著者
福岡 達之 杉田 由美 川阪 尚子 吉川 直子 新井 秀宜 巨島 文子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.155-161, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
参考文献数
17

症例は41 歳女性,Foix-Chavany-Marie 症候群(FCMS)の患者である.両側顔面下部,舌,咽頭,咀嚼筋に重度の随意運動障害を認め,構音不能と嚥下障害を呈した.罹患筋の随意運動はわずかな開口以外不可能であったが,笑いや欠伸などの情動・自動運動は保持されており,automatic voluntary dissociation がみられた.嚥下造影は30 度リクライニング位,奥舌に食物を挿入する条件下で実施したが,咽頭への有効な送り込み運動はみられず重度の口腔期障害を認めた.顔面,下顎,舌に対して他動的な運動療法を実施するも,罹患筋の随意運動は改善しなかった.本例では咀嚼の随意運動も不可能であったが,非意図的な場面では下顎と舌による咀嚼運動が生じ,唾液を嚥下するのが観察されていた.そこで,この保持された咀嚼の自動運動を咽頭への送り込み方法として利用できると考え,咀嚼の感覚入力と咀嚼運動を誘発する訓練を試みた.咀嚼運動を誘発させる方法としては,食物をのせたスプーンで下顎臼歯部を圧迫する機械刺激が有効であり,刺激直後に下顎と舌のリズミカルな上下運動が生じて咽頭への送り込みが可能であった.この刺激方法を用いて直接訓練を継続した結果,咀嚼運動による送り込みと45 度リクライニング位を組み合わせることで,ペースト食の経口摂取が可能となった.本例で嚥下機能が改善した機序として,咀嚼運動を誘発させる直接訓練の継続が,咀嚼運動の入力に対する閾値低下と咀嚼のCPG 活性化につながり,咀嚼運動による送り込みの改善に寄与したものと考えた.FCMS では,発声発語器官の諸筋群に生じる重度の随意運動障害により,準備・口腔期の嚥下障害を呈するが,訓練経過の報告は少なく,訓練方法を考えるうえで貴重な症例と思われ報告した.
著者
荒金 英樹 巨島 文子 神山 順 豊田 義貞 堀 哲史 松本 史織 八田 理絵 仁田 美由希 山田 圭子 樋口 眞宏 山口 明浩 草野 由紀 関 道子 永見 慎介 華井 明子 竹浪 祐介 森野 彰人 樹山 敏子 和田 智仁 村田 篤彦
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.1095-1100, 2015 (Released:2015-10-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

京都では食を支える地域作りを目的に様々な連携体制の構築に取り組んでいる。医科歯科連携体制として「京都府口腔サポートセンター」、京都市山科区での多職種連携を目指した「山科地域ケア愛ステーション」、京都府、滋賀県での食支援を目的とした「京滋摂食嚥下を考える会」を紹介する。京滋摂食嚥下を考える会では地域連携の基盤として嚥下調整食共通基準の導入と独自に作成した「摂食・嚥下連絡票」を提案、京都府基準として関連職能団体等の承認を得た。この基盤を背景に、地域連携を促進するため、研修会や調理実習を各地で開催している。また、京料理をはじめとした京都の伝統食関連産業の団体と連携し、介護食を地域の食文化と発展させる活動も展開している。平成27年度からは京都府医師会などの職能団体の協力のもと、府内各地での多職種、施設間連携を促進させるため、市民向けの食支援相談窓口を設置、府民の食支援と啓蒙活動を計画している。
著者
木村 幸 巨島 文子 植田 秀貴 今田 智美 倉智 雅子
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.S202-S206, 2010

前舌保持嚥下法 (Tongue-Hold Swallow : 以下 THS) は1996 年に Fujiu らによって嚥下咽頭期の嚥下圧生成源となる舌根部と咽頭後壁の接触不全に対し、咽頭後壁隆起を増大させる訓練法として提唱されたが、実際の訓練効果に関してはほとんど報告がない。今回われわれは、検査所見上、嚥下障害の問題の一つが咽頭期における舌根部と咽頭壁の接触不全による嚥下圧 (咽頭圧) 生成不足と考える症例に対して、THS のみを 3 カ月間施行した。訓練前後に嚥下造影検査を実施し、咽頭期における舌根部と咽頭壁の運動幅を測定した結果、舌根部と咽頭壁の接触不全が軽減された。THS は咽頭壁のみならず舌根部の後退運動を増大させる可能性が示唆された。