- 著者
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萩原 葉子
栗林 大輔
澤野 久弥
- 出版者
- 水文・水資源学会
- 雑誌
- 水文・水資源学会研究発表会要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.28, 2015
2011年のタイ国チャオプラヤ川の洪水は死者815名、経済被害約400億ドルという大きな被害をもたらした。日本はこれまでタイへの最大の投資国であり、特に浸水被害が大きかった中~下流域の7つの工業団地では被災企業804社のうち日系企業が半数以上の451社を占めた。本稿の目的は、2011年の洪水後、在タイ日系企業の工場がどのように洪水対策を強化したかを調査し、今後の企業防災や地域防災のための課題を明らかにすることである。2015年2月~3月に、バンコク日本人商工会議所会員企業1,605社のうち、製造業の会員企業735社を対象に実施したアンケート調査の結果を2011年の洪水前後の洪水対策の実施率に焦点をあてて、浸水のあった工場と浸水のなかった工場それぞれについて分析した。<br> アンケートについて、コンピュータ・電子製品・光学製品、電気機器、金属製品、その他輸送用機械器具等の業種に属する28工場から回答を得た。そのうち12工場が2011年の洪水で浸水し、平均床上浸水深は約1.7mであった。浸水した工場は中~下流のアユタヤ県あるいはパトムタニ県に位置していた。浸水しなかった残りの16工場は下流のバンコク都、サムトプラカン県、バンコク南西のサムサコン県、東部のプラチンブリ県、南東部のチャチェンサオ県、チョンブリ県、ラヨン県に位置していた。<br> 分析の結果、企業防災・地域防災を強化していくうえでの今後の課題が明らかになった。2011年に浸水したアユタヤ県、パトムタニ県に位置する12工場は従業員の安全確保や浸水を防ぐ構造物の築造、洪水関連情報の入手、操業の早期復旧、防災計画や防災を管轄する部署の設置等の対策を強化した事がわかった。しかし、自社の生産拠点の多角化、事務所・工場等の生産拠点の確保、取引先との災害時の協力体制の構築、といった事業継続に必要な社内外との協力を伴う対策については、実施率が低いことがわかった。一方、2011年に浸水しなかった工場も非常時の連絡網の整備や指揮命令系統明確化については洪水後に6割以上の工場が実施し、敷地の盛土・防水壁の築造等や基幹業務システムのバックアップ対策の実施率も上がったが、他の対策の実施率は未だ低く、ほとんどの対策について5割以下であることがわかった。今後さらに業種、事業規模、取引先との関係等によって洪水対策実施率に違いがあるかを分析する。