local residents seem to be threatened with the risk of infection.Discussion and Conclusions We predict that the incidence of alveolar echinococcosis among humans in Japan will increase in the near future if no effective preventive measures are conducted. In addition, Echinococcus multilocularis infection has the potential to affect the economy of Hokkaido because of its impact on the agricultural and tourist industries.Well-designed epidemiological surveys are therefore urgently required, in the context of ecosystem and risk management prior to large outbreaks. International collaboration is also desired.
著者
臼田 寛 玉城 英彦 紺野 圭太 河野 公一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1058-1065, 2003

&emsp;公衆衛生史上初の国際条約となる「たばこ規制枠組み条約」(FCTC:Framework Convention on Tobacco Control)最終案がスイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)で開催された加盟171か国による第 6 回政府間交渉委員会(INB6:6<sup>th</sup> Intergovernmental Negotiating Body)最終日の2003年 2 月28日に合意に達した。FCTC はその後 5 月に開催された WHO の最高意思決定会議である第56回世界保健総会(WHA56:56th World Health Assembly)で正式採択され,現在は署名・批准作業に入り 9 月29日現在で73か国と 1 団体が署名,2 か国が批准している。日本政府は来年 1 月召集の通常国会での批准を予定している。<br/>&emsp;この国際条約作成を強力に推進してきた前 WHO 事務局長 Brundtland 氏は,今回の合意を「国際保健の歴史上画期的であり,世界の人々すべての健康にとって非常に大きな一歩である」と評価している。たばこ対策にかねてから強い関心を持っていた Brundtland 氏は98年 5 月の事務局長就任演説で早々にたばこの有害性とたばこ対策の必要性を強く主張し,7 月の正式就任直後には WHO のたばこ対策本部である「たばこのない世界構想」(TFI:Tobacco Free Initiative)を組織,翌年の WHA52 では FCTC 作成のための INB と作業部会を発足させ,一期 5 年の在任期間中常にたばこ対策推進の先頭に立ってきた。Brundtland 氏は事務局長を 7 月に退任しており,今回の FCTC 原案合意は氏の任期 5 年(98~03年)の活動を締めくくる集大成とも言える。本稿ではこの国際条約が原案合意に至った経過を報告する。