著者
苅和 宏明
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.61-67, 2002-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

ブニヤウイルス科のハンタウイルスはげっ歯類を自然宿主とし, 感染動物の排泄物を介してヒトが感染する. 本項ではげっ歯類媒介性のハンタウイルス感染症について紹介し, 本症の疫学を中心に話題を提供する. ハンタウイルス感染症はこれまでのところ腎症候性出血熱 (Hemorrhagic fever with renal syndrome: HFRS) とハンタウイルス肺症候群 (Hantavirus pulmonary syndrome: HPS) の2つの病型が知られている. HFRSは高熱, 出血および腎機能障害を主徴とし, おもに東アジアやヨーロッパなどのユーラシア大陸を中心に分布している. これに対し, HPSは迅急性の肺機能障害を特徴とし, 発生は南北アメリカ大陸に限局されている. 現在, わが国には本症の発生はほとんどないが, ウイルスはげっ歯類集団に常在しており, リスクファクターの高いヒトの集団からはハンタウイルス抗体が検出されている. ハンタウイルスの血清型, 媒介動物および重篤度には強い相関があること, ならびにウイルス遺伝子の塩基配列から得られた進化系統樹とげっ歯類の系統分類が一致することから, 本ウイルスとげっ歯類は地質学的な長い時間をかけて共進化してきたものと考えられている. 北海道のタイリクヤチネズミ (Clethrionomys rufocanus) は本ウイルスを保有しているが, 極東ロシアにおいても C. rufocanus が北海道のウイルスと近縁のウイルスを保有することが最近明らかになった. また, 極東ロシアではハントウアカネズミ (Apodemus peninsulas) がヒトに重篤な HFRS を引き起こすウイルスの病原巣動物であることも判明した.
著者
苅和 宏明
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.25-32, 2017-06-25 (Released:2018-03-29)
参考文献数
31
被引用文献数
1

ブニヤウイルス科のハンタウイルスはげっ歯類などの哺乳類を自然宿主とし,感染動物の排泄物を吸引することにより人が感染する.本稿ではハンタウイルス感染症の疫学ならびにげっ歯類とハンタウイルスの相互関係について概説する.ハンタウイルス感染症は腎症候性出血熱(HFRS)とハンタウイルス心肺症候群(HCPS)の二つの病型が知られている.HFRSは高熱,出血,および腎機能障害などを主徴とし,東アジア,ヨーロッパ,ロシアなどのユーラシア大陸で主に発生が見られる.一方,HCPSは急性の心肺機能障害を特徴とし,南北アメリカ大陸において発生が見られる.日本の近隣諸国では,ロシア,中国,韓国などでHFRSが多発しており,原因ウイルスが複数存在していることが明らかになっている.わが国では1985年以降ハンタウイルス感染症の発生はないものの,北海道に生息するエゾヤチネズミがウイルスを保有している.ハンタウイルスと宿主の間で,長年にわたる共進化が進行してきたものと考えられており,ハンタウイルス感染症の発生地域は病原性のあるハンタウイルスを保有した宿主の生息域と密接に関わっている.
著者
高島 郁夫 苅和 宏明 森田 公一 只野 昌之 竹上 勉 江下 優樹 水谷 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究において、日本に存在しているかまたは侵入の可能性のあるフラビウイルス感染症の流行予防のための診断法の開発、病原性の解明および蚊の調査に関する研究を実施して以下の成果を得た。1.診断法の開発1)ウエストナイル熱について、RT-PCR RFLP法、リアルタイムPCR法およびRT-LAMP法による遣伝子診断法を開発した。この方法によると簡便な設備により、ウエストナイルウイルスと日本脳炎ウイルスおよびウエストナイルウイルス株間の簡別診断が可能となった。2)ダニ媒介性脳炎の迅速な血清診断法として、ウイルス株粒子を用いたヒト用のIgGおよびIgM-ELISA法を開発した。2.病原性の解明1)ウエストナイルウイルスの神経侵襲性毒力がウイルスエンベロープ蛋白への糖鎖付加により決定されることを明らかにした。2)ダニ媒介性脳炎ウイルスの神経侵襲性毒力は、ウイルスエンベロープ蛋白の1個のアミノ酸の置換により電荷が陽性に変化することにより低下することが示された。3)ダニ媒介性脳炎ウイルスの感染性cDNAクローンを用いた解析により、NS5とエンベロープ蛋白における各々一ヶ所のアミノ酸変異が神経毒力の低下に相乗的に作用していることが示唆された。3.蚊の調査1)ウエストナイルウイルスに対する、日本産蚊4種アカイエカ、イナトミシオカ、ヒトスジシマカの感受性、およびアカイエカの媒介能を証明した。2)ウエストナイルウイルス・デングウイルス媒介蚊ヒトスジシマカのJNKタンパクの機能を解析した。