著者
設楽 利二 鈴木 則夫 黒岩 実 伊藤 里加 阿部 昌江 土田 嘉昭 松島 成実 真鍋 重夫
出版者
北関東医学会
雑誌
北関東医学 (ISSN:13432826)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.201-207, 2004-08-01 (Released:2009-10-21)
参考文献数
16

【背景】群馬県における神経芽細胞腫マススクリーニングは1984年7月より開始され今年で20年を迎えた.今回本県のマススクリーニングと発見症例の予後について検討したので報告する.【対象と方法】生後6カ月の乳児を対象として神経芽細胞腫マススクリーニングを施行した.検査は尿中のVMAおよびHVAを測定し行った.検査値が高値の症例は医療機関に紹介され神経芽細胞腫の精密検査を受けた.マススクリーニングにて発見された神経芽細胞腫症例は全例登録し, またこの間にマススクリーニング以外で診断された神経芽細胞腫についても予後の追跡を行った.【結果】2003年3月までに343,812例が受診し, 2,800例が精密検査を受診している.そのうち65例が神経芽細胞腫と診断された.この間に発生した神経芽腫総数は97例で, マススクリーニング発見例は67.0%を占める.マススクリーニング発見例に早期例の多いことが認められた.マススクリーニング陰性例が14例 (14.4%) に認められており, 死亡例の60%はこのマススクリーニング陰性で発症した症例であった.死亡例の他の40%はマススクリーニング受診以前またはマススクリーニング非受診で発症した症例であった.【結語】マススクリーニング開始後の神経芽細胞腫の発見例は増加したが進行神経芽細胞腫例の減少は認められなかった.神経芽細胞腫死亡例は近年減少しており, 治療技術の進歩と考えられた.厚生労働省の決定に基づき群馬県においても検査事業については平成16年4月から休止となることが決定された.
著者
松田 実 鈴木 則夫 長濱 康弘 翁 朋子 平川 圭子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.141-155, 2006 (Released:2007-07-25)
参考文献数
31
被引用文献数
5 2

文字の読み書きは後天的な能力であるから,その障害機序を考える際には,文化によって異なる文字の特性をふまえた検討が必要であり,欧米語の認知心理学的研究の成果をそのままの形で日本語に持ち込むことは危険である。欧米語と日本語の違いとして,欧米語では読み書きの単位が単語であるのに対して日本語では文字レベルにあること,欧米語は音声言語が中心であるが日本語は文字中心の文化であり,日本人は漢字だけでなく仮名をも話す (聞く) こと,の 2点が重要である。音韻失読の自験 4例と文献例の検討から,仮名文字列音読の処理過程を考察し,仮名非語音読障害の機序として音韻表象の障害以外に,仮名 1文字レベルにおける文字音韻変換の脆弱性や系列的処理の困難さが存在する可能性を指摘した。また語義聾自験例の観察から,語義聾では低次の音韻表象から高次の音韻表象に到達する段階に障害があり,音韻表象が文字によって安定化するという仮説を述べた。
著者
鈴木 則夫 翁 朋子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.356-363, 2019-09-30 (Released:2020-10-01)
参考文献数
22

認知症の構成障害評価に多用される立方体模写課題 (CCT) と重なった五角形模写課題 (PCT) は, 時にその成否が二重に乖離する。成否が一致しなかった症例の偏りに疾患ごとに何らかの傾向がみられるか否かを検討した。対象 672 例中, CCT, PCT ともにできた者は 404 例 (60.1% ) , ともにできなかった者は 103 例 (15.3% ) , CCT ができ PCT ができなかった者は 50 例 (7.4% ) , PCT ができ CCT ができなかった者は 115 例 (17.1% ) だった。2 つの課題が乖離する例において, 脳血管性認知症 (VaD) と前頭側頭葉変性症 (FTLD) では PCT ができ CCT ができない者が有意に多かったが, アルツハイマー病 (AD) とレビー小体病 (DLB) では有意な偏りを示さなかった。CCT は注意や遂行機能の影響を受け, 前頭葉の機能低下によってもできなくなることが考えられた。PCT は CCT と比べて前頭葉機能低下の影響をあまり受けずに頭頂葉機能低下としての構成障害を検出し, AD や DLB を他疾患から鑑別するのに役立つ可能性があるが, 強い天井効果が認められ, 採点法など解釈の工夫が必要と考えられた。
著者
本田 慎一郎 鈴木 則夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.252-259, 2014-06-30 (Released:2015-07-02)
参考文献数
9

右中大脳動脈領域の梗塞による左半側の視空間無視,左半側身体失認は消失したが,左半側口腔内に特異的な症状が残存した症例について,口腔内に限局した左半側空間無視の可能性について検討した。    症例は64 歳女性右利き。左側口腔内において著明な要素的運動・知覚障害は認められないにもかかわらず,口腔内に挿入した模擬食塊の形状(球,三角錐,立方体)を識別させる物性認知検査を実施すると,口腔内左側においてのみ形状の認知ができないという異常を認めた。その際「左側では模擬食塊が消える」,「左側では模擬食塊が思い浮かばない」,「左側の口蓋の実がない」など特徴的な陳述が得られ,口腔内の描画検査でも異常を疑う所見が得られた。   本例の左半側口腔内に限局した症状は,その原因を各口腔器官の運動・知覚障害,触覚性失認に帰結できない。本例の症状について,口腔内を複数の口腔器官に包み込まれた空間ととらえ,この空間表象が障害された口腔内左半側空間無視として解釈を試みた。
著者
坂井 麻里子 鈴木 則夫 西川 隆
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.144-154, 2022-06-25 (Released:2022-07-12)
参考文献数
14

左側頭葉前部の脳膿瘍の患者にみられた軽度の言語性意味記憶障害に対し,障害の質的検討を行った.本例の理解障害の特徴は,語の派生的意味の理解障害と語の範疇的使用の障害であった.また,語の理解が困難な場合,語の一部の意味や,その語を含む慣用表現の音韻的脈絡を手掛かりとして意味を探索する代償的方略もみられた.Pattersonら(2007)のDistributed-plus-hub仮説を援用すれば,これらの所見は,損傷が及ばない脳領域のtrans-modal pathwayにより各様式の表象間の局部的連結に基づく具体的な意味記憶は喚起されるが,semantic hubである側頭葉前部の損傷によって,より広範な表象の統合を要する抽象的な語の意味記憶が解体されたものと解釈できる.