著者
竹田 恵子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.201-221, 2016 (Released:2017-09-30)
参考文献数
33

多くの知識が手軽に入手できるようになった現代では, 科学知識の入手において専門家と素人の垣根が崩れつつある. 本稿では, 生殖医療に関する科学知識の蓄積とこれを媒介するメディアの充実が, 現代の生殖医療患者にどのような影響を与えているかを検討した. 11名への聞き取り調査から, 現代の生殖医療患者は治療経過に沿って異なる科学知識の収集を行っていることが明らかになった. 治療当初は医療専門家, 知人, 書籍・雑誌, ウェブサイトから基礎的な科学知識を収集し, 治療が高度化する際には個人にあった知識を入手していた. そして, 彼女たちは知識を収集するなかで治療経過に関する標準化されたプロトコルを理解のなかに作り上げることが認められた. ただし, 協力者は, 治療が長期化すると妊娠しない原因を指摘する科学知識から遠ざかり, あえて知識収集しなくなると同時に, 医師の前で「素人」を演じるようになることもわかった. 現代の生殖医療患者は大量の科学知識に囲まれ, その収集を続けるなかで生殖医療に関する不確実性にも触れるようになる. その結果, 現代の生殖医療患者は科学知識に頼っても妊娠するとは限らないことを経験的に理解する. そして, これまで手に入れた科学知識がなかったかのように振る舞いながら, 医師の言動を静かに査定する. 現代の生殖医療患者は, 様々なメディアと自らの経験などから作り上げた独自の専門知識を駆使し, 妊娠を目指していた.
著者
竹田 恵子
出版者
日本演劇学会
雑誌
演劇学論集 日本演劇学会紀要 (ISSN:13482815)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.73-89, 2014 (Released:2017-01-06)

This paper about performance piece S/N (1994) created by artist group Dumb Type investigates the citations of previous works by Dumb Type members or other artists. Then, it illustrates the structure of the performance piece by using interviews about the creation process and the recorded performance analysis of S/N.In previous reviews, Dumb Type was reported to value the equality among the members in terms of participation in the creative process. In addition, Dumb Type was said to prevent the control by a single author/director on the performance piece. At first sight, hybridity, or decentralization, is the initial characteristic of S/N. The performance's elements are juxtaposed on the stage, including texts, moving bodies, synthesized music, lighting, performers' dialogue, and the projection of moving images.In consequence, however, citations and the original creation portion on S/N are aligned along two main themes consistently. S/N has a structure in which similar parts repeat and develop.The relationship between the creation of S/N and FURUHASHI Teiji, who informed his close friends about his HIV-positive status just before the creation, will need to be investigated further.
著者
菊井 和子 竹田 恵子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-70, 2000-06-26

エリザベス・キュブラー・ロスの名著「死ぬ瞬間」(1969年)がわが国に導入されて以後, 死にゆく患者の心理過程はターミナルケアにあたる医療職者にとっても社会全体にとっても重要な課題となった.なかでもその最終段階である"死の受容"についての関心が高まった.キュブラー・ロスは"死の受容"を"長かった人生の最終段階"で, 痛みも去り, 闘争も終り, 感情も殆ど喪失し, 患者はある種の安らぎをもってほとんど眠っている状態と説明しているが, わが国でいう"死の受容"はもっと力強く肯定的な意味をもっている.患者の闘病記・遺稿集およびターミナルケアに関わる健康専門職者の記録からわが国の死の受容に強い影響を及ぼしたと考えられる数編を選び, その記述を検討した結果, 4つの死の受容に関する構成要素が確認された.つまり, 1)自己の死が近いという自覚, 2)自己実現のための意欲的な行動, 3)死との和解, および4)残される者への別離と感謝の言葉, である.わが国における"死の受容"とは, 人生の発達の最終段階における人間の成熟した肯定的で力強い生活行動を言い, 達成感, 満足感, 幸福感を伴い, 死にゆく者と看取るものの協働作業で達成する.
著者
實金 栄 橋本 優 井上 かおり 梅本 愛実 笠松 奈央 小薮 智子 白岩 千恵子 岡本 宣雄 竹田 恵子
出版者
日本臨床倫理学会
雑誌
臨床倫理 (ISSN:21876134)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.18-31, 2018 (Released:2021-07-12)
参考文献数
73

本研究は日本の看護師を対象に,スピリチュアルケアの実践指標(nurses’ spiritual care practices;NSCP)を開発し,その実践指標の尺度としての妥当性と信頼性を検討することを目的とした。対象は日本の看護師1,058人。尺度の妥当性は,前提となるケア,信じる・共にいる,協働,存在探求へのケアの4因子を一次因子,スピリチュアルケアを二次因子とするモデルを仮定し,このモデルの構成概念妥当性を検討した。さらに道徳的感受性との関連で併存的妥当性,ヒューマンケアとの関連で収束的妥当性を検討した。分析の結果,構成概念妥当性,併存的妥当性および収束的妥当性は検証された。NSCPにより測定された看護師のスピリチュアルケア実践は,存在探求へのケアが最も低く,この実践力向上が課題と考えられた。そのため,看護師自身がスピリチュアルケアに向き合うことへの覚悟を支える支援が求められる。
著者
竹田 恵子 清原 悠 吉良 智子
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.219-241, 2023-03-30

In this paper, we reveal the situation of education on gender/sexuality at Japanese art universities based on both qualitative and quantitative research.We conducted qualitative research from April to December 2021. We had 10 participants, including 5 students and 5 educators, affiliated with 5 universities. In our quantitative research, we found that the situation of gender consciousness varied greatly across universities. At the most enlightened universities, students do not feel a gender gap; however, some students revealed there were sexual assaults and sexual harassment at a few universities. At all the universities we investigated, gender education was not a compulsory subject and was fragmented. Some participants suggested that there was a gap in gender consciousness between male and female students. And an educator suggested that there was a high degree of homosociality between male educators and male students. Almost all participants do not know or use the harassment-prevention system at their universities, or otherwise answered that they cannot trust such systems provided by universities.We then conducted quantitative research from December 2021 to May 2022 at 8 universities and the number of valid responses was 161. Unfortunately, the proportion of male students who answered the quantitative research was too small (18 responses),even though the proportion of male students in fine art is about 30%. This suggests that some male students avoid gender-related issues.In our quantitative research, the data says the circumstance of creation for students is relatively good. On the other hand, the willingness to take gender/sexuality-related courses is generally quite high, with 77%(gender-related courses)and 80.7%(sexuality-related courses)of the respondents answering either “very much” or “fairly much” to the question of whether they would be willing to take such courses. However, the level of knowledge related to gender/sexuality was not high except for a few subjects. More than 50% of students say they cannot trust the harassment-prevention system in their universities. Moreover, more than 50% of students do not know about this system.Through this survey, we can fully recognize the need for gender/sexuality education, especially the need to open gender/sexuality-related courses, and the need for awareness-raising for harassment prevention.本稿では、2020~2021年度に実施した美術大学におけるジェンダー/セクシュアリティ教育の実態調査の概要と結果を示す。近年、芸術分野におけるハラスメントや、ジェンダー・ギャップが問題となり、統計的手法を用いた調査を行おうとする動きが高まっている(竹田2019;表現の現場調査団2022)。美術教育に関する先行研究においても、そもそも女性に対する美術教育は「良妻賢母教育」の一環として行われ、男子学生のカリキュラムにはない「手芸」的要素が含まれていたことが指摘されている(山崎2010)。戦後には国立の美術大学にも女性が入学できるようになり一見平等が達成されたかのようであるが、教員数・学生数のジェンダー比や、美術館に収蔵されている作品の作者、美術館の館長のジェンダー比などを確認すると、そうではないことがわかる(竹田2019)。本稿ではこの実態をさらに詳しく明らかにするために、質的手法、量的手法の両面から調査を行った。質的調査(インタビュー調査)は2020年4月から12月にかけて行った。量的調査(アンケート調査)は電子化し、2021年12月9日から2022年5月31日に実施された。最終的な有効回答数は161である。なお、学校基本調査の美術専攻において3割程度存在する男子学生であるが、量的調査に回答した男子学生の割合は18名(11.2%)で非常に少ない。このことから、男子学生のなかにジェンダーやセクシュアリティに関する事柄に対する忌避意識が存在する可能性がある。結果をつぎから示す。芸術創造環境は質的調査では、大学ごとあるいは大学内の学部・学科ごとにかなり異なることが示唆されたものの、量的調査ではおおむね良好であるという結果となった。また、質的調査においては男子学生と女子学生のジェンダーに対する意識の差、男子学生と男性教員とのホモソーシャルが指摘された。量的調査・質的調査の結果からハラスメント相談室やハラスメント防止ガイドラインの存在の認知度および信頼度に関しては改善の余地があると考えられる。ジェンダー/セクシュアリティ関連科目の有無についてシラバスを検索したところ、多い大学は49少ない大学は9という結果であった。さらにそれらの科目は必修ではないため、受講生の興味によっては、知識獲得水準に格差が出てしまう。実際、ジェンダー/セクシュアリティ関連知識のレベルは一部を除き高いとは言えない。一方ジェンダー/セクシュアリティ関連科目の受講への意欲は「とても思う」「まあ思う」をあわせて77%(ジェンダー関連科目)80.7%(セクシュアリティ関連科目)とかなり高い。またクロス集計の結果から、大学の友人・知人間での「ジェンダーの話題」と「セクシュアリティの話題が出る群の方が、ジェンダー/セクシュアリティの授業を受講したいと考える傾向が有意に高いこと、また「ジェンダーの話題」と「セクシュアリティの話題」の回答の傾向が似通っていることが確認できた。大学におけるジェンダー/セクシュアリティの話題の経験に応え得るものとして、ジェンダー/セクシュアリティ教育への需要が存在することを示す結果と言えよう。本調査を通してジェンダー/セクシュアリティ教育、特にジェンダー/セクシュアリティ関連科目開講および必修化の必要性、ハラスメント予防啓発の必要性が十分に認識できる結果となった。
著者
竹田 恵子 Takeda Keiko
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.41, pp.19-35, 2020-03-31

社会学 : 論文障害に関する医学的観点は、障害者の家族形成を妨げる原因の一つを提供してきたとされる。しかし、障害に関する医学的観点は既成概念的に扱われる傾向にあり、その内容は実証的に解明されているとは言いがたい。本稿では、計量テキスト分析によって障害と生殖に関する医学的観点の特徴を解明した。障害と家族形成の両方を扱う保健医療関連分野の日本語論文を用いたクラスター分析の結果、論文の背景部分では11の主題(障害者福祉の歴史的変遷・支援効果の検討・妊娠の心理的衝撃・家族形成の困難の克服・周産期に生じる医学的課題・在宅療養・生活面での医療的支援・保育事業・児童虐待・長期的な健康障害の影響・ストレスの研究)、考察部分では9の主題(脊髄損傷者の家族形成・障害者の自律性の尊重・保育支援体制の整備・家族形成と人生の意味・障害者の家族形成に関連する要因・障害の受容過程・気持ちにより添う・在宅療養制度の問題・教育機関との連携)が抽出された。医学的観点は障害を克服した健全な家族形成を理想とするが、十分な支援が実現できないことへ苦悩し、自らを障害者と重ねて共に歩もうとする面もあった。
著者
竹田 恵子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.201-221, 2016

<p>多くの知識が手軽に入手できるようになった現代では, 科学知識の入手において専門家と素人の垣根が崩れつつある. 本稿では, 生殖医療に関する科学知識の蓄積とこれを媒介するメディアの充実が, 現代の生殖医療患者にどのような影響を与えているかを検討した. 11名への聞き取り調査から, 現代の生殖医療患者は治療経過に沿って異なる科学知識の収集を行っていることが明らかになった. 治療当初は医療専門家, 知人, 書籍・雑誌, ウェブサイトから基礎的な科学知識を収集し, 治療が高度化する際には個人にあった知識を入手していた. そして, 彼女たちは知識を収集するなかで治療経過に関する標準化されたプロトコルを理解のなかに作り上げることが認められた. ただし, 協力者は, 治療が長期化すると妊娠しない原因を指摘する科学知識から遠ざかり, あえて知識収集しなくなると同時に, 医師の前で「素人」を演じるようになることもわかった. 現代の生殖医療患者は大量の科学知識に囲まれ, その収集を続けるなかで生殖医療に関する不確実性にも触れるようになる. その結果, 現代の生殖医療患者は科学知識に頼っても妊娠するとは限らないことを経験的に理解する. そして, これまで手に入れた科学知識がなかったかのように振る舞いながら, 医師の言動を静かに査定する. 現代の生殖医療患者は, 様々なメディアと自らの経験などから作り上げた独自の専門知識を駆使し, 妊娠を目指していた.</p>
著者
三澤 久恵 佐口 清美 畠山 玲子 高尾 秀伸 竹田 恵子 阿部 大亮 島田 翔太郎 馬場 彪画 石川 晴菜 高山 眞帆 井上 奈南 岩崎 彩 Hisae Misawa Kiyomi Saguchi Reiko Hatakeyama Hidenobu Takao Keiko Takeda Daisuke Abe Shoutaro Shimada Hyouga Baba Haruna Ishikawa Maho Takayama Nanami Inoue Aya Iwasaki
出版者
神奈川工科大学
雑誌
神奈川工科大学研究報告. A・B, 人文社会科学編・理工学編 Research reports of Kanagawa Institute of Technology. 神奈川工科大学 編 (ISSN:21882878)
巻号頁・発行日
no.44, pp.25-30, 2020

[Purpose] The purpose of this study was to analyze the characteristics of the elderly people who participated in the "group recminiscence therapy".[Method] The group reminiscence therapy was carried out for the elderly people of S area of A city from May to August 2018. The documents written by students who participated in the recollecting method as co-leaders was analyzed. The analytic theme was taken as "the meaning in which elderly people look back upon their life." The concepts was generated by qualitative research according to the Grounded Theory Approach (M-GTA).[Results] Altogether, 19 concepts were generated.The core concept was "perception about own existence realized through support of the surrounding people". The three core categories constituting the core concept were generated as "review of own life," "pride to self," "composing mind to the future."[Discussion] "Review of own life," like the flow in a river, makes one aware of the path traversed in life and proud of one's ability to handle events at the turning points in life with support from others, which in turn leads to "pride to self" "Things to accomplish in the future" relates to the approach to the end of life through cherishing the current way of living and building smooth relationships with others.
著者
加藤 真紀 竹田 恵子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.4_685-4_694, 2017-09-07 (Released:2017-10-21)
参考文献数
34

本研究は,高齢者の終末期にかかる家族の意思決定について国内外の文献をレビューし,研究の動向とともに高齢者の終末期にかかる家族の意思決定の特徴を明らかにすることを目的とした。2015年までの国内外における高齢者の終末期にかかる家族の意思決定に関する研究を,「高齢者」「家族」「意思決定」「終末期 or 緩和ケア」などのキーワードで検索を行った。家族の意思決定の特徴は,高齢者の希望や心情を理解しようと努め,高齢者のライフストーリーから推定を行っていることが示された。しかし,家族であっても高齢者の意思を推定することはむずかしく,困難や不確かさがあり,意思決定後もその決断内容の問い直しをして揺れを伴う体験であることも明らかとなった。今後は,家族が手がかりとしている高齢者のライフストーリーの要素や,家族の判断基準,判断材料,決定への影響要因などを明らかにし,困難を緩和できる効果的な支援を検討していく必要がある。
著者
小薮 智子 白岩 千恵子 竹田 恵子 太湯 好子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.59-71, 2009

本研究は,緩和ケア病棟の看護師97名,一般病棟の看護師248名,一般の人429名,大学生244名,合計1,018名を対象とし,スピリチュアリティという言葉のイメージを明らかにすること,また4つのグループ別に認知の有無と,イメージの特徴を明らかにすることを目的とし,質問紙調査を行った.スピリチュアリティという言葉を認知している人は全体で421名(41.4%),緩和ケア病棟の看護師が83名(85.6%),一般病棟の看護師が136名(54.8%),一般の人が92名(21.4%),大学生が110名(45.1%)であり,スピリチュアリティという言葉は未だ一般の人に認められた言葉ではないことが示された.得られたイメージを内容の類似性で整理した結果,【超越的】【内的自己】【人間存在】【死生観】【ビリーフ】【Well-BeingとPain】【他者や環境】の7コアカテゴリーが抽出された.その内容からスピリチュアリティは幅広いイメージを与え,主観的で抽象的であることが確認できた.またこれらは既存の学術的概念と類似していた.カテゴリーに分類されなかった「その他」には〈マスメディア〉〈超常現象〉〈否定的イメージ〉が含まれ,スピリチュアリティをスピリチュアルブームという大衆文化の中でとらえている人がいることが明らかになった.7コアカテゴリーは4グループすべてで抽出され,その中でも【超越的】と【内的自己】が共通して最も多かった.緩和ケア病棟の看護師はスピリチュアリティに幅広い,多くのイメージを持っていた.また一般病棟の看護師の約1割と大学生の約2割が〈マスメディア〉をイメージしていた.一般の人の【他者や環境】のイメージは,日本人の中・高齢者の特徴と考えられた.
著者
竹田 恵子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.45-55, 2010
被引用文献数
1

高齢者の健康支援に対する看護実践は,幅広い年齢層の多様な健康状態を対象に,多様な場で展開されるものである.そこで本稿では,高齢者が "人生の最終章を生きる人々である"という高齢者の最大の特徴をふまえ,高齢者への看護について論述した.まず,老年看護実践の特徴について概観した後,高齢者の健康の捉え方と老いることの意味について確認した.高齢者の健康は,日常生活機能の自立をもって評価される包括的な概念であること,社会文化的背景に影響され,その人の価値や信念と深くかかわる概念であるスピリチュアルな側面の健康も重要な視点であることが示された.また,老年期は「豊かな実りの時期」であり,高齢者が「統合と絶望」という発達課題に向き合うことを通して自己の存在意義を確認し,それを次世代へと繋いでいく人々であるという点に老いることの意味を確認した.以上の内容をふまえて,人生の最終章を生きる高齢者への健康生活支援として,「人生の統合」への支援に注目した看護,「スピリチュアリティ」に注目した看護,「死の準備教育」に注目した看護について概観した.これらの看護支援に共通するのは,一人の大切な人として高齢者に出会い,その人に関心を寄せ,その人のもてる力を信じ,日常生活を整えること,良き話の聴き手となることであった.また,高齢者と看護職が関わりあいを通して学び合い成長し合うという性質を持つことであった.
著者
菊井 和子 竹田 恵子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-70, 2000-06-26

エリザベス・キュブラー・ロスの名著「死ぬ瞬間」(1969年)がわが国に導入されて以後, 死にゆく患者の心理過程はターミナルケアにあたる医療職者にとっても社会全体にとっても重要な課題となった.なかでもその最終段階である"死の受容"についての関心が高まった.キュブラー・ロスは"死の受容"を"長かった人生の最終段階"で, 痛みも去り, 闘争も終り, 感情も殆ど喪失し, 患者はある種の安らぎをもってほとんど眠っている状態と説明しているが, わが国でいう"死の受容"はもっと力強く肯定的な意味をもっている.患者の闘病記・遺稿集およびターミナルケアに関わる健康専門職者の記録からわが国の死の受容に強い影響を及ぼしたと考えられる数編を選び, その記述を検討した結果, 4つの死の受容に関する構成要素が確認された.つまり, 1)自己の死が近いという自覚, 2)自己実現のための意欲的な行動, 3)死との和解, および4)残される者への別離と感謝の言葉, である.わが国における"死の受容"とは, 人生の発達の最終段階における人間の成熟した肯定的で力強い生活行動を言い, 達成感, 満足感, 幸福感を伴い, 死にゆく者と看取るものの協働作業で達成する.
著者
竹田 恵子
出版者
The Kantoh Sociological Society
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.24, pp.121-132, 2011

Teiji Furuhashi revealed his HIV-positive status to his friends by "the letter" in October, 1992. This revelation started grass-roots movement in Kyoto, Japan. This paper investigates why though he let only about 20 friends know his HIV-positive status the letter sparked movements such as those associated with multiple identities that were not limited to the HIV/AIDS. In what way is the rhetoric of of Furuhashi's counter claim making unique? This paper suggests that Furuhashi's counter claiming had such an impact because it used a motif that problematized not only HIV/AIDS or male homosexuality and a rhetoric based on comradeship.<br>Furthermore, rather than identifying himself as a gay male homosexual, he identified himself as an artist. Therefore, this allowed movement participants to conflate intimate internal personal relationships and make rhetorical links among various sexual/gender identities.