著者
古澤 之裕 藤原 美定 趙 慶利 田渕 圭章 高橋 昭久 大西 武雄 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.118, 2010 (Released:2010-12-01)

目的:超音波は現代医療において診断のみでなく,がん治療にも用いられている.一定強度以上の超音波を細胞に照射することで,キャビテーションによる細胞死を引き起こすことが観察されてきた. 細胞死誘発の作用機所の一つとしてDNA損傷が考えられており,これまでチミン塩基損傷やDNAの一本鎖切断の生成が認められ,超音波照射後に発生するフリーラジカル,残存する過酸化水素の関与が報告されている.放射線や抗がん剤は,DNAを標的として細胞死を引き起こすことが知られており,損傷の種類,損傷誘発・修復機構等多数の報告がなされているが,超音波に関する知見は非常に限定的で依然不明な点が多い.本研究では,超音波により誘発されるDNA損傷と修復について検討を行った. 方法:ヒトリンパ腫細胞株に、周波数1 MHz、PRF 100 Hz、DF 10%の条件で超音波照射した。陽性対照としてX線照射した細胞を用いた.DNA損傷を中性コメット法,gammaH2AX特異的抗体を用いて検討した.また修復タンパクの核局在を免疫染色法にて検討した.ヒドロキシラジカルの産生をスピン捕捉法にて、細胞内活性酸素をフローサイトメトリーにて検討した。DNA損傷応答経路の阻害剤としてKu55933、Nu7026を適宜用いた. 結果:超音波が放射線と同様、照射強度・時間依存的にgammaH2AXを誘導し,コメットアッセイにおいてもDNA損傷が検出された。修復タンパクの核局在が同時に観察され,照射後時間経過による損傷の修復が確認された.キャビテーションを抑制すると超音波によるgammaH2AXは観察されず、細胞死も有意に抑制された。一方で細胞内外のROSの産生を抑制しても,gammaH2AXの有意な抑制は観察されなかった。超音波によるgammaH2AXはKu55933単独処理のみならず,Nu7026の単独処理によっても抑制された. 結論:超音波がキャビテーション作用によりDNA二本鎖切断を引き起こすことが明らかとなった.また,超音波によってもDNA損傷の修復シグナルの活性化が起こり,DNA-PKが重要な役割を担っていることが予想される.