著者
花枝 英樹 芹田 敏夫
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.129-160, 2008-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
18
被引用文献数
4

わが国全上場企業を対象にペイアウト政策についてのサーベイ調査を行い,回答企業629社の分析から,日本企業の平均的な認識としてつぎのような結果を得た.配当決定については,一時的な利益の変動では配当を変化させず,長期的に増益が見込めるときに初めて増配する.配当決定は投資決定とは独立に行われている.また,減配回避の考えが非常に強い.一方,自社株買いは配当と比べれば柔軟性をもって決められているが,まだ,本来の役割についての理解が十分でない.現金配当についてはフリーキャッシュフロー仮説を支持しないが,自社株買いについては同仮説を棄却できなかった.ペッキングオーダー仮説,ライフサイクル仮説については,配当,自社株買いともに支持されなかったが,情報効果仮説については,配当・自社株買いとも支持する結果が得られた.ペイアウト政策を敵対的買収防止手段として考えている企業が多く,株主構成の違いもペイアウト政策の意識に影響を及ぼしている.
著者
佐々木 隆文 佐々木 寿記 胥 鵬 花枝 英樹
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.19-48, 2016-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究では日本企業を対象に流動性保有の動機,目的をアンケートにより調査し,(1)日本企業においても米国を含めた外国企業と同様,予備的動機が余剰資金保有の最も重要な動機となっていること,(2)日本企業における余剰資金保有では,消極的な予備的動機(将来のキャッシュフロー不足への備え)のみでなく,積極的な予備的動機(将来,予想外の投資機会が生じた場合への備え)も同じぐらい重要な動機となっていること,(3)当座貸越の利用やメインバンクへの信頼感がコミットメントライン未設定の要因になっていること,(4)余剰資金保有の背景に直接金融へのアクセスが限定されているとの認識があること,(5)銀行への信頼感は積極的な予備的動機による余剰資金保有のみを代替し,消極的な予備的動機による余剰資金保有を代替しないこと,(6)ガバナンスのあり方が流動性手段の選択に影響を及ぼすなどの知見を得た.
著者
花枝 英樹 芹田 敏夫 宮川 公男 胥 鵬 須田 一幸 広田 真人 木村 由紀雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

(1)「日本企業の配当政策・自社株買い-サーベイ・データによる検証-」概要:わが国全上場企業を対象にペイアウト政策についてのサーベイ調査を行い、つぎのような結果を得た。配当決定は投資決定とは独立に行われており、減配回避の考えが非常に強い。一方,自社株買いは配当と比べれば柔軟性をもって決められている。情報効果仮説については,配当・自社株買いとも支持する結果が得られた.ペイアウト政策を敵対的買収防止手段として考えている企業が多く,株主構成の違いもペイアウト政策の意識に影響を及ぼしている。(2)"The choice of financing with public debt versus private debt: New evidence from Japan after critical binding regulations were removed"概要:成熟企業と成長企業の資金調達と社債発行との関連を分析した。とりわけ、日本の経験から、最も有効な社債市場育成策は、銀行の利権を保護する規制を緩和し、社債と銀行借入の選択を企業に委ねるべきことを提案している。(3)"Ownership structure and underwriting fee: Evidence from Japanese IPOs"概要:企業の株式所有構造と新規公開時の引受手数料,IPO後の長期パフォーマンスの間の関係について,1997年から2002年にJASDAQへIPOした企業サンプルを用いて検証した。(4)"Financing constraints and Research and Development Investment"概要:わが国企業の研究開発投資と資金調達の関係を実証分析し、特に、キャッシュフローの多寡で表せる内部資金制約が研究開発投資の大きさに大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。
著者
花枝 英樹 胥 鵬 鈴木 健嗣
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.69-100, 2010-09-30 (Released:2018-12-07)
参考文献数
58
被引用文献数
2

わが国全上場企業を対象にM&Aに関するサーベイ調査を行い,回答企業526社の分析からつぎのような結果を得た.第1に,近年の日本におけるM&Aの主目的は市場シェア拡大の水平的なM&Aが中心で,実際に成果があったと意識されている.しかし,ブランドカや研究開発力といった見えざる経営資源の有効活用については成果が少ない.第2に,M&Aに際しての人員,給与体系,事業部門の調整の仕方の違いがM&Aの効果に大きな影響を及ぼしている.第3に,70%近い企業が成熟衰退事業を現在・今後抱えると答えており,雇用維持を配慮した対処に腐心している.第4に,敵対的買収に対して否定的な考え方が強いが,敵対的買収に対する備えとしては,業績改善,IRの充実,株主への利益還元を重視している.また,防衛策として株式持合いも重視しており,事前警告型買収防衛策を導入すれば株式持合いは必要ないと考えるのではなく,両者をむしろ補完的に考えている.
著者
芹田 敏夫 月岡 靖智 花枝 英樹
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.57-93, 2022-02-15 (Released:2022-02-14)
参考文献数
30

本稿は,パッシブ型ファンドの持ち株比率と企業のガバナンスおよびパフォーマンスの間の関係を検証している.検証において,パッシブ型ファンドの持ち株比率が抱える内生性の問題に対処するため,日経平均採用企業であるかどうかを操作変数とする操作変数法を用いている.検証の結果,以下のことを発見している.(1)パッシブ型ファンドの持ち株比率が高い企業ほど,社外取締役比率の改善が促されている.(2)パッシブ型ファンドは業績の好調な企業の経営トップ選任議案に反対票を投じない傾向にあり,一方で業績が不調な企業の経営トップ選任議案には反対票を投じる傾向にある.また,パッシブ型ファンドは買収防衛策導入関連議案に反対票を投じる傾向にある.(3)パッシブ型ファンドの持ち株比率が高い企業ほど,株式投資収益率が高い.以上の結果は,日本でもパッシブ型ファンドが企業のガバナンスとパフォーマンスの改善に一定の役割を果たしていることを示している.