著者
倉坪 亮太 渡邊 裕之 増間 祥弘 吉本 真純 宗像 良太 高澤 祐治
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11740, (Released:2020-09-09)
参考文献数
25

【目的】成長期男子サッカー選手の下肢筋柔軟性と関節弛緩性の特徴を明らかにすること。【方法】対象は中学1 年男子サッカー部員のうち,過去の身長データが得られ,疼痛のない33 例とした。身長,体重, 下肢筋群の筋柔軟性(ハムストリングス,大腿四頭筋,腓腹筋),関節弛緩性を測定した。身長データからAge of Peak Height Velocity(以下,APHV)を算出し,APHV と暦年齢の差を成熟度指数とした。成熟度指数が–6 ~0 ヵ月の者をG1,0 ~6 ヵ月後の者をG2,6 ~12 ヵ月後の者をG3 に群分けし,筋柔軟性,関節弛緩性を3 群間で比較した。【結果】GI 群9 例,G2 群12 例,G3 群12 例であった。軸脚腓腹筋の筋柔軟性はG1 がG2 と比較して,関節弛緩性スコアはG1 がG3 と比較して有意に低かった。【結論】APHV 前の軸脚腓腹筋の筋柔軟性と関節弛緩性は APHV 後よりも低かった。
著者
津村 一美 渡邊 裕之 橋本 昌美 嘉治 一樹 高橋 美沙 重田 暁 千葉 一裕 月村 泰規 見目 智紀 高平 尚伸
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0965, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】棘上筋の筋活動を高める方法として,従来からEmpty can training(ECT)が実施されている。ECTは棘上筋が働きやすい肢位で実施されるため,棘上筋に対して効果的なトレーニング方法であり,他の棘上筋トレーニングと比較しても,棘上筋のより高い筋活動が得られると報告されている。しかし,これらの報告の多くは横断的研究に基づいており,ECTの介入効果を検証した縦断的研究は少ない。そのため臨床現場では,経験則に基づいた治療方法として対象者に施行しているのが現状である。従来,棘上筋の機能評価として肩甲骨面挙上筋力の測定が実施されてきたが,近年では棘上筋の正確な評価が困難であると報告されている。一方で高橋らの報告より,棘上筋筋活動と棘上筋筋厚との間に相関関係があり,筋厚測定が筋活動を反映することが明らかになっている。そこで,本研究は筋厚を測定することにより,ECTが棘上筋筋活動に及ぼす影響を検証し,介入効果を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は肩関節疾患の既往がない成人男性15名(年齢20.8±0.9歳)の30肩とした。対象者の年齢,身長,体重,利き手,スポーツ歴を聴取した。トレーニング介入前に棘上筋筋厚,最大等尺性肩甲骨面挙上筋力を測定した。対象者は週5日,6週間にわたりECTを実施した。トレーニング介入後にトレーニング介入前と同様の項目を測定した。棘上筋筋厚測定は超音波画像診断装置(SSD-4000,ALOKA)を用いて行った。肩甲棘長を100%とし,肩甲棘基部から外側へ10%の部位を測定位置とした。測定位置において,プローブを肩甲棘に対して垂直に固定し,棘上筋の短軸画像を描出した。浅層筋膜と深層筋膜との最大距離を棘上筋筋厚として測定した。棘上筋筋厚は各2回測定し,平均値を採用した。測定肢位は座位とした。測定条件は肩関節内旋位,肩甲骨面挙上30°にて他動保持時とセラバンド負荷時の2条件とした。なお,2kg負荷はセラバンドを用いて手関節近位部に負荷した。最大等尺性肩甲骨面挙上筋力測定は肩関節内旋位,肩甲骨面挙上30°での肢位にて測定した。検者はHand-held dynamometer(μ-tas F-1,ANIMA)のセンサーを手関節近位部に固定し,対象者は3秒間の最大等尺性収縮を肩甲骨面上で2回発揮し,平均値を採用した。ECTは,手関節近位部にセラバンドを固定し,肩関節内旋位にて肩甲骨面0°~30°挙上位までの反復運動を実施した。1回の運動を2秒で完遂し,20回を1セット,インターバルを1分として,1日に3セットを実施した。検者は週2日,代償動作が生じずに適切な肢位でトレーニングを実施できているかを確認した。統計学的解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,棘上筋筋厚および最大等尺性肩甲骨面挙上筋力をトレーニング介入前後で比較した。なお,すべての解析において有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は同学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2012-014)。なお,対象者には書面にて同意を得た。【結果】棘上筋筋厚は他動保持時,セラバンド負荷時の条件において,トレーニング介入前と比較し,トレーニング介入後に有意に増大した(p<0.01)。最大等尺性肩甲骨面挙上筋力はトレーニング介入前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05)。【考察】先行研究より,筋厚は筋活動を反映すると報告されていることから,トレーニングによる棘上筋筋厚の増大は棘上筋筋活動の増加を示唆していると考えられた。しかし,最大等尺性肩甲骨面挙上筋力に変化は認められなかった。最大等尺性肩甲骨面挙上は,運動時に三角筋による張力加重が生じるため棘上筋の筋張力に対する寄与は少ないと報告されている。そのため,最大等尺性肩甲骨面挙上筋力測定は,棘上筋の機能向上を反映する指標としては不十分であり,トレーニング介入前後で変化が認められなかったと考えられた。今回の研究では,対象者を健常成人男性とし,ECTの介入効果を検証した。しかし,実際に臨床で棘上筋トレーニングを実施する対象は,腱板断裂や反復性脱臼等の疾患を有する者である。そのため,今後は,実際に棘上筋の機能を高める必要のある対象者に対しトレーニングの効果を検証していく必要がある。また,ECTと同様に,従来から実施されてきたFull can trainingとの比較を検討し,臨床現場において,それぞれのトレーニングをどのような特徴のある患者に適応させるのかを検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】ECTによる治療介入に対して,棘上筋筋活動量の向上が認められ,理学療法としてのエビデンスを構築する一助となった。
著者
大野 恵一 村田 龍宣 近藤 篤 尾上 雅英 松本 公佑 渡邊 裕之 星田 唯史 眞下 惠次 平 大樹 角本 幹夫 菅野 清彦 本多 伸二
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.367-372, 2020-07-10 (Released:2021-07-10)
参考文献数
6

Albumin-bound paclitaxel (Abraxane®) is a lyophilized preparation that takes time to dissolve. Previously, we used a metal needle for dissolving Abraxane®. We then transitioned to a side hole-type plastic needle to prevent accidental needle-stick injuries. There is no literature regarding the ideal needle type, according to the material it is made of, for dissolving Abraxane®, and the effect on the characteristics of Abraxane® after dissolving with each needle is unknown. Therefore, we investigated the efficacy of the plastic needle for dissolving Abraxane®. The formulation was dissolved in three ways: by injecting saline for 30 s with a metal needle (M30s), injecting saline for 15 s with a plastic needle (P15s), and injecting saline for 30 s with a plastic needle (P30s). Each group was kept at rest for 5 min after saline infusion, and then the dissolution time was estimated. The median dissolution time was 82.5 (15 - 210) s for M30s, 75 (30 - 135) s for P15s, and 45 (15 - 120) s for P30s. P30s had a significantly shorter dissolution time than M30s (P < 0.01) and P15s (P < 0.05). There was no significant difference in the dissolution time between M30s and P15s; however, P15s tended to have a shorter dissolution time than M30s. We measured the diameter of Abraxane® particles after dissolving with each needle and found that the diameter was almost the same. Therefore, a side hole-type plastic needle might reduce the dissolution time compared with a metal needle without affecting the characteristics of Abraxane®.
著者
高橋 美沙 渡邊 裕之 嘉治 一樹 津村 一美 橋本 昌美 高平 尚伸
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102030, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節の安定性には,inner musclesである腱板とouter musclesである浅層筋群との力のバランスが重要であり,このバランスが破綻すると肩関節の不安定性を生じさせ,肩峰下インピンジメント症候群などの種々の障害を引き起こす(筒井ら,1992).特に,棘上筋は上腕骨頭を求心位に保つ機能を有しており,動揺性肩関節患者では棘上筋が正常な機能を果たしていないことが報告されている(河野,1986).したがって,棘上筋を強化すること(棘上筋トレーニング)は肩関節安定性の向上を目的とした肩関節障害予防として重要である.従来,棘上筋トレーニングの効果判定法として肩甲骨面挙上筋力測定が行われてきた.しかし,肩甲骨面挙上筋力測定は三角筋の影響を受けやすく,棘上筋単独で筋力を評価することは困難である(Reinold et al,2007).一方,超音波画像診断装置を用いた筋厚測定は技術的に簡便かつ非侵襲性であるため棘上筋トレーニングを評価する方法として着目されている(二木ら,2001).棘上筋筋厚はMRIで測定された棘上筋断面積と相関することが報告されている(Yi et al,2012).また,我々が事前に実施した実験の未報告データにおいて,棘上筋筋厚と筋活動との相関が認められ,筋厚測定によって筋活動を推定することが可能である.棘上筋トレーニングの実施効果を縦断的に検討した報告は少なく,棘上筋トレーニングの効果については不明な点が多い.本研究の目的は,超音波画像診断装置を用いて棘上筋筋厚を測定することにより,棘上筋トレーニングが棘上筋筋活動に及ぼす影響について検討することである.【方法】対象は健常成人男性9 名の18 肩とした.肩関節疾患および外傷の既往歴,肩関節に疼痛を有する者は対象から除外した.棘上筋トレーニングの方法は,イエローセラバンド(2kg負荷)を使用し,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上0°〜30°までの反復運動とした.回数は20 回× 3 セットとした.棘上筋筋厚は超音波画像診断装置(ProSound,SSD-4000,ALOKA)を使用して測定された.超音波画像の撮像位置は,肩甲棘長を100%とし,肩甲棘基部から10%,50%の部位に15MHzのリニアプローブを肩甲棘に対して垂直にあてた.筋厚は,棘上筋浅層筋膜と深層筋膜との間の距離とした.試行動作は,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上30°の肢位にて,他動保持時,セラバンド2kg負荷時,最大等尺性収縮時の3 条件とした.実験手順を以下に示す.トレーニング開始前に棘上筋筋厚を測定しベースライン値とした.その後,対象者は棘上筋トレーニングを週に5 回の頻度で6 週間実施した.トレーニング終了後,再度棘上筋筋厚を測定した.統計学的解析として,各条件における棘上筋筋厚をWilcoxonの符号付順位和検定を用いてトレーニング前後で比較した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:2012-014).本研究実施に際し,対象者に研究内容に関して説明し,書面にて同意を得た.【結果】肩甲棘長の10%部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前0.28 ± 0.16cm,介入後0.41 ± 0.14cm)およびセラバンド2kg 負荷時(介入前0.61 ± 0.26cm,介入後0.80 ± 0.22cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).50% 部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前1.76 ± 0.19cm,介入後1.89 ± 0.12cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).【考察】肩甲棘長の10%および50%の部位における棘上筋筋厚は,6 週間の棘上筋トレーニング後の他動保持時,セラバンド2kg負荷時において増加した.Yiらは,棘上筋筋厚と筋断面積が相関することを報告している.また,我々が実施した実験の未報告のデータによると,棘上筋筋厚と筋活動との間に相関が認められたことから,筋厚の増加は筋活動の増加を反映している可能性がある.したがって,6 週間の棘上筋トレーニングは筋活動を増加させる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】6 週間の棘上筋トレーニングは棘上筋筋厚を増加させた.したがって,本研究で実施した棘上筋トレーニングは肩関節障害予防を目的とした棘上筋強化法として有用である可能性がある.また,超音波画像診断装置を用いた棘上筋筋厚測定は,棘上筋筋活動を非侵襲的に評価でき,棘上筋トレーニングの効果判定法として有用である可能性が示唆された.
著者
永田 健一郎 辻 敏和 村岡 香代子 米滿 紘子 久光 莉瑛 舞 彩華 橋本 昂介 月野木 祥子 渡邊 裕之 金谷 朗子 江頭 伸昭
出版者
一般社団法人 日本医薬品情報学会
雑誌
医薬品情報学 (ISSN:13451464)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.83-90, 2020-08-31 (Released:2020-09-18)
参考文献数
10

Objective: In this study, we aimed to develop a new system that can centrally manage and share drug information, and also evaluated its usefulness.Methods: Using PHP v5.3.3 as the programming language and MySQL v5.1.73 as the database, we built a web application that constantly runs on the server. Various drug information was registered in this system, and its usage status was analyzed based on the access log.Results: The system was accessed 31,678 times during the survey period (October 1 to December 31, 2019). The information sought included: basic drug information (ordering category of drugs, dosage forms and strengths, drug price, etc.) (13,962 times, 44.1%),question and answer records (7,221 times, 22.8%), pharmaceutical documents (package inserts, interview forms, documents regarding compatibility of injections, etc.) (7,172 times, 22.6%), notifications regarding new and discontinued drugs (727 times, 2.3%), websites (676 times, 2.1%), PreAVOID reports (663 times, 2.1%), pharmaceutical safety information (525 times, 1.7%), information regarding off-label drug use (409 times, 1.3%), and bibliographic information and guidelines (323 times, 1.0%). Among the users (62 pharmacists), 59.7% accessed the system only via a personal computer (PC), 38.7% via a PC and smart device (smartphone or tablet),and 1.6% via only a smart device. The median number of accesses to this system was significantly higher in pharmacists in charge of wards (190 [9-1,435]) or drug information (3,750 [2,957-5,548]) than dispensing pharmacists (68.5 [3-193]) (p<0.001).Conclusion: This system allowed the central management and sharing of various drug information on the web, permitting access regardless of device type. Since this system was frequently used by pharmacists in charge of wards or drug information, this system was considered particularly useful in hospital pharmacist ward services and drug information services.
著者
佐野 梓 末次 王卓 秦 晃二郎 柊迫 美咲 片山 美幸 田中 瑠美 田島 壮一郎 グリム 理恵子 辻 敏和 渡邊 裕之 金谷 朗子 増田 智先
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.229-235, 2018-05-10 (Released:2019-05-10)
参考文献数
16
被引用文献数
4

We have disclosed 14 standardized laboratory data on out-of-hospital prescriptions since June 2015. In this study, we analyzed questions on out-of-hospital prescriptions related to laboratory data over 2 years. There were 229 prescription questions related to laboratory data (3.4% of the total prescription questions), and 79.5% of these were related to renal function. Among renal function-associated laboratory data, serum creatinine was used in most cases. The rate of prescription change after prescription questions was 66.5% for laboratory data associated with renal function, which was significantly higher (P < 0.001) than the 25.5% for other types of data. Furthermore, the clear description of dose reduction requirements on a package insert was confirmed to be one of the common factors for renal excretory drugs. Therefore, it is important to provide renal function laboratory data to facilitate the appropriate adjustment of out-of-hospital prescription doses. In addition, to enable appropriate dose adjustments using laboratory data, the description on the drug package insert should make it easy for pharmacists who are auditing prescriptions to make appropriate judgments.
著者
倉坪 亮太 藤井 周 渡邊 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0940, 2012

【はじめに、目的】 成長期は骨の長径発育に対し筋の発育の遅延が生じるため,筋柔軟性が低下しやすいと考えられている.また成長期スポーツ選手の下肢筋柔軟性は,スポーツ障害発生と関連が深いことが鳥居と中沢らにより報告されており,スポーツ障害発症の要因の一つと考えられている. 成長期サッカー選手では,キック動作における動作特性から,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋等の筋柔軟性が低下することが牧野ら,中沢らにより報告されている.また袴田らはキック動作時の身体重心の後方化が,軸足に成長期スポーツ障害を有する選手の特徴の一つと報告している.しかし軸足筋柔軟性とキック動作の持つ動作特性との間の因果関係について客観的に明らかにした報告は少ない. そこで本研究は,軸足筋柔軟性とキック動作を解析し,成長期サッカー選手の筋柔軟性とキック動作の関連を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は,少年サッカーチームに所属する競技経験24ヶ月以上の小学5年生37名(年齢10.2±0.4歳,身長1.39±0.06m,体重33.1±5.5kg,経験歴50.3±18.9ヶ月)とした. 筋柔軟性は,鳥居の方法を一部改変し,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,腓腹筋,ヒラメ筋を測定した.測定は熟練した理学療法士1名が行った. キック動作の撮影は,ハイスピードカメラEX-F1(CASIO社製)を4台使用して行った.身体重心位置を算出するためのマーカー貼付位置は,横井らに従い被験者の全身21ヶ所に反射マーカーを貼付した.キック動作はゴール内に設置した標的に命中させるように全力でインステップキックを実施した.キック動作の採用条件は,ボールが標的に命中し,かつキック動作後に被験者がキック動作を自己評価し,被験者本人が満足した試行を選択した.撮影は3回撮影が実施できた後に終了した. 解析は,撮影された3試行のうち,インパクトが良好であったものを1試行抽出し,3次元ビデオ動作解析システムFrame-DIAS IV(DKH社製)を用いて身体重心位置を算出した.重心位置の指標として,身体重心位置と軸足外果の距離を「身体重心距離」と定義し,算出された身体重心距離からキック動作中の軸足踵接地時,ボールインパクト時,および最大身体重心距離時の3時点を抽出した. 統計はSPSS11.0J for Windowsを使用し,筋柔軟性と軸足踵接地時,ボールインパクト時,最大身体重心距離時の3時点の身体重心距離の関係をSpearmanの順位相関係数を用い検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者ならびに保護者に書面にて実験協力を依頼し同意を得た.なお本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得ている.【結果】 軸足ハムストリングスの筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=0.42*),ボールインパクト時(r<sub>s</sub>=0.55**),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=0.39*)の全てにおいて有意な正の相関が認められた(* p <0.05,** p <0.01).軸足ヒラメ筋の筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=-0.39*),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=-0.39*)において有意な負の相関が認められた(* p <0.05).その他の筋柔軟性と身体重心距離には有意な相関は認められなかった.【考察】 今回の結果から,キック動作時の身体重心距離が長くなるほど,軸足のハムストリングスの筋柔軟性が低下することが考えられた.キック動作時の身体重心距離の延長は身体重心の後方化を示す.身体重心の後方化は,意識的に強いボールを蹴る時に発生しやすく,骨盤の後傾・体幹の伸展が増加した"後傾"と呼ばれる姿勢となる.後傾でのキック動作は,体幹の伸展動作が強調されるため,主として体幹や下肢後面の筋群が過活動となり,このような活動の繰り返しは筋柔軟性の低下が惹起するものと推測される. また身体重心位置が後方化したキック動作は,膝関節伸展モーメントが増加し,大腿四頭筋が過活動となることが報告されている.成長期の大腿四頭筋による脛骨粗面への牽引ストレス増加は,脆弱な成長軟骨に侵害ストレスを与え,オスグッドシュラッダー病の発症を容易にすることが考えられている(鈴木ら).今回の結果から軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時身体重心位置の後方化に関連が認められたため,軸足ハムストリングスの筋柔軟性に着眼していくことが,成長期スポーツ障害の予防につながると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 成長期サッカー選手において,軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時の身体重心位置の後方化に関連が認められた.本研究で得られた知見は,競技特性が筋柔軟性に与える影響の特徴を反映しており,成長期スポーツ障害発症予防における競技特性の観点による戦略構築を実施するための一助となると考えられる.