- 著者
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菅井 俊樹
篠原 久典
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 重点領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1997
犬山P/T境界試料中にわれわれは、フラーレンC_<60>を発見し、試料中の濃度は10pptであることをつきとめた。さらに、金華山P/T境界試料や犬山P/T境界近傍試料など複数箇所の試料から、1ppt程度のフラーレンを検出した。C_<60>はサッカーボール型分子でフラーレンの代表的物質であり、これまで主に実験室で合成されてきた。ところが近年、恐竜が絶滅した6500万年前のK/T境界の試料中にC_<60>が発見されるなど、天然試料中にも存在することが明らかになってきた。この地球環境におけるC_<60>をはじめとする炭素フラーレンは木材などの有機物の燃焼や、雷などにより炭素を含む物質が蒸発・反応したことにより生成すると考えられている。フラーレンは生成条件が上述したように特殊であり、また生成後は非常に安定で水にも不溶である。これらの性質から生成時の地球環境を推測する新しい指標として有望である。われわれがC_<60>を発見した2.5億年前のP/T境界では、全地球史史上最大規模の生物の大量絶滅が起こり、海洋生物種の95%が絶滅した。この原因として、超大陸パンゲアの生成による地殻・気候変化と海洋における酸素欠乏などがあげられているが、物証が少なくよく分かっていない。C_<60>は酸素や水素の少ない条件下で効率よく生成するので、P/T境界時のC_<60>の地殻存在濃度を時代を追って調べることにより、各時代にどのような自然環境であったかが明らかになり、生物の大絶滅を解明できる可能性がある。具体的には以下のような方法でC_<60>を発見した。まず愛知県犬山の2.5億年前の黒色泥岩層から約2kgの試料をとり粒径1mm以下に粉砕した。つぎに、珪素や鉄などのC_<60>以外の部分を取り除くため弗化水素酸で一月間溶解させた。C_<60>が含まれている不溶部分をろ過して取り出し、トルエンで超音波洗浄を用いてC_<60>を抽出した。抽出溶液を高速液体クロマトグラフィーとアレイ型検出器を用いて検出・同定した。複数箇所のP/T境界試料からC_<60>が発見されたことで、この時代に地球規模のフラーレン生成を引き起こす現象が起こっていたことが明らかになった。現在のところ生成原因はパンゲアの地殻活動に伴う山火事などで生成したものと考えている。P/T境界時の自然環境との関係とC_<60>濃度の時間・地域依存性を実験に基づいて考慮している。