著者
佐藤 努 佐藤 絢 紺野 聖 木幡 修 江井 邦夫 佐藤 幸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100342, 2013

【はじめに、目的】障害者の自動車運転は,生活関連動作や職業関連動作として位置づけらており,多様化するニーズに即した社会参加を念頭とした支援を進めていく必要がある.障害者の自動車運転再開には,自動車への乗降動作や運転操作などの基本的動作に加えて,事故回避能力や状況判断能力の観点から理学療法士の役割は重要である.しかし,機器操作などの運転技術における専門的な実車検査等を医療サイドのみで実施することは不可能に近く,他職種が関与することが重要であり自動車学校との連携は必須となる.今回,スムーズな運転再開へ向けたシステムの構築および支援体制の確立の一環として福島県内の自動車教習所における障害者の受け入れ状況やその対応等をアンケートにて調査した.【方法】福島県内の指定自動車学校41箇所に対し,アンケート調査を実施した.アンケートは障害者の受け入れの状況および障害者用車両の有無,運転補助装置の詳細など26項目について質問を実施した.回収期間は,平成22年10月から11月末までの2ヶ月間で回収した.【倫理的配慮、説明と同意】自動車学校側に対し調査目的,調査対象などを書面により十分に説明し,同意が得られた場合に限り返送してもらうこととした.【結果】回答数は全41箇所中21箇所で,回答率51.21%であった.障害者の受け入れが可能は9箇所であり,条件付きであれば可能が12箇所であった.可能な障害分類においては右上肢障害,左上肢障害が12箇所,両上肢はわずか3箇所であった.また,右下肢障害は7箇所,左下肢障害11箇所,両下肢障害6箇所であった.障害者用車両の保有は4箇所であり,手動運転補助装置は6箇所であった.手動運転補助装置の具体的詳細に関しては,ハンドル回旋装置6箇所,パワステ付きハンドル5箇所,手動アクセル,ブレーキ4箇所,左ウィンカー4箇所であった.足動運転補助装置は4箇所であった.足動運転補助装置の具体的詳細に関しては,足踏みウィンカー1箇所,シフトチェンジ1箇所,サイドブレーキ2箇所,ホーン,ライトスイッチ1箇所,左足用アクセルペダル4箇所,ドアの開閉装置0箇所,パワステ3箇所であった.障害者に対する対応においては,施設内の段差等のバリアの解消されている教習所は5箇所,車椅子対応のトイレ設置は2箇所,トイレ介助が可能である自動車学校は5箇所であった.通常型送迎車における送迎が可能である自動車学校は11箇所,車椅子対応型送迎車は0箇所であった.また,施設内の移動介助が可能である教習所は7箇所,階段昇降介助が可能である自動車学校は6箇所という回答であった.【考察】障害者の運転再開では,道路交通法において身体的特性や障害の程度により安全に自動車運転が行える範囲での運転免許種別(臨時適性検査)が整備されている.また,管轄の警察署における適性検査も実施される.これらは,運転再開における設定条件の変更が主な目的となっている.運転技術の習得は,実車講習による運転操作判断能力などの運転適正を,より身近な環境で,より多くの障害者が習得できるシステムの構築が必要となる.そのため,各地域における自動車学校の協力が不可欠であり,協力体制を把握することが必要である.今回の結果より,福島県内自動車学校の多くは,条件付きであれば障害者への教習が可能であり,福島県各地域(県北地域,県中地域,県南地域,会津地域,いわき地域,相双地域)に存在していることが分かった.しかし,障害者への移動介助支援や車椅子対応のトイレの設置,段差のバリア解消など障害者への対応が未整備の自動車学校が多いことや障害者用車両,運転補助装置(手動運転補助装置,足動運転補助装置)を保有している自動車学校が少ないことから,個々の障害やニーズに即した自動車教習が困難な状況であると思われる.今後は,各医療機関に対し現段階における情報開示を進めていくことにより,スムーズな運転再開を図ることができると思われる.また、その地域に沿った整備や情報交換の方法などを含め地域支援体制(ネットワークづくり)を確立していく必要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】障害者の積極的な社会参加(自動車運転など)を念頭とした支援を進めていくにあたり,他職種(自動車学校など)が関与することが重要であり,各地域における状況把握が求められる.今回の自動車学校側へのアンケート調査は,その一端を担っていると言える.