著者
田中 久雄 落合 清茂
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

平成元年度〜3年度の3ケ年において、主に福島県鮫川村から塙町東部にわたる地域と、郡山市東部の宇津峰周辺の地域に分布する深成岩類と変成岩類の地質調査を行い、地質図を作成すると共に岩石の記載を行った。鮫川村から塙町東部にわたる地域には片状黒雲母角閃石ト-ナル岩、黒雲母花崗閃緑岩類、竹貫変成岩類が錯綜して分布する。それらの岩石は棚倉構造線に近づく従い、石英の細粒化・波動消光・伸長、斜長石の変形双晶・波動消光、黒雲母のキンクバンド・波動消光などの変形組織を呈する。この変形組織は棚倉構造線東縁部に近接した岩石で最も著しく、構造線から離れるに従い無変形組織の岩石に漸移しており、後者の岩石が生成した約1億年前には棚倉構造線がすでに活動したことを示している。塙町湯船の、石川深成岩体の閃緑岩と竹貫変成岩類の角閃岩が接する露頭において、角閃岩の部分融解により多数の細脈が生成した現象を見いだし、この露頭の岩石の詳細な記載を行った。角閃岩中の細脈は組織・鉱物組合せ・化学組成において、はんれい岩質から閃緑岩質・ト-ナル岩質・トロニエム岩質へと連続して変化しており、角閃岩の部分融解により生成した溶液が種々の程度に分泌・分化したと推定される。郡山市東部の宇津峰付近にはユ-クセン石、モナズ石、ゼノタイム等の希元素鉱物を含むペグマタイト脈が分布する。このペグマタイト脈をもたらした深成岩類について調査・研究を行い、深成岩類のモ-ド組成、主要・微量化学組成、造岩鉱物の化学組成を明らかにした。含希元素鉱物ペグマタイトをもたらしたと推定されている新期斑状両雲母花崗岩類は、阿武隈山地の深成岩類の中では最もSiO_2に富み、Sタイプに類似した岩石学的性質を示す。
著者
落合 清茂 田切 美智雄 田中 久雄
出版者
資源地質学会
雑誌
資源地質 (ISSN:09182454)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.291-300, 1993-08-31
参考文献数
20
被引用文献数
1

釜石鉱山の日峰鉱床と新山鉱床におけるスカルン帯のスカルン,およびザクロ石と単斜輝石について,コンドライトで規格した希土類元素(REE)パターンを示し,スカルン帯の生成過程でのREEのの挙動を解析した.スカルン帯は閃緑岩類と石灰岩との間に発達し,全岩のREEは閃緑岩側から石灰岩へと減少する.スカルンのREEは閃緑岩類に由来し,熱水溶液からの供給はほとんどなかったものと考えられる,単斜輝石は負のEu異常を示し,その大きさは閃緑岩側から石灰岩へと増大する.ザクロ石のEu異常は正まあたは負と大きく変動する.鉱物のEu<SUP>+2</SUP>/Eu<SUP>+3</SUP>比を決める主な要因は酸素フュガシティー(fo<SUB>2</SUB>)であり,単斜輝石の負のEu異常はfo<SUB>2</SUB>の減少と共に大きくなり,ザクロ石はEu<SUP>+3</SUP>をEu<SUP>+2</SUP>よりも優先的に取り込む.熱水溶液のfo<SUB>2</SUB>は石墨を含む石灰岩との交代反応により次第に減少した.ザクロ石のEu異常の大きな変化は,高いfo<SUB>2</SUB>をもった初生の熱水溶液と低いfo<SUB>2</SUB>の石灰岩との反応によって生じたfo<SUB>2</SUB>の変動の反映である.