著者
仲島 佑紀 藤井 周 坂内 将貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100654, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】鏡視下肩腱板修復術後の早期後療法における腱板機能エクササイズとして等尺性運動が選択され、ホームエクササイズとしても指導することが多い。しかし臨床上、適切な運動負荷量の設定が困難であり、運動時に肩関節周囲筋の過活動など運動習得に難渋する症例を経験する。そのような症例においては前腕や手関節運動を用いた腱板筋群の賦活を行っているが、運動様式の違いによる腱板筋群の筋活動については明らかとなっていない。そこで本研究では肩関節外旋等尺性運動に着目し、運動様式の異なる3種類の腱板機能エクササイズにおける筋活動について、表面筋電図学的に検討することを目的とした。【方法】対象は肩関節に既往のない健常男性17名(25.5±2.1歳)の非利き手側17肩とした。測定筋は棘下筋、小円筋、三角筋前・後部線維とした。測定機器はNoraxon社製Myosystem1400の表面筋電図を使用し、サンプリング周波数は1000Hzに設定した。電極は十分な皮膚処理後に貼付した。測定肢位はすべての運動課題において、外転装具を用いて肩関節外転位、前腕回内外中間位、手関節掌背屈中間位で肘を机上に乗せた坐位とした。運動課題は3種類とし、試行回数は5秒間を3回とした。<1>肩関節外旋等尺性運動(以下、外旋);自家製pulleyを用いて、0.5kg重錘にて肩関節内旋方向の牽引力が加わるよう設定した。抵抗部位を手関節とし、保持させた。<2>前腕回外反復運動(以下、回外);輪ゴムの一方を固定し、一方を母指に掛け、前腕回内外中間位から最大回外位までの反復運動を行わせた。<3>手関節背屈反復運動(以下、背屈);輪ゴムを母指と示指・中指で把持し、手関節掌背屈中間位から最大背屈位までの反復運動を行わせた。<2>と<3>については最大回外位、最大背屈位で輪ゴムが一定の張力となるよう設定し、メトロノームを用いて1秒に1回のリズムで運動を行わせた。解析区間は5秒間のうち中間3秒間とした。筋活動の解析は、各筋の最大等尺性収縮を測定し、得られた筋活動最大値から%MVCを算出した。解析区間で得られた%MVC積分値を筋活動量とし、各運動課題の3試行の平均値を算出した。統計学的解析には2元配置分散分析を用い、各運動様式および各筋活動量を比較検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理委員会で承認を得た後に行われた(承認番号2012019)。被験者に対して倫理委員会規定の同意書を用いて研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】各運動課題における筋活動量(%MVC)は、外旋において棘下筋19.6±11.5、小円筋12.0±5.3、三角筋前部2.5±1.4、三角筋後部3.3±1.5、回外において棘下筋22.1±11.2、小円筋14.7±6.0、三角筋前部3.9±2.9、三角筋後部4.3±2.2、背屈において棘下筋18.7±10.1、小円筋13.4±6.2、三角筋前部3.2±2.4、三角筋後部3.8±2.1であった。2元配置分散分析から各筋の筋活動量に主効果が認められ(p<0.01)、各運動様式には主効果が認められなかった(p=0.19)。交互作用は認められなかった(p=0.96)。【考察】本研究結果は、最も高値の筋活動量が棘下筋であり、次いで小円筋、三角筋後部、三角筋前部の順となり、各運動様式においてその傾向が同様であったことを表している。これは本研究運動課題における低負荷外旋等尺性運動と回外や背屈を用いた腱板機能エクササイズがそれぞれ同様の運動効果をもたらす可能性を示唆するものと考える。林らは肩関節ROMエクササイズとしての腱板等尺性収縮の有効性を報告し、また石谷らは、術後早期の腱板機能エクササイズについて、鏡視下腱板修復後のRSD様症状の発生予防や挙上角度の早期改善に有利であること、装具固定期間の等尺性収縮を用いた早期後療法と術後1ヶ月後にエクササイズを開始した群において腱骨接合部癒合不全率に差がなかったと報告している。先行研究からも後療法における等尺性運動は有効であると考える。しかし臨床上、外旋等尺性運動においては運動強度を定めることが困難であり、組織修復期間の過剰な筋収縮のリスクなどを考慮する必要がある。そのため早期後療法として低負荷での筋収縮を行わせるうえで、運動課題が容易である前腕や手関節を用いた腱板機能エクササイズの有用性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】腱板機能エクササイズについて表面筋電図学的検討を行ない、各運動様式で筋活動が同様の傾向を示したことは、本研究結果が臨床上、症例に応じた運動療法選択の一助となる可能性が示唆された。
著者
倉坪 亮太 藤井 周 渡邊 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0940, 2012

【はじめに、目的】 成長期は骨の長径発育に対し筋の発育の遅延が生じるため,筋柔軟性が低下しやすいと考えられている.また成長期スポーツ選手の下肢筋柔軟性は,スポーツ障害発生と関連が深いことが鳥居と中沢らにより報告されており,スポーツ障害発症の要因の一つと考えられている. 成長期サッカー選手では,キック動作における動作特性から,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋等の筋柔軟性が低下することが牧野ら,中沢らにより報告されている.また袴田らはキック動作時の身体重心の後方化が,軸足に成長期スポーツ障害を有する選手の特徴の一つと報告している.しかし軸足筋柔軟性とキック動作の持つ動作特性との間の因果関係について客観的に明らかにした報告は少ない. そこで本研究は,軸足筋柔軟性とキック動作を解析し,成長期サッカー選手の筋柔軟性とキック動作の関連を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は,少年サッカーチームに所属する競技経験24ヶ月以上の小学5年生37名(年齢10.2±0.4歳,身長1.39±0.06m,体重33.1±5.5kg,経験歴50.3±18.9ヶ月)とした. 筋柔軟性は,鳥居の方法を一部改変し,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,腓腹筋,ヒラメ筋を測定した.測定は熟練した理学療法士1名が行った. キック動作の撮影は,ハイスピードカメラEX-F1(CASIO社製)を4台使用して行った.身体重心位置を算出するためのマーカー貼付位置は,横井らに従い被験者の全身21ヶ所に反射マーカーを貼付した.キック動作はゴール内に設置した標的に命中させるように全力でインステップキックを実施した.キック動作の採用条件は,ボールが標的に命中し,かつキック動作後に被験者がキック動作を自己評価し,被験者本人が満足した試行を選択した.撮影は3回撮影が実施できた後に終了した. 解析は,撮影された3試行のうち,インパクトが良好であったものを1試行抽出し,3次元ビデオ動作解析システムFrame-DIAS IV(DKH社製)を用いて身体重心位置を算出した.重心位置の指標として,身体重心位置と軸足外果の距離を「身体重心距離」と定義し,算出された身体重心距離からキック動作中の軸足踵接地時,ボールインパクト時,および最大身体重心距離時の3時点を抽出した. 統計はSPSS11.0J for Windowsを使用し,筋柔軟性と軸足踵接地時,ボールインパクト時,最大身体重心距離時の3時点の身体重心距離の関係をSpearmanの順位相関係数を用い検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者ならびに保護者に書面にて実験協力を依頼し同意を得た.なお本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得ている.【結果】 軸足ハムストリングスの筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=0.42*),ボールインパクト時(r<sub>s</sub>=0.55**),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=0.39*)の全てにおいて有意な正の相関が認められた(* p <0.05,** p <0.01).軸足ヒラメ筋の筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=-0.39*),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=-0.39*)において有意な負の相関が認められた(* p <0.05).その他の筋柔軟性と身体重心距離には有意な相関は認められなかった.【考察】 今回の結果から,キック動作時の身体重心距離が長くなるほど,軸足のハムストリングスの筋柔軟性が低下することが考えられた.キック動作時の身体重心距離の延長は身体重心の後方化を示す.身体重心の後方化は,意識的に強いボールを蹴る時に発生しやすく,骨盤の後傾・体幹の伸展が増加した"後傾"と呼ばれる姿勢となる.後傾でのキック動作は,体幹の伸展動作が強調されるため,主として体幹や下肢後面の筋群が過活動となり,このような活動の繰り返しは筋柔軟性の低下が惹起するものと推測される. また身体重心位置が後方化したキック動作は,膝関節伸展モーメントが増加し,大腿四頭筋が過活動となることが報告されている.成長期の大腿四頭筋による脛骨粗面への牽引ストレス増加は,脆弱な成長軟骨に侵害ストレスを与え,オスグッドシュラッダー病の発症を容易にすることが考えられている(鈴木ら).今回の結果から軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時身体重心位置の後方化に関連が認められたため,軸足ハムストリングスの筋柔軟性に着眼していくことが,成長期スポーツ障害の予防につながると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 成長期サッカー選手において,軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時の身体重心位置の後方化に関連が認められた.本研究で得られた知見は,競技特性が筋柔軟性に与える影響の特徴を反映しており,成長期スポーツ障害発症予防における競技特性の観点による戦略構築を実施するための一助となると考えられる.