- 著者
-
華井 明子
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.154, no.5, pp.245-248, 2019 (Released:2019-11-15)
- 参考文献数
- 31
- 被引用文献数
-
2
化学療法起因性末梢神経障害(chemotherapy induced peripheral neuropathy:CIPN)は,タキサン系,プラチナ系をはじめとする抗がん薬の副作用として生じる手足のしびれ症状であり,有効な予防法や治療法が確立していない.そのため一度発症すると長期にわたり症状が残存し,歩行能力(転倒リスクの上昇)や就労といった生活活動に障害をきたす.抗がん薬の副作用対策として,副作用を起こす部位への局所冷却が用いられており,脱毛予防や口内炎予防,手足の皮膚・爪障予防の効果が報告されていた.そこで,冷却がCIPN予防に有効であるか,パクリタキセル療法を受ける乳がん患者を対象とした臨床試験による検討を実施した.40症例を対象に利き手側手足に抗がん薬投与15分前から投与終了15分後まで計90分間フローズングローブソックスを装着して,無介入の非利き手側手足と比較した.その結果,モノフィラメントテストで評価した触覚閾値の変化,質問紙により評価した自覚症状,グローブドペグボードテストで評価した手指巧緻性の変化について,臨床的・統計学的に有意な差が得られた.冷却は疼痛,炎症の予防等に広く使用されているが,凍傷のリスクも伴うため,医療者による管理を行うことが望ましい.しかしながら,がん化学療法領域における冷却介入に関しては,現在設備や人的リソースの不足により,普及と実装が実現していない状況である.今後より安全で効果的な標準冷却療法を確立し,広く本予防法を届けることが喫緊の課題である.