著者
菊井 和子 山口 三重子 渡邉 美千代 白岩 陽子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.120-126, 2005-09-19

医療が宗教と乖離した今日でも、ホスピスでは宗教者がケアチームで重要な役割を担っているが、仏教僧侶の関与についての報告は少ない。本研究は仏教僧侶の終末期ケアへの参加状況について調査し、その現状と将来への展望を明らかにすることを目的とする。調査対象は中国地方真言宗青年会の僧侶で、29名中23名(79.3%)が回答した。約3分の2が何らかの形で終末期患者・家族に援助をした経験を持っていたが、彼らはそれを医療と関連のある活動とは認識していなかった。死については、仏教の教えを説くよりも現代社会に受け入れやすい言葉で助言をする者が多かった。今後の活動として、日頃から壇信徒と交流を持ち、相談相手になることに意欲を示していた。全人的ニーズに対処するには宗教的ケアは重要であり、特にグリーフケアは仏教僧侶に最も適した領域と考えられる。終末期ケアに関する僧侶の継続的な研修と並行して、社会も僧侶に活動の場を拓くことの必要性が示唆された。
著者
菊井 和子 竹田 恵子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-70, 2000-06-26

エリザベス・キュブラー・ロスの名著「死ぬ瞬間」(1969年)がわが国に導入されて以後, 死にゆく患者の心理過程はターミナルケアにあたる医療職者にとっても社会全体にとっても重要な課題となった.なかでもその最終段階である"死の受容"についての関心が高まった.キュブラー・ロスは"死の受容"を"長かった人生の最終段階"で, 痛みも去り, 闘争も終り, 感情も殆ど喪失し, 患者はある種の安らぎをもってほとんど眠っている状態と説明しているが, わが国でいう"死の受容"はもっと力強く肯定的な意味をもっている.患者の闘病記・遺稿集およびターミナルケアに関わる健康専門職者の記録からわが国の死の受容に強い影響を及ぼしたと考えられる数編を選び, その記述を検討した結果, 4つの死の受容に関する構成要素が確認された.つまり, 1)自己の死が近いという自覚, 2)自己実現のための意欲的な行動, 3)死との和解, および4)残される者への別離と感謝の言葉, である.わが国における"死の受容"とは, 人生の発達の最終段階における人間の成熟した肯定的で力強い生活行動を言い, 達成感, 満足感, 幸福感を伴い, 死にゆく者と看取るものの協働作業で達成する.
著者
菊井 和子 竹田 恵子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-70, 2000-06-26

エリザベス・キュブラー・ロスの名著「死ぬ瞬間」(1969年)がわが国に導入されて以後, 死にゆく患者の心理過程はターミナルケアにあたる医療職者にとっても社会全体にとっても重要な課題となった.なかでもその最終段階である"死の受容"についての関心が高まった.キュブラー・ロスは"死の受容"を"長かった人生の最終段階"で, 痛みも去り, 闘争も終り, 感情も殆ど喪失し, 患者はある種の安らぎをもってほとんど眠っている状態と説明しているが, わが国でいう"死の受容"はもっと力強く肯定的な意味をもっている.患者の闘病記・遺稿集およびターミナルケアに関わる健康専門職者の記録からわが国の死の受容に強い影響を及ぼしたと考えられる数編を選び, その記述を検討した結果, 4つの死の受容に関する構成要素が確認された.つまり, 1)自己の死が近いという自覚, 2)自己実現のための意欲的な行動, 3)死との和解, および4)残される者への別離と感謝の言葉, である.わが国における"死の受容"とは, 人生の発達の最終段階における人間の成熟した肯定的で力強い生活行動を言い, 達成感, 満足感, 幸福感を伴い, 死にゆく者と看取るものの協働作業で達成する.
著者
"水畑 美穂 菊井 和子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.149-159, 2005

"医療技術の目覚しい発達により解決可能な健康問題が増え,看護実習も健康問題解決志向である看護過程の習得を重視している.しかし近年,老いや死に対峙する高齢者や終末期患者に対する看護では,医療技術を駆使した問題解決よりも人間存在としての患者の苦しみに対処するヒューマンケアが重要であることが認識されるようになった.J.ワトソンらは,新しい看護のパラダイムとして「看護者」という人間が「患者」という人間の苦悩に「共に関与するもの」として関わるトランスパーソナルな関係形成を提唱している. 本研究は,看護学生が老人施設での実習において医療技術では解決不可能な問題を抱えた患者とどのように人間関係を形成していくか,それを通してどのようにヒューマンケアを学習していくかを明らかにすることを目的とする.実習場面に指導者として参加観察した後,学生に面接を行ない,その逐語記録を資料として,患者--看護者の人間関係形成のプロセスをワトソンの記述的現象学的方法を用いて分析し,その構造化を試みた.その結果,学生と患者は「出会い」「模索と葛藤」「可能性の発見(転換点)」「トランスパーソナルな関係」の4段階を経てヒューマニスチックな人間関係を形成していくことが明らかになった.学生は挫折や葛藤を繰り返しながら人間関係形成の接点をつかみ,患者の真のニーズに触れる瞬間を得,それを転換点としてフィーリングの交換が活発となり,ヒューマンケアに変容した.そして実習の終了頃には,双方の間にトランスパーソナルな関係を築くことが可能となる.高齢者,終末期の患者においては個々の問題解決よりも,看護者と患者がそれぞれ一人の人間として全人的存在に影響を与え合い,トランスパーソナルなヒューマンケアの中で共に成熟するものであった.それは看護教育の視点に大きな示唆を与えるものと言える."