著者
松田 実 鈴木 則夫 長濱 康弘 翁 朋子 平川 圭子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.141-155, 2006 (Released:2007-07-25)
参考文献数
31
被引用文献数
5 2

文字の読み書きは後天的な能力であるから,その障害機序を考える際には,文化によって異なる文字の特性をふまえた検討が必要であり,欧米語の認知心理学的研究の成果をそのままの形で日本語に持ち込むことは危険である。欧米語と日本語の違いとして,欧米語では読み書きの単位が単語であるのに対して日本語では文字レベルにあること,欧米語は音声言語が中心であるが日本語は文字中心の文化であり,日本人は漢字だけでなく仮名をも話す (聞く) こと,の 2点が重要である。音韻失読の自験 4例と文献例の検討から,仮名文字列音読の処理過程を考察し,仮名非語音読障害の機序として音韻表象の障害以外に,仮名 1文字レベルにおける文字音韻変換の脆弱性や系列的処理の困難さが存在する可能性を指摘した。また語義聾自験例の観察から,語義聾では低次の音韻表象から高次の音韻表象に到達する段階に障害があり,音韻表象が文字によって安定化するという仮説を述べた。
著者
鈴木 則夫 翁 朋子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.356-363, 2019-09-30 (Released:2020-10-01)
参考文献数
22

認知症の構成障害評価に多用される立方体模写課題 (CCT) と重なった五角形模写課題 (PCT) は, 時にその成否が二重に乖離する。成否が一致しなかった症例の偏りに疾患ごとに何らかの傾向がみられるか否かを検討した。対象 672 例中, CCT, PCT ともにできた者は 404 例 (60.1% ) , ともにできなかった者は 103 例 (15.3% ) , CCT ができ PCT ができなかった者は 50 例 (7.4% ) , PCT ができ CCT ができなかった者は 115 例 (17.1% ) だった。2 つの課題が乖離する例において, 脳血管性認知症 (VaD) と前頭側頭葉変性症 (FTLD) では PCT ができ CCT ができない者が有意に多かったが, アルツハイマー病 (AD) とレビー小体病 (DLB) では有意な偏りを示さなかった。CCT は注意や遂行機能の影響を受け, 前頭葉の機能低下によってもできなくなることが考えられた。PCT は CCT と比べて前頭葉機能低下の影響をあまり受けずに頭頂葉機能低下としての構成障害を検出し, AD や DLB を他疾患から鑑別するのに役立つ可能性があるが, 強い天井効果が認められ, 採点法など解釈の工夫が必要と考えられた。