著者
大迫 絢佳 若杉 樹史 梅田 幸嗣 笹沼 直樹 児玉 典彦 内山 侑紀 道免 和久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-160_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】 多系統萎縮症(multiple system atrophy:以下, MSA)は, 進行性の神経変性疾患であり, 小脳性運動失調, 自律神経障害, パーキンソニズムが生じると言われている. MSAにより生じるパーキンソニズムは, レボドパ製剤に対する反応性が乏しく歩行障害の進行が早いと述べられている. 本症例はパーキンソニズムが優位に出現するMSA with predominant parkinsonism (MSA-P)であり, 小刻み歩行を呈していた. MSA-Pの歩行障害に対する理学療法の報告は少ないが, トレッドミル歩行がパーキンソン病患者の歩行障害に有効であるという報告は数多く見受けられる. そこで今回我々は, MSA-P患者の小刻み歩行に対しトレッドミル歩行訓練を実施し歩行能力の改善が得られたため報告する. 【症例紹介】患者: 80歳代男性.診断名: MSA-P.現病歴:診断3ヶ月前に動作緩慢や発話困難自覚.診断2ヶ月前より嚥下障害や排尿障害,起立性低血圧が生じ精査後にMSA-Pと診断された. Mini Mental State Examination 24/30点であり,固縮・姿勢反射障害・小刻み歩行を呈していた.すくみ足は認められなかった.投薬はドパコール600mg/日,ドプス600mg/日であり起立性低血圧を是正後の薬剤,投薬量の変更はなかった.【経過】理学療法はトレッドミル(Senoh社製)の歩行速度を2.0-2.5km/hに設定し, 聴覚刺激を入れながら1日5-8分間, 週5日4週間実施した. トレッドミル歩行訓練前後の理学療法評価(介入前→介入後)では, 膝関節伸展筋力は左右共に著変なかった. バランス評価は, Mini-BESTestで, 12→17点(内訳: 予測的姿勢制御3→4点, 反応的姿勢制御1→1点, 感覚機能2→4点, 動的歩行6→8点) であった. 歩行能力は歩行器歩行監視→杖歩行監視となった. 10m歩行(杖歩行)は17.41→11.88秒, 歩数は29→20歩であった. Timed up and go testは28.38→17.35秒, 歩数は33→18歩であった. FIMは71→81点(内訳: 清拭2→5点, 更衣(上)4→5点, 更衣(下)4→5点, トイレ動作4→6点, 排尿管理4→5点, 排便管理1→2点, ベッド・車椅子移乗5→6点, トイレ移乗5→6点, 歩行5→6点)であった. 【考察】 本症例はトレッドミル歩行訓練を実施後,10m歩行, Mini-BESTest, TUGにおいていずれもMinimal Clinically Important Differences(他疾患の値も含む)を上回って改善した.Mehrholzら(2010)はトレッドミル歩行訓練は歩行速度・歩幅の改善が生じると述べており, 本症例も同様の結果を示した. 岡田ら(2004)はトレッドミル歩行では床面が移動するため支持基底面が受動的に後方に変位し, 前方への重心の移動量が増大すると述べている. 本症例もトレッドミル歩行を繰り返した結果, 患者は律動的に前方へ重心移動される機会が増え, 歩幅の増大やMini-BESTestの改善につながったと考える. 歩幅が増大したため歩行速度も上昇し歩行能力の改善に至ったと考える. 本症例より, MSAによるパーキンソニズムを呈した小刻み歩行に対しても, トレッドミル歩行は歩行能力の改善に有効であることが示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】本報告は, 対象者に十分な説明を行い同意を得て実施している.
著者
西角 暢修 若杉 樹史 水野 貴文 山内 真哉 笹沼 直樹 内山 侑紀 道免 和久
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12117, (Released:2022-01-25)
参考文献数
15

【目的】二次進行型MS 患者の下腿三頭筋の痙縮に対して,FES を前脛骨筋に実施し,痙縮の減弱に伴い歩行能力向上を認めたため報告する。【症例】40 歳台男性。再発と寛解を繰り返しているMS 患者で,今回4 度目の再発にて歩行困難となり入院。ステロイドパルス療法が施行されたが,右下腿三頭筋の痙縮や前脛骨筋の筋力低下が残存し,歩行が不安定であった。【方法】FES は,歩行練習中に右前脛骨筋に対して5 日間実施した。評価は,介入前後でMAS や足クローヌス,6 分間歩行距離などを測定した。【結果】FES 介入前後でMASは2→1+,クローヌススコアは4 →1,6 分間歩行距離は80 m →150 m であった。【結論】前脛骨筋へのFES は,即時的に下腿三頭筋の痙縮を減弱させ,立脚期の反張膝や遊脚期での躓きが減少することで,歩行能力を向上させる可能性があることが示唆された。