著者
萩原 政夫 内田 智之 井上 盛浩 大原 慎 今井 唯
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1684-1687, 2021 (Released:2022-01-13)
参考文献数
14

免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)症例における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン後の血小板減少は,日本血液学会から勧告されている重要な注意事項である。一方,SARS-CoV-2ワクチン投与によって,新規にITPが発症する報告も相次いでいる。今回,過去に血小板数値の異常を指摘されたことのない2名の女性において,BNT162b2 mRNAワクチン2回接種の4ないし14日後に出血症状を伴って重篤な血小板減少症が出現した症例を経験した。それぞれ血小板輸血,あるいは大量γグロブリン大量療法とデキサメタゾンにより速やかに血小板数が回復した。これまでBNT162b2 mRNAワクチン接種後のITP発症は,本稿を執筆時に検索した限り9症例が報告されており,当院の2症例も含め,殆どが良好な経過を辿っている。一方,発見や対処が遅れた場合には不良な転帰を辿る可能性もあるため,全国規模の調査によってワクチンとの因果関係や,その予後に関して明らかにすることが望ましい。
著者
内田 智之 髙木 祐希 水野 晃宏 岡村 駿 斎藤 宏紀 井手 史朗 大原 慎 井上 盛浩 萩原 政夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.857-864, 2020 (Released:2020-09-08)
参考文献数
10

当院で院内感染として新型コロナウイルス感染症を発症した血液疾患40例と他疾患57例を後方視的に解析した。生存例については60日までを解析期間とした。血液疾患21例(52.5%),他疾患20例(35.1%)の死亡が確認された。血液疾患症例においては高頻度にファビピラビルが使用(21例(52.5%)vs 15例(26.3%),P<0.05)されていたにもかかわらず,生存期間中央値は29日で,全生存率が不良な傾向であった(P=0.078)。血液疾患症例では酸素投与が開始後,急激に呼吸状態が悪化し死に至るもしくは人工呼吸器管理を要する状態に至るまでの日数が有意に短い結果が示された(中央値5日(範囲1~17日),10日(1~24日),P<0.05)。入院中の血液疾患症例が新型コロナウイルス感染症を発症すると極めて短期間に重症化し致死的となる可能性が示唆された。
著者
萩原 政夫 林 泰儀 中島 詩織 今井 唯 中野 裕史 内田 智之 井上 盛浩 宮脇 正芳 池田 啓浩 小沼 亮介 熱田 雄也 田中 勝 今村 顕史
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.3-8, 2023 (Released:2023-02-11)
参考文献数
19

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株流行期において,当院血液内科外来通院中に感染し,発症した11症例について報告する。化学療法が施行中の5例中4例が中等症-II以上となり,内2例はその後重症化し死亡に至った。一方で未施行の6例では1例のみが中等症-IIに進行するも重症化は免れ,残り5例は軽症から中等症-Iに留まった。モノクローナル抗体治療薬が発症から8日以内に投与された4例は全て生存し,投与がされなかった1例と投与が遅れた1例はSARS-CoV2 IgG抗体価が低値のまま死亡に至った。変異株の中では比較的重症化率の低いとされるオミクロン株の感染においても血液悪性疾患,特に化学療法によって免疫不全状態にある場合の重症化リスクは依然として高く,特異抗体の獲得が不十分あるいは大幅に遅延することがあり得るため,抗ウイルス薬に加えて積極的な抗体療法が予後を改善する可能性がある。
著者
萩原 政夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.1178-1185, 2021 (Released:2021-09-08)
参考文献数
36

全世界的に血液疾患特に悪性疾患におけるCOVID-19は死亡率が極めて高いことが多数報告されている。当院における大規模院内感染においても,無症状者を除いた場合の生存率は血液疾患患者において明らかに不良であり,特に酸素投与が開始となってから死亡に至るまでの日数が中央値5日と急速な増悪を認めた。非悪性疾患ではprednisoloneによる初回治療中のITP 2例が,急速に進行する肺炎/呼吸不全で死亡した。悪性疾患では,寛解確認前やステロイドを含む化学療法施行例は高リスク群であり,リンパ系悪性疾患が骨髄系疾患との比較で死亡症例を多く認めた。また呼吸不全に対しては,副腎ステロイド投与が著効した症例を経験した。なおSARS-CoV-2 IgG抗体獲得に至らない症例においては再感染ないし再燃のリスクがあり得ることに注意が必要である。
著者
内田 智之 井上 盛浩 華 見 田島 将吾 大田 泰徳 萩原 政夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.624-629, 2017

<p>5年前から関節リウマチ(RA)の加療中で,2年前に悪性リンパ腫の発症が疑われたが確定診断には至らず,抗リウマチ薬(メソトレキセート(MTX),アバタセプトとプレドニゾロン)の休薬で自然寛解していた。今回発熱と脾腫で再燃し,脾生検による病理組織学的検査でEpstein-Barr virus encorded RNA(EBER)が陰性で,CD3−,CD56+,細胞障害性顆粒(TIA-1)が陽性でありchronic natural killer lyphoproliferative disorderの診断を得た。繰り返し共通の染色体複雑核型異常を認めたため,リンパ系悪性腫瘍と判断し,化学療法を開始するも反応不良で早期に死亡した。RAに合併するMTX関連リンパ増殖性疾患(LPD)はB細胞性が主であり,NK細胞性はまれである。さらにNK細胞性LPDの全てでEBV陽性であり,EBV陰性例は調べた限りで報告はない。</p>
著者
井手 史朗 大原 慎 内田 智之 井上 盛浩 華 見 萩原 政夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.326-330, 2019 (Released:2019-05-08)
参考文献数
11

65歳,男性。膀胱直腸障害と両下肢の感覚障害を自覚し入院となった。入院時,画像検査で胸部すりガラス影を認め,さらに抗サイトメロウイルス(CMV)-IgM陽性を有意と捉え,一連の症状をCMV感染によるものと考え,ステロイドパルス療法および抗ウイルス療法を開始するも,改善を認めなかった。その後,肺野病変が悪化したため気管支鏡検査を行い,生検も追加し,血管内大細胞型B細胞性リンパ腫(IVLBCL)の診断を得た。R-CHOP療法が施行され,自覚症状,採血データは速やかに改善傾向を認め,完全寛解に到った。MTXによる髄注療法を追加し,2年間の寛解を維持している。IVLBCLは9.5%に末梢神経障害を合併することが報告されているが,馬尾神経障害を呈する例は末梢神経障害のうちの14.5%とさらに稀であるとされ,ここに報告する。
著者
萩原 政夫 大原 慎 井手 史朗 内田 智之 井上 盛浩 三田村 敬子
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1459-1463, 2020

<p>当院血液内科における新型コロナウイルス院内感染症の発生に際して,無症状ないし極軽症(発熱のみなど)で軽快した10症例について,イムノクロマト法による抗COVID-19 IgG抗体を測定した。6名において感染証明後11~39日(平均26日目)時点において抗体陰性の結果が得られ,内2名においてPCR検査陰性確認後のそれぞれ約2,4週後に再度のPCR陽性を伴って肺炎を発症した。2回目の陽性または肺炎発症後においては抗体陽性に転じていた。血液疾患など免疫低下状態においては,COVID-19感染後の免疫応答が低いこともある可能性が示唆され,抗体検査を踏まえた慎重な経過観察が重要であると考えられる。</p>